会合 2
勉強してる間って、中々時間が経たない。
集中してるつもりでも、時間があっという間になんてことは中々ない。
だいたい実時間で二時間弱くらい経過したが、体感もまあそのくらい。
いや、もう少しくらい経っててもいいだろと思うほどだ。
何故こんなに進むのが遅いのか。
時間を忘れているつもりでも、全然時間は進まない。
勉強してる間だけ、別の時間が流れてるんじゃと思ってしまうほど。
勉強してる間のみ僕だけが感じられる時間。
他とは一線を画す、僕だけの時間。
スポーツ漫画とかであるゾーンのような、周りと流れる時が異なる状態。
絶対時間に入ってしまっているんだ。
……何を言ってるんだ僕は。
苦しみのあまり、変なことを妄想してしまっていたな。
約半年以上、この生活を続けてきた僕だけど、勉強に慣れるなんてことは全くなくて、毎日それなりに苦しい。
続けられてるのは、落ちたら死ぬという焦りが半分、もう半分は暁音さんの献身的な支えだ。
この両輪があるから、十三時間越えの勉強に何とか耐えられている。
もしどちらか欠けた瞬間、僕はすぐに堕落する。
もしこれが日本で、スマホもゲームもアニメもラノベもありますって状態で、暁音さんもいなくて、焦りも生まれないような状態だったら。
……多分、無理だな。
その環境で受験勉強とか、おそらく一日三時間もすればいい方なんじゃないか。
というか、学校の先生は推薦……? ってのを勧めてたし、今は受験する人より推薦で進学する方が多いらしいしから僕もそれで進学するはず。
だから、勉強なんてしなかっただろうな。
めんどくさいしがらみから逃げてやっとこさ来た異世界で、嫌いだった勉強を一生懸命にやる。
やっぱり置かれてる状況は変だな。
って、そういえば元の世界に戻ったら、僕ってどうなるんだろうか。
転移した瞬間に戻れるのなら、寿命が減るだけで終わりだけど、こっちで経過した分だけ向こうでも時間が経ってたら。
仮にこっちで二年過ごして帰ったら、向こうじゃ二年失踪してた人ってことになるよな。
学校とかどうしようか……。
途中で抜け出してきたから留年は確実として、そこからどうするんだろう。
目の前に立ちはだかる壁が大きすぎて、向こうに戻ってからのこと、あんまり考えてなかったな。
将来かぁ……。
「どうしたの、いきなり天井見上げて」
「いや、完全に集中力が切れちゃって。余計なことばっか考えちゃってさ」
「そしたら一旦休憩にしよっか」
暁音さんの提案で、やっと休憩に入れた。
うんと伸びをして、大きなあくびを一つこぼす。
どっと押し寄せる疲れを堪えながら、僕は机の上に上半身を倒す。
だはぁ……疲れてあんまり頭回んないな。
「勉強、頑張っているようだな」
背中からしたその声に、振り向くまで三秒ほどかかった。
そこに居たのは、青の制服に身を包んだ赤い瞳の少女。
紺の短髪を靡かせ、落ち着いた雰囲気を漂わせる彼女は、僕のもう一人の先生。
「ああ、ゼラさん!」
「授業が終わってからは顔を合わせてなかったな。元気にしていただろうか」
「それはまあ何とか。ゼラさんもお変わりないようで」
微笑む彼女は今日も本を抱えている。
きっと、何か仕事に励んでいたのだろう。
「ゼラさん……? ああ、悠里くんの先生の!」
暁音さんは、椅子から立ち上がると、ゼラさんにお辞儀する。
「いつもうちの悠里がお世話になってますー」
「母親か!」
まるで家庭訪問に来た時のお母さんみたいなことをしだすから、ちょっと恥ずかしくなる。
「これこれは、ユーリの妻、ですか」
「妻!?」
暁音さんが、変なニュアンスで言うから誤解されてるって!
「私は、ゼラ・トートニウム。ユーリのエーテル学の授業を担当していました」
「秋野暁音です。お話は悠里くんからいつも聞いてます。丁寧に教えてくれて、時間外でも質問や相談にのってくれる良い先生だって」
「そうですか、そう言っていただけて嬉しい限りです。ユーリは、毎時間真面目に授業に取り組む生徒で、こちらとしても教えがいがあって……」
初対面ながら二人とも楽しそうにしてるけど……なんかやっぱ恥ずかしいな。
三者面談してる時みたいな、独特の空気が漂ってる。
別になんか隠し事してるわけじゃないけど、お互い変なこと言わないかソワソワしちゃう。
「前回の試験は残念でしたが、初めての試験で取る点数ではなかったですし、おそらくこの調子で行けば次次回には合格ラインに乗ると思います」
「まあ! でも、悠里くんは次回での合格を目標にしてるんですよ。ゼラさん的には、次回合格だとどれくらいの学習時間が必要になると思いますか?」
「……そう、ですね。個人によってまちまちですが、今のユーリの成績だと、一日を最大限勉強に費やして貰って、何とか合格ラインに乗るくらいかなと」
「やっぱり! だってよ、悠里くん」
「いきなり話振らないでよ……」
こうやって、いつこっちに話が飛んでくるかも分からないのも嫌だな。
「ユーリ本人の頑張りも多いと思いますが、短期間でこれだけの点数上昇、おそらく私以外にも師がいるのでは?」
「まあ、私が先生の代わりをしてて……」
「何と。ユーリの師は、アカネさんでしたか。ユーリにはどんな事を」
「エーテル学の内容解説と、あとは勉強のやり方ですかね」
「勉強法ということですね、具体的には」
「えっとですね……」
そうして色々話し込む二人。
話題が僕から逸れてホッとするが、とうとう蚊帳の外に追い出された感じがして、なんだか寂しくもある。
僕がこれまで教わった勉強法をお互いに交換し合う彼女たち。
知的だし、多分気が合うんだろう。
僕のことなんか忘れて、二人だけの世界にいる。
さて、僕はどうしようか。
とりあえず話が終わるまで、一問くらい解いてるか。




