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冒険者ギルド 3


 こうして晴れて冒険者になった僕ら。

 依頼こそまだ受けないが、せっかく冒険者になったということで色々設備を見て回ることに。


 なんと言ってもまず目に入るのは。


「酒場!」


 併設された酒場。

 昼間っから酔いつぶれた人たちでたくさんの酒場は、僕にとって憧れの場所のひとつ。

 冒険者になったからって別に何か変わる訳では無いんだけど、とうとう僕もここにいる人たちの仲間だと思うと、しみじみするなぁ。


「悠里くん、羨ましそうにみてるけどああなりたいの?」

「そりゃなりたいよ! ひと仕事終えてから打ち上げだなんだってお酒を酌み交わすの。だって、楽しそうじゃん」

「楽しくはあるんだろうけど……だってあんなだらしなくぶっ潰れてるのはどうなのって」


 暁音さんの言いたいことも分かりはするけど。


「でも、いつも酔いつぶれてるおっさんが、いざという時にはめちゃくちゃ強いみたいなの。すごく憧れない?」


 普段おちゃらけてるのが、ピンチの時には無双してくれるというギャップ。

 自分がそうなれたらと思うと、たまらんでしょうよ!

 

「まあ、そういうキャラは嫌いじゃないけどさぁ」

「でしょ!? いやぁ、こっちに来て一日目には、そんな未来を思い描いてたこともあったけど、こうして僕もその仲間入りできるとは」

「思ってたんだけど、悠里くんお酒飲むの……?」

「こっちに来てから嗜むくらいに」

「マジか……。なんか変なところで度胸あるんだね……」

「そうかな?」


 まあ、ちょっと抵抗はあったけど、あの時はエリッサさんと一緒だったしめちゃくちゃな経験した後だったから、別に今更酒くらいって思って飲んじゃったなぁ。


「私は打ち上げでも飲まないからね」

「分かったよ。アルハラも絶対しないから」



 酒場をぐるっと見て回ったあとは、ギルド側へ戻って来て散策の続き。


「依頼書、すごい数だね」


 コルクらしきボードに貼られた依頼書の数々。

 B級ので壁一面埋まるくらいあって、その右側にはA、Sのものが。


「これ全部ボスモンスターとかなんでしょ? なんて言うかテンション上がるなぁ。テーマパークに来たみたいだ」

「未踏破のダンジョン最奥のボスモンスター討伐依頼、だって。ダンジョンとか、あるんだね。依頼主はトレジャーハンターの人だ。未知のダンジョンの奥を調べたいから、そこを守る番人らしきモンスターを討伐して欲しいと。へぇー好奇心なのかなぁ? こんなにお金出してまで倒して欲しいんだもんね、よっぽど見たいんだろうなぁ」

「直属護衛隊の人が依頼主のものもあるよ。人手不足だから、援護に来て欲しいみたい。氷目のキマイラって、やつが相手だ。どんなやつなんだろ……」


 戦闘狂の自覚は無いが、強そうな奴を見るとワクワクしてしまう。

 氷目のキマイラ。

 名前だけで、ご飯三杯いけちゃうもんな。

 多分氷系の技を使ってくるんだろうけど、何してくるんだろう。

 しっぽで薙ぎ払ったらその範囲が凍るとか、氷のビームとか放ってくるとか……。

 ゲームのやりすぎかもしれないけど、そういう妄想が現実になるのがこの異世界だ。


「私たちが受けるのは、こっちの方だね」

「Sクラス……。報酬金が二桁違いだ」


 だいたい十数億。

 ここまで行くと賞金首というクラスになってくるだろう。


「だいたい異名みたいなのが付いてるね。大地を分かつ怒りのナンタラみたいな」

「多分見た目とかもあるんだろうけど、その強さで恐れられたから付いてるんだろうね。この依頼書とか、クラスの部分が何回も書き直されてる。B、Aって来てSまで上がってきたんだ」

「冒険者を手こずらせてるってことだ」


 歴戦のモンスターということ。

 冒険者とやり合っても、なお生きてる。

 片目に傷とか付いてるのかなぁ。



 

「君たち、Sクラスの依頼書に興味があるのかい」


 そうして突然話しかけて来たのは、何人かのパーティメンバーを侍らせた、一人の男性。


「失礼ですがあなたは」

「おっと、ここで僕を知らないとは。新人さん、だね」


 どこかいけすかないイケメンスマイルの彼は、なんかどっかで見たような……。


「僕はシグルド。数少ないSクラス冒険者だ。番い火竜の討伐者といえば分かるかな」

「番い火竜……ああ! あの凱旋の!」


 僕がここに来て初日。

 大通りを通行止にさせたあの凱旋で祝われた、十六人パーティの人か。

 そしてここで思い出す、なんでこの人見たことあるのかと思えば、一度目のラストリゾート、暁音さんが捕まってた時のこと、エリッサさんが螺旋火竜を一緒に討伐して欲しいと呼びかけていた時に話を聞いていたメンバーの中にいたな。


「あれだけ盛大に祝われるなんて、凄いですね!」

「それはどうもだ。おかげさまで今でも街じゃドラゴンスレイヤーって声掛けて貰えるよ」

「ええっと、そんな凄そうなお方が、何の用で」

「君たちがSクラスの依頼書をわざわざ眺めていたからさ。恐らく初めてここに来たんだろう?君たちが見るべきE~Cクラスの依頼書はあっちだ。こっちは如何せんレベルが高い」


 そう言って指をさしたのは奥にある別の掲示板。

 彼の言ってることは概ね正しい。

 たぶん、このギルドで顔を気かせているんだろうシグルドさんのことすら知らない僕らが、掲示の見方も分からないビギナーに見えたんだろう。

 善意の声掛け、先輩として後輩を慮っての行動。

 それは十分伝わってくるが。


「ご忠告ありがとうございます。でも、私たちが見るべきなのはここで合ってるので」

「ここでって……君たちクラスは」

「Cと……」

「Bです。それが何か」


 少し驚いた顔をした後、彼は言う。


「そうか公的資格を取ってからか。だから自身を過大評価してしまったと。いいかい、君たちが飛び越えてきたE~Cクラスは、生易しいものなんかじゃない。きっちり死線をくぐらなきゃ超えられなかったはずのものだ」

「……それで?」

「初心者はまずそこで基礎を学び、身の程をわきまえ、そしてやっと地に足をつけるんだ。浮ついた足取りのまま上位クラスの依頼を受けてみろ、待っているのは死だけだ。君たちが何気なくでスキップしてきたのは、そんな大切な助走さ。いきなり飛べるなんて思いあがった考えは捨てろ」


 ご最もな言い分は、間違いなく彼のほうだ。

 語気を強めていう言葉は、Sクラスだけあって説得力があった。

 この場にいる誰もが、彼の論破を確信していたはずだ、


 

「思いあがってるのはどっちですか」


 

 僕と彼女を除いては。


「なんで私たちが助走してないと思ってるんです。何も聞かずに決めつけるのは自信の裏返しなのかしら。あなたが自身の頑張りを思いあがってるだけでしょう?」

「どういう意味だい」

「分かりやすく言いましょうか。あなたは、自分が辿ってきたルートしか正しいと思ってないってことですよ。自分の知ってる道のりだけが成功だと思ってる、成功者のテンプレよ」

「はぁ?」

「成功で視野が狭くなってるんです。自分の栄光がまぶしくて、他に目が周ってない。だから、他のルートの頑張りなんて見えてこない、見ようともしない。死線超えるだけが成長じゃないでしょ。汗や涙を流すだけが努力じゃないでしょ。何より制度が私たちを認めてるの。浮ついた、は訂正してもらおうかしら」


 暁音さんが全部言ってくれたおかげで、何も言えずに終わってしまった。


「……そうだな。確かに君たちは、僕の知らない努力を重ねてきたんだろうね。済まなかった……」


 シグルドさんは、謝ってくれた。

 周りの目線なんて気にせず、頭を下げてくれた。

 いい人なのは分かっていたけど、まさかここまで素直だとは。

 いけすかない笑顔からは予想できなかったな。


「でも、クラス越えの依頼を受けようとしているのは事実だ。誰の目から見ても危険なことをしようとしているのを前に、止めずにはいられなかったんだ」


 彼の言い分を受けて、暁音さんも謝る。

 

「こちらこそすみませんでした。でも、私たちにも事情があるんです。危険な行為であるのは承知しています。命をかける覚悟なら、とっくに」

「そうか、覚悟か。君たちは決意してここにいるんだな」


 決意なんて大それたことはしていないが。


「自分の人生、生きなきゃダメだなって。そう思ってるだけですよ」


 意味が伝わるか、口に出してから不安になったけどどうやらそれは杞憂だったようで。

 

「分かった、これ以上は何も言わない。同じ冒険者として、命を懸け続ける者として、君たちの無事を心より祈るよ」

 

 そして、差し出された彼の手を僕は握り返す。

 握手をもって会話は終わり、彼ら冒険者パーティはこの場を後にした。



 

「シグルドさんの言い分は正しいね」


 今になって暁音さんは言う。


「きっと、これまでに無謀な挑戦を何度も見てきた人のセリフ。受付のお姉さんもそう。帰らずの冒険者を何人も見送って来たから、心配してくれてるんだよ」


 帰ってこなかった冒険者、命を落とした冒険者。

 過去の彼らと同じ轍は踏ませないように、わざわざ嫌われるのを覚悟で忠告してくれてる。

 

「そうだね……。でも、無謀だとしても、僕らは超えなきゃならないから」

「ええ。前進以外に、道は無いもの」


 今一度、決意を固める。

 僕はなりたい自分になれてない。

 だから僕は、まだ生きたい。

 そのために超えなきゃならない壁ならば、たとえ何が待ち受けようと超えてみせるさ。


「よし、明日から更に気合い入れるぞ」

「まずは一級、合格してだね」

 

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