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模試


 試験は、年三回ある。

 同じ会場で三級、二級、一級の順に試験が行われ、料金は一律7000G。

 問題は全てが記述式の問題で、マークシートの問題は時代的にも無い。

 会場に用意された筆記用具と計算用紙を用いて、解答を行い、試験時間いっぱいを過ごす。

 ルール自体は、さして元の世界の試験と変わらない。

 解答用紙を回収されるまで私語は厳禁だったり、御手洗などでも立ち上がってはならなかったり。

 もちろんカンニングも不可。

 魔導具などの特殊な方法でのカンニングを防止するため、試験前に所持品の検査がある。

 魔導具は、どんなものであっても一度預かる決まりになっている。

 持ち込めるのは己だけ。

 もっとも、シナス君のようなハイエーテルは己自体に魔導具が備わっているようなものなのでカンニングし放題になる訳だが、そこはまあ、仕方ないのだろう。


 さて、なんでここまで鮮明に語れるかと言えば、過去に一度受けているのもそうだし、何よりたった今、模試として実際の試験を受けたから。

 試験は年三回あって、四ヶ月前、今日、そして四ヶ月後。

 日程的に合格する予定の試験は、四ヶ月後のそれだ。

 試験本番に備えて、試験慣れをする目的もあるが、一番は自分の今の実力を明確にしておきたかったから。

 今の自分がどれだけやれるか、どれだけのレベルまで解けるのか、詳しく知っておく必要があった。


 

 そして、数日後。

 暁音さんの模範解答作りも終わり、いよいよ自己採点。

 

「さて、結果が出たよ」


 息を吞んで見た結果は……。



「43/200」


 

 四十三点。

 二百ある点数のうち、約二割。

 八か月間あった勉強期間で伸びた点数は、三十九。


 

 頭が真っ白になりそうだった。


 

 出来があまり良くないのは、解いてた時から薄々察していた。

 けど、実際の結果として点数で出ると、やはり精神的にズシリと重たい。


 きっと僕の顔は、血の気の引いた表情をしていることだろう。

 顔面蒼白とはまさにこの事。

 とてもじゃないが平常心ではいられない。



「うーん、そうだねぇ」


 結果を逆向きで眺める暁音さんは、顎に手を当て考え込む。

 彼女が次の言葉を発するまで、裁判の判決待ちのような緊張が僕の中を走る。

 理性的な暁音さんのことだから怒鳴ることは無いだろうけど、なんというか失望とかされそうで今から怖いんだ。

 毎日十三〜四時間以上勉強してこのザマだという才能のなさ、要領の悪さ。

 きっと優しい言葉で慰めてはくれるんだろうけど、返ってその優しさが痛く感じることだろう。


 いよいよ、彼女の口が開く。

 第一声、発したのは。


「勉強の成果は出てるね」

「ほんと……?」

「ほんとだよ。さすがに量をこなしてるだけあって、典型的な基礎問題はバッチリ取れてる。多分43点って点数だけ見て君は落ち込んでるだろうけど、内容まで細かく見れば決して落ち込むような出来じゃない」

「ほんとに……?」


 暁音さんはそういうが、まだ信じるな。

 大抵の場合、こういうのは上げて落とすのが話し方の主流。

 落ち込むような点数じゃないってのは僕のやる気を削がないための方便で、僕を受験の土俵に乗せ続けるための作戦かもしれない。

 信じるな、まだ信じるな……。


「その顔は何? 疑ってるの?」

「だって43点で勉強の成果が出てるってのは、いささか大袈裟じゃないかなって」

「こういう時の悠里くんは何かと疑い深いのよね……」

「一度このモードに入ったら、中々抜け出せないと自負しております」

「はぁ、ぬか喜びさせるし信ぴょう性もあまりないから使いたくないんだけど、するか現役曲線の話」

「現役曲線……?」


 やれやれと言わんばかりの足取りで暁音さんは黒板の前に行き、そして二本のグラフらしきものを書く。


「グラフの見方はこう、横が年月、縦が学力。時間が経てば経つほど横に進んで、学力が付けば付くほど縦に上がる。で、ここに二本、まっすぐ斜め上に進むグラフと、曲線を描いて上に進むグラフがある。直感でいいよ、正しいグラフはどっち?」

「正しいグラフって……」


 目の前に書かれた二つの線。

 

 一本はまっすぐ斜め、右上を目指して突き進んでいくもの。

 横が年月で縦が学力ってことは、このグラフは時間が経てば経つほど学力が上がるって意味……だよな。

 俗に言う比例の関係、たまに試験勉強してる時に出てくるからなんとなくだけどグラフの見方は分かる。

 

 もう一本は、反り立つ壁みたいな形の曲線。

 右上に到達してることは一本目と同じだけど、到達するまでの道のりがだいぶ違う。

 横に進んでもあまり上には進まず、ある一定のところまで到着した途端、急に縦に上昇している。

 これを言葉にすると、急激な学力上昇ってことになるよな。


 さて、ここまでの情報で正しいグラフは、と言われたら。


「真っ直ぐな方なんじゃないの」

「理由は?」

「だって勉強って真面目にコツコツなイメージがあるし、時間を割いた分だけ伸びて行ってるようなのは真っ直ぐなグラフだと思ったから……って、グラフの見方あってるよね」

「大丈夫、あってるよ。でも、選択は不正解」

「なにっ!?」


 ということは、曲線の方が正しいと……。


「いや、そんな事ある?」


 だって、勉強してて伸び悩むことはあるだろうけど、そんないきなりグワッと覚醒したみたいに上がるなんてことあるんだろうか。

 

「疑問はごもっとも。まず、このグラフは受験界隈でよく使われるグラフで、私も中学受験の時に塾で見せられたの。学力は一定で伸びていくんじゃなくて、ある時に急に伸びる物なんだって」

「へぇー。塾の先生が言ってるなら本当なのか?」

「でも私は疑ってるよ。なんの統計のデータなんだって。その時の私は素直だったから、信じ込んでたけど、今思えば出典も謎、どんな根拠があるのかも分からないグラフだから信ぴょう性はあまりないと思うんだ」

「うーん、じゃあなんでこのグラフの話を?」

「火のないところに煙は立たぬって言うじゃない。だから、私なりにこのグラフを解釈してみたのよ。そしたらまあ、納得できそうな根拠らしい物を思いついてね。それを悠里くんに伝えたくて」


 よく分からないけど、まあ暁音さんの思いついたことなら説得力はあるんじゃないかな。

 とりあえず聞いてみて、納得できなかったら反論しようか。


「まず、ある一定を境に学力が伸びる理由なんだけど、これって要は点数が取れるようになるってことだと思うんだよ」

「はぁ、まあ同じようなもんじゃないの?」

「若干違うんだよ。実際の試験の問題ってさ、まあ難しいんだ。基礎レベルの問題は何個かあるだろうけど、ほとんどが難解で手のつけ所が分からない問題だから、生半可な状態じゃ点数が取れないんだ」

「まあ、そうだね。僕も点数取れなかったし」

「でね、点数が取れるようになるって、問題が解けるようになるってことだよね。問題が解けて初めて点数になる」

「まあ、そうじゃない」

「問題に手も足も出ない状態で、挑戦しても点数は取れないの。だから、試験レベルの問題が解けるようになって初めて点数になるの。だから一定ライン、この場合だと試験レベルを超えてから初めてグラフが爆上がりするってこと」

「……うーん、なんか分かりにくいっていうか。いまいちピンと来てないというか」


 僕の理解力の問題か、暁音さんの話に上手く乗れてはいない。

 

「仮にだよ、問題のレベルがだいたい70だったとして」

「……70ってなんの話?」

「例え話だよ、問題がレベル70くらいのモンスターだったと仮定して」

「はぁ」


 独特な例え話だな。

 問題がレベル七十、中々手強いモンスターだな。


「でね、問題を解く勇者がレベル50だったとしたら、こいつで経験値稼ぎできるかって話」

「まあ、歯が立たないんじゃないかな」

「そう。問題のレベルが高すぎるあまり倒せないから経験値にならないの」


 はぁ、まあ、言いたいことは分かるかな。

 レベル五十の状態で、七十を相手取るのは厳しいし、多分経験値稼ぎはできなさそう……。


「この問題で経験値稼ぎできるのは、勇者のレベルが問題付近まで近づいてからってことになるよね」

「うん、だいたい68くらいからなんじゃない」

「それがグラフのここなんじゃないかなって」


 そうして指を指したのは、曲線グラフの曲がってる点。


「勇者のレベルが70付近、そこまで成長して初めて経験値になる。そこからは倒し放題だから、ぐんぐん経験値が得られるようになるってこと。さて、例え話から戻ろうか。てなわけで一定のレベルまで上がらないと、経験値、つまり点数にならないってこと」


 なるほど、なんとなくだけどイメージはできた。

 試験レベルの問題が解けて、初めて点数になる。

 倒せるくらいまで成長してから、やっと経験値、つまり結果として現れる。


「それならこんなふうなグラフでもまだ納得できるかも」

「急な覚醒をしてる訳じゃなくて、きっと、問題自体のハードルが高いだけなんだよ」

「じゃあ、僕はまだ試験レベルまで到達できてないってことだよな……」

「そうだね。試験レベルって、要は応用範囲も含まれてのものだから。基礎は出来て、応用も出来なきゃ点数にならない。悠里くんは、まだ基礎と応用の半分くらいしか終わってない。だからこの結果」


 じゃあまだ点数になるのは先だと。

 それなら、まあ、四十三点でも何とか落ち着けるかな。


「これより薄い理由はいくらでも思いつくよ。単純に試験直前になって猛勉強した結果説とか、受験本番まで学力が伸びるっていうまじないをかけるため説とか。でも、一番最もらしいのはこれかなって。どうかな、納得できた?」

「まあ、このグラフの通りになるなら安心して寝れそうだけど」

「ただし、油断はしないこと。このグラフはあくまで理想系、慢心すればすぐに外れちゃうから気を抜かないように」

「分かってる。じゃあとりあえずもう一度、問題と向き合うか」


 四十三の得点と、百五十七失点。

 分析して、次の点数に。


「頑張って悠里くん。ここから、スパートかけてくよ」

「うん」


 

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