魔導具選び
冒険者、それはこの世界で最も稼げると言われる職業。
ギルドに届く探索や討伐など様々な依頼をこなし、名誉と報酬を得る唯一無二の職。
死と隣り合わせの危険な職であるが故に、その報酬は他の類を見ないほどに高額。
訳あって一年以内に二百五十億稼がないといけない僕にはうってつけなのだ。
先に、僕らの計画をまた話しておこうと思う。
僕に残された寿命は、この世界では残り一年。
一年以内にこの世界から抜け出すことが出来なければ、僕の身体はこの形を保てずに死んでしまう。
原因は、体内のエーテル器官。
こっちに転移する直前に代償変換というスキルを使って作成したその器官は、あると色々便利なのだが、その作成コストとして僕の身体の寿命を無意識のうちに使ってしまったのだ。
その結果、残った寿命は約三年分。
そこから、穴掘りやら勉強やらに費やして、残り一年。
本当はもう四ヶ月分くらいあるはずだったんだけど、まあ諸事情あって無くなってしまった。
この世界から元の世界に帰るためには、神様から手渡されたチケットが必須。
僕はそれを使ってしまったので新しく手に入れなきゃならないが、その価値は二百五十億と、まあ馬鹿げたくらいになっていた。
三年の寿命と希少性のせいでそこまで価値がつり上がってしまったチケットだが、背に腹はかえられない、僕はそいつを手に入れる他ない。
僕と暁音さんの二人で寿命の残り一年で二百五十億を稼ぎ切る、これが当面の目標だ。
「いい、悠里くん。寿命に関しては詳しいことは分からないから、なるべく残して帰った方がいいに決まってる。だから、なるべく早く二百五十億稼ぎきって、帰る。タイムアタックと言ってもいいね」
暁音さんの言う通り、元の世界に帰ったとて寿命が本当に元に戻るのかとかは、完全に不明瞭。
だから、あくまで僕らは残った寿命が四十倍されるという仮説にかけているだけだ。
仮説にフルベットというのは不安になるが、でも、このまま異世界で死ぬのを待つだけなんて嫌だから。
「四ヶ月分遅れは出たけど、計画は変わらないよ。冒険者として二人で全力で稼ぐ。目指すは二百五十億」
二百五十億。
いくら冒険者だとしてもなかなか厳しい額だが、僕らはそれを稼ぎ切るしかないのだ。
とまあそんなわけで、冒険者として動き始めた一日目。
暁音さんと二人、歩いているのはダンジョンでも戦場でもなくて……スクルドの街中。
時間もないからとっとと依頼をこなせというのはご最もだが、今のままでは依頼に立ち向かうことなんてとても。
だから、初日は準備の日にすることに。
「さてと、とりあえず着いたよ。ここが、この街唯一の上級魔導具店」
暁音さんに連れられてやってきたのは、魔導具の店。
「なんて言うかこじんまりとしてるんだね……」
街の端の方に位置するこの店は、見た感じ風貌は民家と変わらない。
魔導具の、しかも一級クラスのとなればもっと派手に装飾とかあってもいいのにって思うが。
「このレベルの職人さんだと、集客より自分がいかに集中できるかの方が優先されるもの。こだわりの逸品を作るために何時間と作業する訳だし、誰かのためより自分のための方が、結果として良いものができるんじゃないかしら」
「そういうものなのかな」
以前、三級レベルの魔導具を買いに行った時には小物屋さんみたいなポップな店構えだったけど、一級レベルだと話が変わってくるのだろう。
職人さん、一体どんな人なんだろうか。
「ごめんください」
暁音さんの後を追って、僕は店の中へ入る。
薄暗い店内はどことなくホコリっぽく、あまり手入れがされていないのが伺える。
入って真正面、飛び込んでくるのはガラス張りのショーケース。
中にあるのは、もちろん魔導具。
キラキラと光るそれは、店内との対比も相まって、まるで極上の宝石かのように思わされる。
その輝きに目を奪われ見蕩れていると、奥から男性が。
「ああ、嬢ちゃん。またか」
ボサボサ髪で猫背の、二メートル近くありそうな痩せ型の彼。
見たところ、四、五十歳と言ったところだろうか。
「お世話になってます〜」
「お世話だぁ? それはこっちのセリフだ。嬢ちゃんのお陰で二年は働かなくていいくらいに世話になってるよ」
「えっと、もしかして店主さん……?」
「そういう君は、初めて見る顔だな」
目が悪いのか、僕に近づき凝視するその人。
「えっと石上悠里って言います。今日は、魔導具を買いたくてここに……」
「俺はクラフタだ。ここに来るってことは、資格はあるんだろうな」
なんだか話が早いな。
「えっとはい。先日合格したばっかりなんですけど」
「そうか。なら、門前払いはできないな」
店主のクラフタさんは、そういうと僕らの間を通り過ぎる。
そして店の扉の前までいくと、ガチャリと鍵を閉めてしまう。
「え」
急な行為に驚くのは僕一人。
まるで当たり前の行為かのように、場は進んでいく。
「いくらだ」
「え」
「予算だよ、予算。一か、二か」
突然言われて、どう答えればいいのやら。
一か二かって、なんなんだろうか。
よく分かんないけど。
「なるべく安価な方が……」
「いや悠里くん、ここは遠慮しちゃだめだよ。クラフタさん今日は思いきって、五で!」
「五っ!?」
一も二も飛び越えて、五。
後ろに続く単位が気にはなるが、この場では暗黙の了解かのように誰も口にしない。
何十万なのか何百万なのか、とんでもない大金なのは分かるが……。
「今、僕、貯金二万しかないよ……?」
「これ以上悠里くんを働かせてる暇は無いし、私が払うに決まってるでしょ?」
何を今更と言わんばかりの表情。
いやまあ、暁音さんに払ってもらう流れになるのは勘づいていたけど、なんか当たり前の態度でいるのは違うよな。
せめて、後でありがとうとだけは伝えておこう。
「そうか、五か」
単位が分からないまま、話は続く。
「なら、ベースはA+〜S-くらいのやつになるな」
「えっと、ベースってのは」
「元になるエーテル器官のことさ。魔導具が元は生物のエーテル器官からできてるのは知ってるな」
「ああまあ、なんとか」
以前、魔導具を買った時にちょこっと話があったな。
スライムウィンドのエーテル器官から風の魔導具がみたいな話。
「その元になるエーテル器官のことを、俺たち加工屋はベースって呼ぶんだ。だから、ベースがA+〜S-ってことは、元となる生物のクラスがA+〜S-ってことだ」
「なるほど」
"五"を払って作れるのが、A+〜S-クラスのモンスターのエーテル器官を使って作る魔導具。
前、Aクラスだと何千万、Sクラスで数十億みたいな依頼を見たから何となくわかるけど、こりゃ多分何百万じゃ済みそうがない。
何千万コースだ。
はあ、金額が馬鹿になってきてて、頭がクラクラしてくるよ……。
「このクラスになると、最大出力量は青天井。Fの値は、あるものなら五十とかあるだろうな」
「一で一般人の平均くらいだって言われてたから、その五十倍。凄いな……」
エリッサさんと討伐したあの螺旋火竜には及ばないにしても、A+〜S-クラスのモンスターを元に作る魔導具なら結構な威力が出るんだろう。
「そしたら、はめ込む武具は」
「武具って……?」
「加工したベースを裸で持ち歩くわけにはいかないだろ。はめ込む武具。それとベースのセットで初めて一つの魔導具になる」
武具ってのはつまり、僕がこれから手に持つ得物ということ。
これから僕が戦いに向かうにおいて、どんな戦闘スタイルで戦うのか。
ここの選択で、どんな戦い方をするのかが決まる。
「今のところ特に決まってないんですけど……」
「珍しいな。だいたい、一級まで資格取ったやつは理想の戦い方ってのを頭ん中に持ってるもんだが」
ちょっと待ってろ、と言い残し、クラフタさんは店の奥へ。
そして数分してから、色んな武具を持って現れた。




