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こんげーむ!  作者: 我楽太一
第三章 狐存亡の秋
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7 二人の夜

「与人様ぁ!」


「うわあっ!」


 大声と共に突然部屋に入ってきたコンに、与人は驚きのあまり同じくらいの大声を上げていた。


「何だよ、でかい声出して」


 トランプをいじる手を止めてそう尋ねる。


 しかし、与人の顔を見た途端、コンは駆け寄って抱きついてきた。


「与人様ぁ~」


「な、涙!?」


 コンの行動に、与人は再び驚きの声を上げる。しかし、泣き出した彼女を邪険にもできず、しばらくは抱きつかせたままにしておくのだった。


 コンが落ち着いたところで、与人は改めて尋ねる。


「一体、どうしたんだよ」


「切子様に、切子様に……」


「いじめられたのか?」


「ち、違います」


 慌てたように、コンは否定する。


 それから、言い出し辛そうにおずおずと口を開いた。


「……その、切子様に、与人様のご両親のことをお聞きしまして」


「あー……」


 与人はそう曖昧な声を漏らした。コンの説明を聞いた瞬間にも、さまざまな感情が湧き上がって、まともに言葉が出てこなかったのだ。


「すっ、すみません」


 傷つけたと思ったのか、責められていると思ったのか、コンはすぐにそう謝る。


 与人はこれに答えない。


 代わりに、自分の両親について話すのだった。


「父さんと母さんは、俺が殺したようなもんなんだよ」


 与人の話は、そんな告白から始まった。


「金はないわ、ヤクザは来るわで、当時の家の雰囲気は最悪でさ。しかも、俺は中学に上がって、周りとの違いが気になりだすような時期だった。

 それで、そんなこと本気で思ってたわけじゃないのに、つい〝こんな家の子供になんか生まれたくなかった〟って言っちゃって……」


 口に出すのが辛くなって、与人は一度そこで言葉を区切る。


「二人が自殺したのは、そのすぐあとのことだったよ」


「…………」


 同情しているのだろうか。コンは沈んだ顔をして黙り込んでしまう。


 しかし、与人は何も自分の過去について話したかったわけではなかった。


「だから、コン、お前は家族を大切にしろよ」


「はいっ」


 誓いを立てるように、はっきりとコンはそう答えた。


 その返事を聞けただけで、与人は十分満足だった。それなら、コンたちの為に山を買う意味がある。危険な賭けに出るだけの価値がある。


「そうだ!」


 思いついたように、再び大声を上げるコン。与人は顔を顰めていた。


「今度は何だよ」


「憑依を試してみましょうよ、憑依を!」


「また急だな」


 妙に興奮した様子のコンとは対照的に、与人は冷ややかだった。何をそうはりきっているのだろうか。


 そんな与人に、コンが反論する。


「憑依できたら戦略の幅が広がるって言ったのは、与人様じゃないですか」


「それはそうだけど」


 たとえば、ちょうどトランプを触っていたから、クローズド・ポーカーを例に考えてみる。


 憑依が使えない場合、まずコンにカードに変化してもらって、次にそれを手札の本物のカードとすり替えるという2ステップが必要になる。しかも、勝負に使用したカードは山札に戻すから、再び同じイカサマを行おうと思ったら、山札からカードに化けたコンを回収するというステップまで踏まなくてはならない。


 一方、憑依が使える場合は――与人自身が変化の術を使える場合は、手札の本物のカードをそのまま別のカードに変化させることができる。その為、すり替えやコンの回収というステップを踏む必要がなくなるのだ。


「今ならきっと憑依できますよ」


 コンはそう主張しながら、輝きに満ちた瞳でこちらを見つめてくる。


「心が通じ合った今なら!」


「そういう恥ずかしいことをわざわざ口に出すな」


 言葉も視線も真っ直ぐなコンに、与人はたまらず目を逸らしていた。


 そんなやりとりのあと、憑依を試すことになる。


 コンが片方の手を差し出す。与人も同じことをする。それで二人は手を重ね合った。


「いきますよ」


「おう」


 コンの呼び掛けにそう答えた、その瞬間――


 与人の目の前から、彼女は姿を消していた。


「!」


 驚く与人だが、直後にもっと驚くことがあった。


『やっぱり、できましたね!』


「うおっ」


 コンの声が頭の中で響いて、与人は思わずのけぞりそうになる。


 心が通じ合った状態で憑依した場合、お互いの意識は残ったままだと以前に聞いていた。だが、単純にそれだけではないらしい。はたして、脳内でコンが自分に話しかけられるのなら、その逆もできたりするのだろうか。


 しかし、意識が残ったり、脳内で会話できたりするだけで、お互いの心が分かるわけではないようだ。憑依がどんなものか与人が把握しようしていることなど、コンはお構いなしだった。


『やりました!』


 コンは更に、はしゃぐように続けた。


『成功! 成功です!!』


 与人にだけ聞こえる声がそう叫ぶ。頭がおかしくなりそうだった。


『嬉しいのは分かったから、あんまり大きな声出さないでくれるか』


『あ、すみません』


 やはり、こちらから話しかけることもできるようだ。与人が注意すると、コンはそう言ってすごすごと引き下がった。


 そんなに憑依できたことが――心が通じ合ったことが嬉しいのか。それとも、憑依のおかげで役に立てることが嬉しいのか。コンの態度に、与人は苦笑を浮かべる。


『しょうがないな』


 しかし、その苦笑には本当の笑みも交じっていた。


 与人だって、コンと心が通じ合ったことや、コンの役に立てることが嬉しかったのである。


 憑依状態でもお互いの心が分かるわけではない。本心を知られるのは照れくさいから、今はそのことが与人にはありがたかった。

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