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完成は64パーセント

 朝、目覚めて行うは単語の確認。

 エーテル学は、生物の身体のことも試験で問われる。

 どこに何があるのか、どんな名称か、今一度確認する。



「おはよう、悠里くん」


 朝食を作ってくれてた暁音さんにお礼を言いつつ、僕は参考書と睨めっこ。

 食べながらは、行儀が悪いのは十分に分かってる。

 でも一分一秒を無駄にできない……というか身体が勉強に触れていないと落ち着かない。

 本当に今のままで受かるのか、手を止めれば焦りや不安が全身を覆い尽くしてしまいそうだ。


 

 午前中は、移動して図書館へ。

 直前期は、ひたすら予想問題、過去問を解く。

 なるべく数を触れて、傾向と対策を掴む。

 今の点数は、百四十点前後を行ったり来たり。

 初見の問題にも慣れてはきていて、よほどの難問以外は何とか解けてる。

 


 この時期一番のストレスは、ミス。

 計算ミス、問題文の見落としなど、些細なミスが重なるとつい苛立ちを隠せなくなってしまう。

 よく言われてるのは、ミスも実力だということ。

 本当に点数取れる人はミスなんかしない、というか、ミスをしないような訓練をしているのだと。

 ミスしないなんて、そんなのサイボーグか何かだろうと、僕は思ってしまう。

 計算用紙から回答用紙に書き写す時に書き違えたり、検算してもミスに気づけずにいたり。

 自分はなんて愚か者なんだろうと責めたくなるし、そこからこんなことも出来ないなんてどうかしてると、自分自身に怒りが湧いてきてしまう。

 精神がおかしくなってるのは自分でもわかってるが、極度のプレッシャーに襲われてる身なら仕方ないのかなとも思う。

 暁音さんは言う。

 

「試験勉強、特に受験は、精神が一番大事だよ」


 学力、集中力、注意力……色んなものが問われる試験。

 自分が醜く見えてくるし、他人がどうしても受け入れられなくなってしまう。

 まともな人間でいればいるほど、精神を病む。

 しょうがないことだとは分かっていても、それが点数に繋がることだと、しょうがないとは受けいれられない。

 点数が生命線。

 点数が全てで、生活の優先。

 厳しい世界、受験戦争なんて言葉があるくらいだ。

 肉体が疲弊する代わりに、心と脳が疲弊する。

 


 ここまで来ると、自分の限界みたいなものがうっすらと見えてきてしまう。

 思考力、記憶力、処理能力……。

 人間である以上、いや、石上悠里である以上越えられない壁のような幻影が見えてきてしまう。

 与えられた才能の限界、努力では越えられない壁。

 そんなありもしないはずの壁が、目の前にあるかのように感じる事がある。

 勉強は、努力すれば誰にでもできるようになると、昔は信じられてきたらしい。

 今では親ガチャなんて言葉もあるくらい、勉強も才能だと思われてる。

 努力できる才能、なんて言葉をこっちに来る前SNSで見たことがある。

 その時の僕は、正直その言葉に賛同していた。

 あまり努力ってのが得意ではなかったから、僕にはその努力の才能ってのが無いんだと思った。

 その方が辻褄が合うと思ったんだ。

 でも暁音さんと追い込みのおかげで僕は努力ができた。

 努力が、できたんだ。

 今になって思うのは、努力は才能じゃない。

 環境と、もしかしたら自分の頑張りが少し、あとは何かきっかけがあれば。

 頑張れるだけの環境と、頑張ろうとする気合い、あとは頑張ろうと思えるだけのきっかけ。

 僕は、この異世界に来てそれが揃った。

 その点でいえば僕は恵まれているのかもしれないが、それが才能で得たものだとは思わない。

 自分で言うけど、まあ頑張ってきて思うのは、辛く苦しいことしかない。

 できることなら、努力なんてしない方がいいと思う。

 吐き気がするほど嫌な事ばかりでつい逃げたくなってしまうほどだ。

 僕だって、叶うのなら努力などと無縁の人生を送りたかった。

 でも、自分を変えるためには、そんな努力をするしかないんだ。

 時に才能なんて便利な言葉に縋りたくなるが、そんな言葉を信じてしまえばこれまでの僕を全て否定することになってしまう。

 努力で得られる地位があるのだと、信じ続けること。

 

『今日は無理でも明日の身の振り方くらいなら自分で変えられるだろって、信じ続けてきただけの愚か者だ』


 奇しくも、そんなおっさんの言葉を思い出してしまった。

 

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