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こんげーむ!  作者: 我楽太一
第六章 狐の知らせ
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4 狐の知らせ

「悪いね。高級店はどこも予約がいっぱいで」


 席に着くと、切子はそう言った。


 寄席を見たあと、一行は予定通り中華料理店に来ていた。大衆的とは言わないまでも、庶民がたまに背伸びして行く程度のランクの店で、切子の言うように確かに高級店ではないようである。


「その代わり、味は保証するから」


「いや、いいよ。あんまり高い店だと緊張しそうだし」


「君は根っからの庶民だな」


 与人の返答を聞いて、切子はそう笑みを浮かべた。


 一方、同じく席に着いたタマは、こんなことを尋ねていた。


「コンは中華なら何が好きなの?」


「春巻きとか、油淋鶏とかですかね。私は揚げ物が好きなので」


「そう、揚げ物」


 落語はともかく、食事を見るだけというのは可哀想なので、忍はタマの憑依を解いたのだった。おかげで、目借を使えなくなった忍は、切子の隣でそわそわと落ち着きなく周囲を警戒している。


「タマさんは?」


「私は餃子かな」


「餃子! 美味しいですよね」


「うん。色々具に種類があるし」


「包むのも楽しいですしね」


「それは作る側の目線では……?」


 気が合うのか、憑き物同士だからか、コンとタマの会話はなかなか弾んでいるようだった。今日出かけたのは、コンの気晴らしが目的だったから、この様子を見て与人は胸をなでおろす。


 注文が済むと、料理が順次テーブルに運ばれてきた。


 切子が「味は保証する」と言っただけあって、与人の頼んだカニ炒飯は絶品だった。油の効いた濃い味なのに、きちんとカニの繊細な旨味や甘味がする。それどころか、お互いがお互いの味を引き立てあっているくらいだった。これなら他の料理も期待できそうである。


「それ、美味そうだな」


「はい、とても」


 切子が小籠包を指して言うと、忍はそう頷く。


「でも、熱いから口の中を火傷しないように気をつけてください」


「はいはい」


「念の為、私がふーふーして差し上げましょうか?」


「ガキ扱いするな」


 過保護すぎるボディガードに、切子は目をつり上げながら卓を回転させた。


 すると、これにコンは驚きの声を上げる。


「わっ」


「何だお前、ターンテーブル知らないのか?」


 切子が取り終えるのを待ってから、与人は実演しながら説明する。卓を回転させて、タマの頼んだ水餃子の皿を引き寄せる。


「こうやってテーブルが回転するから、遠くの料理も取りやすくなってるんだよ」


「へー、ハイテクですねー」


「わりとローテクだと思うが」


 感心するコンとは対照的に、与人は呆れ顔をした。


 しかも、呆れることはそればかりではなかった。早速ターンテーブルを試したかったのか、それとも単に自分に説明する為の行動だと思ったのか。与人が水餃子を取ろうとしたところで、コンは先に卓を回してしまったのである。


「あ、すみません」


「いや、いいよ」


 コンは不慣れだから仕方ないだろう。与人は気を取り直して、改めて水餃子の皿を引き寄せる。


 しかし、今度も取る前に卓を回されてしまった。


「ふふふふ」


「ガキみたいな嫌がらせすんなよ」


 与人はそう言って、切子を睨む。だが、切子はただ笑うばかりだった。


 その上、三度目の正直も上手くいかなかった。


「おっと、申し訳ありませんね」


「お前も乗っかってくるな」


 わざとらしい演技をする忍に、与人は眉間にしわを寄せる。


 そして、四度目――


「…………」


「…………」


 与人が卓を回しても、タマは動こうとしない。


 だから、与人は彼女に言った。


「タマ、天丼って言って、こういう場合は邪魔するのが正解なんだぞ」


「!」


 驚きに一瞬硬直するタマ。そして、それが収まると、慌てて卓を回し始める。


「そ、それは失礼」


 この様子を見た切子は、「何を教えてるんだ、君は」と冷ややかな視線を向けてくるのだった。


 五人は料理に舌鼓を打ちながら、そんな風に馬鹿話をして盛り上がる。


 だから、食事の時間はすぐに終わりがやってきてしまったのだった。


「これは……?」


「フォーチュンクッキーだよ。中におみくじが入ってるんだ」


 運ばれてきた料理にコンが首をかしげると、切子がそう答えた。なんでもこの店では、食後にフォーチュンクッキーのサービスがあるのだそうだ。


「これ、紙が焦げたりしないんですか?」


「生地に火を通したあと、冷えて固まる前におみくじを挟むそうだよ」


「あ、なるほど。楽しそうですね」


 コンがそう相槌を打つと、タマは「作る側目線……」と呟く。


 ただフォーチュンクッキーが珍しいのはコンだけではなかった。与人は一つ手に取ると、それをためつすがめつする。


「俺、フォーチュンクッキーって初めて食べるかも」


「そうなんですか? でも、与人さん、今度勝負があるんですから、その景気づけにいいんじゃないですか」


 忍はそう言うが、与人は気乗りしなかった。「景気づけねぇ……」と渋い顔をする。おみくじや占いの類で、これまでいい結果が出た覚えがなかったのだ。


 フォーチュンクッキーは、クッキー生地におみくじを挟んだだけの簡単な構造である。運試しの結果はすぐに出た。


「私は中吉でした」と忍。


「私も」とタマ。


 二人揃って同じ結果だったらしい。切子のボディガードをする為に、普段からよく憑依しているせいだろうか。


「私は大吉だ」


 切子が自慢げに言うと、忍はすかさず「お嬢、さすがです」と讃えた。


 切子はまた、勝負でも挑むように尋ねてくる。


「沢村君は?」


「……大凶」


 与人は結果が出る前より更に渋い顔でそう答えた。


 さすがに大凶だけあって、文面はどれもろくなものではなかった。失物うせものは「出づらい」、旅行たびだちは「十分気をつけよ」、待人まちびとは「来るが遅し」……


 そして、ギャンブルに関係しそうな争事あらそいの項目には、はっきりと「負ける」の三文字が書かれているのだった。


「これ、お前の仕込みとかじゃないよな」


「失礼だな。選んだのは君じゃないか」


「まぁ、信じてないから別にいいんだけど」


 所詮、ただの占いである。本気になっても仕方ないだろう。


 そう考える与人とは対照的に、コンは結果に大騒ぎしていた。


「与人様!」


 そう大声を上げながら、おみくじを見せてくる。


「ジャーン! 大吉です!」


 確かに、コンの言う通りだった。大吉とあるのはもちろん、争事などの細かい項目も、切子のおみくじと全く同じでいいことばかりが書かれている。


 そんなコンのおみくじを見て、与人は言った。


「いや、だから信じてないって」


「えぇー」


          ◇◇◇


 ほぼ同時刻――


 東条澄香も、ちょうどその運が試されるところだった。


 しかし、おみくじや占いではしゃぐような雰囲気はない。


 澄香本人は泰然としたものだが、周囲はむしろ殺気立っているくらいだった。


 特に澄香と対峙した羽黒はぐろ龍山りゅうざんという強面の若者は、睨めつけるような目で彼女を見ていた。


 澄香と羽黒は、これからギャンブルで戦うところだったのである。


「今宵、お二人に勝負していただくゲームは――」


 進行役が引いたくじを読み上げる。


大小だいしょうです」

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