結果と心
僕が落ちた試験の結果が出た。
一級受験者は、千百三十七名。
そのうち合格者数は、五十六名。
掲示板に貼られた記事を書いた者によれば、今回の試験は難易度が高く、合格者数も普段より少ないと。
問題の傾向は思考力を問うものが多く、そこから分析すると国はより実践向きの人材を求めているのではないかと推察できるそうだ。
結果発表の次の日から、僕は勉強を再開した。
悔しさをバネに、とでもいえばいいのだろうか、不思議と勉強時間は伸び、食事と睡眠以外の時間は全て勉強に当てていた。
変わったことは、暁音さんが居ないことだろう。
たまに孤児院の手伝いで居ない日はこれまでもあったが、今日からは理由と頻度が違う。
暁音さんは、一人で冒険者として稼ぎに行っている。
言わずもがな、二百五十億を稼ぐためだ。
危険だからと今更とめられるはずもなく、まだ一級魔導具の扱えない僕に変わって彼女はSクラスの魔物と戦いに。
とてつもなく心配にはなるが全部僕のせいで、僕にできることは勉強することだけ。
黙って一人、勉強を続ける。
そんな毎日を続けていたら、ある日突然手が止まる。
「どうかした?」
その日は、ギルドが閉まってる影響で暁音さんが家にいた。
彼女の前で勉強していたら、五分以上手が止まっていた。
「いや、なんでも……ないんだけど」
自分でも、なんでか分からなかった。
自分が今何をしているのか、一瞬、いや五分以上わからなくなっていた。
ぼーっとしていた、と言葉でいえばそれまでなんだけどこれまで勉強中にそんなことは無かったはず。
「疲れてるなら休憩、しよっか?」
「いやっ、そんな暇ないから。大丈夫」
暁音さんの提案をつっぱねて、気を引き締めて勉強に戻った。
その日はそれ以上何も無かったけど、それからというもの、僕の身体は異常な行動をし始める。
手が止まるのは日常的に、頭がぼーっとするのもしょっちゅう。
ケアレスミスが極端に増え、集中力が切れることが増える。
変な時間に目が覚めて、なかなか寝付けなかったり。
明らかにおかしくなっているのは、自覚していた。
でも、そんなことに現を抜かしている暇は無いと、無視を決め込んでいた。
夜な夜な自然と目が覚める。
そして毎度の如く眠れない。
気を紛らわすために勉強を始めるも、頭が全く働いていない。
全く簡単な問題を解いているはずが、なぜだか一生と言っていいほど解けない。
何がおかしいんだろうか、何を間違っているのだろうか。
答えを見て、間違えの箇所を探す。
「……あ、あ」
どうやら計算を間違えていたらしい。
はぁ、とため息をついてから机を叩く。
いや待て、今、何をした。
痺れる手の感触で、今自分が物に当たったことに気づく。
なんでそんなこと。
たった計算一つ間違えただけでなんでそんな苛立ちを。
「なんで……」
自分の身体がコントロール出来ていないという事実に、恐怖を覚える。
冷静になると、これまでの一連の動作が自分のとった行動とは思えない。
いくら苛立ったってこんな子供のようなこと、まさか自分が。
疲れているのだとしても、なんで。
……やめだ。今は何をしても上手くいかない気がする。
参考書を閉じ、ロウソクの明かりを消して布団の中へ潜った。
暗闇の中、不思議と頭が冴え渡り寝付けない。
これは試験直前の時のやつとは、似て非なるもののような気がする。
期待感何てものは一ミリもなく、ワクワクなんてものも無い。
心にある感情は、ただ明日など来なければいいのにというただ一つの衝動。
暗闇なんて怖くて嫌いなのに、このままがずっと続けばなんて思ってしまう。
心の中の煮えたぎる何かがふつふつとあり、寝かせてはくれない。
今は、虎のような咆哮が頭の中を木霊する。
誰の声とも分からない。
でも、その声が心の代弁者な気がして止まない。
僕は今、吠えたいんだ。
どうしようもない無力さと、情けなさと、現状を嘆き、吠えたい。
全て投げ出して、消えてしまいたい。
自分に可能性なんて持てず、楽になりたい。
楽に。
楽に、って……。
誰もいない家の中、僕は意味の無い言葉を叫んだ。
しばらくは止まず、布団の中で叫び続けた。
泣きながら、ただひたすらに叫んでいた。




