冒険者はじめました!
ここまでのあらすじ
異世界転移をした悠里だったが、とある事件から元の世界に帰る手立てを失ってしまう。帰るには、価値にして250億あるチケットを得なければならない状況に。途方もない金額を稼ぐために、この世界で最も稼げる職である冒険者になることにした悠里は、魔導具の資格試験をついに突破する。果たして、冒険者として活動を始める悠里に待つものとは……。
「悠里くん、そっち行った!」
暁音さんの声で、何匹かのミノタウロスが僕に迫ることを知る。
きっと、前衛の彼らが倒しそこねた分が周ってきたのだろう。
視線を動かし、目視で確認。
牛らしき頭部を持つ二足歩行の怪物たち。
僕に突進してくるのは、そのうちの一、二、三匹。
手には棍棒や鞭を持ち、威力を存分にぶつけようと既に振りかぶっている。
倒された仲間のミノタウロスの屍を踏み越え、奴らは進軍してくる。
百は居るだろう群れの一掃。
ダンジョンの奥深くを根城としていた奴らをたった四人で倒しきるとなると、どうも後衛にも近接戦闘の機会が出てきてしまうようだ。
「はあっ!」
後ろに下がり、距離をとる。
何とか一発目を回避することに成功するも、続く二発、三発目まで避けられる保証は無い。
勝負を賭けるとしたら、今このタイミングでだ。
これまで学んだ理論と、何度も訓練した魔導具の扱い方。
頭の中に双方を思い浮かべ、手のひら、射出位置に意識を向ける。
「て…ぅ…き」
小さく唱え、魔法の初期発動を知覚。
既に走る魔術の反作用に、安堵半分、好奇心半分。
一度形成された体内の魔術回路に、今度は全力、ありたっけのエーテルを流し込む。
Ea=Fの式の通り、周囲から集めたエーテルと僕のエーテル期間の収束発散加速度の積が、F、つまり力に変換される。
このまま魔光弾としても放てるが、せっかくならば、より強力に、派手に彩って、最大火力を腹にぶち込む。
魔導具、せっかく買ったこいつのパワーで、ここは一網打尽だろ!
敵の姿を中心に捕らえ、右手は魔力で疼いてる。
足で地を蹴り、向かうは正面。
無慈悲なまでの三対一に、一発逆転、ここにありっ!
ニヤリ微笑み、唱える技名。
あとは、思いの意のままをっ!!!
「掌底・雷撃ッ!!!」
――――――――――――――――――――――――
一級の合格者には、資格授与式というのがあるらしい。
この世界では難関の魔導具使用許可一級、その合格を称えるだけの式が、いつもの図書館の一室で行われると。
正直、そんな式に出る時間は無いちゃあ無いんだけど、今回の司会はゼラさんということで、まあ、合格したし、二十分そこらで終わるとの事だったので出てみることに。
いつも授業を受けていた講義室。
だだっ広いこの部屋に、集められたのはたった四人。
もっと狭い部屋でやればとは思うが、まあ色々事情があるのだろう。
集められた四人は、察しの通り、合格者ということ。
この街での受験者は二百を超える程度いたそうだが、残ったのは僕含め四人。
かなりの難易度であることはそのことからも明らかで、僕は身をもって体感している。
合格者は、僕と、二十代くらいの青年が一人、僕より若いだろう幼少の子が一人、そして……。
「おば様……!」
「まあ、お兄さんも!」
なんとびっくり、共に講義を隣で受けていたあのおば様だ。
まさか同じタイミングで合格していたとは、何たる偶然。
「合格おめでとうございます!」
「お兄さんこそ! よく頑張ったわね」
互いに互いを称え合うのは、その苦しみを分かっているから。
途方も無い勉強期間は辛く苦しい思い出だが、こうやって共に振り返る時には、なんだかんだ美化されてしまう物らしい。
おば様と語り合っていると、まるであの涙の日々がいい思い出かのように思えてきてしまう。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこの事だ。
「そういえば、お兄さんはなんでこの資格を?」
「えっと、まあ、色々事情はあるんですけど簡潔にいえば、冒険者になりたくて」
「あらまあ、冒険者ね……。ってことは、またここから頑張るってことなのよね?」
「まあ、そうなりますね」
「ふふっ、尊敬するわぁ……」
「尊敬だなんて、そんな」
「尊敬するわよ。私がお兄さんくらいの歳だったとしても、またさらに頑張ろうなんて思えないもの」
おば様にそう言われて、なんか初めて自分が頑張ってるんだなって気付かされた。
まあ、試験勉強期間は頑張ってはいたし、これからも異世界から抜け出すために頑張るんだよな。
そっか、自分は頑張ってるのか……。
言われなきゃ分からないくらい、頑張ってたんだな、自分。
「おば様は、なんでこの資格を」
「私も冒険者……なんてそんな危険なところには飛び込めないわ。私は、昔出来なかった勉強をしたかったの。資格をとったのは、そのついで。死ぬまでに取れればいいかなって思ってただけだから、どう活かそうか考え中よ」
勉強をしたかった、か……。
小さい頃に勉強を禁止とかされてたら、僕もそんなこと思うようになったのかな。
少ししてからゼラさんたちが来て、賞状を一人一人に配って行った。
凝りすぎてなんだかよく分かんない印と手書きながら達筆な字で書かれたそれには、ちゃんと僕の名前があった。
配り終え、最後、式の結びの言葉をゼラさんが。
「ここまでよく頑張った。辛い中、よくぞ乗越えてくれたと思う。そして、ここから更に研鑽を重ねる者もいるだろう。共通して言えるのは、どんな人生になったとて、これまでの日々は必ず糧になる。いいや、糧にしてみせるんだ。自身に枷を課し、辛く苦しい日々を送った君たちは、自身の人生に贅沢を言う権利がある。自身の人生を、自分色に染めあげてくれ。同士として君たち、いいえ、貴方たちのことを、心より尊敬いたします」
最後の言葉をしかと胸に刻み、僕は部屋を後にした。
「おっ、終わったね。どうだった授与式は」
部屋の外で待っててくれたのは、ここまで僕を支えてくれた恩人、暁音さん。
「想像よりも楽しかったよ」
おば様との称え合いに、最後のゼラさんからの言葉。
これまで日々をふりかえってしみじみとさせられ、なんだか卒業式でもしたような気分だった。
「楽しかったんだ、それなら何よりだよ」
まあ詳しいことは後で聞くとして、と暁音さんは椅子から立ち上がり、そして図書館の出口に足を向ける。
「さあ、行こっか。今日から私たちは冒険者なんだよ」




