第二十九話「冷え切る少女の甘い初恋」・4
「さて、これで準備完了ね!」
「はい! この調子なら向こう岸に着くのにもそう時間はかからないでしょう」
私の言葉に葡豊も笑顔で返してくれる。乱火も役に立つことが出来て嬉しそうだ。
それから私達は急いで船内に戻り、皆を集めて会議を始めた。メンバーは私、乱火、砕狼、葡豊、癒宇さん、雷落、光蘭、鋼鉄、彪岩さん、砂唯、妖燕さん、氷雨、雪羅、俊龍、聖龍の十五人。
ちなみに、俊龍と聖龍の二人はたった今目覚めたばっかりで少し寝ぼけた顔をしている。まぁ、雪羅の氷雪系魔力の影響で凍りついていたのだから仕方がない。しかし、凍らされたことに怒って雪羅を殺したりなど仕掛けてこなくて本当に助かった。もしそんなことされたら、私は物凄くショックで悲しみに打ちひしがれるし、義兄であり名付け親でもある氷雨は、もっと怒り狂い暴れだすだろう……。そう、ウノーファル・ティークル町のさらに奥のUTサブミットでの悲劇の時の様に……。あの時もどうして雪羅が生きていたのか不思議でならなかった。何かの奇蹟なのかどうかも私は把握しきれていない。でも、今はその一連の出来事は出来れば忘れ去りたかった。なぜなら親方こと妖燕さんに葡豊も含めて裸を見られてしまったのだから。しかも……寝ている間に。
凍傷を治すために仕方がないことではあるが、それでももう少し前もって言ってほしくはあった。私だってそうだし、葡豊も立派な思春期の女の子の一人なんだから。
「……それで、準備とやらは整ったのか?」
腕組をし少しムスッとした表情で尋ねる彪岩さんに、私は真剣な面持ちで頷く。
「はい、……ところで、少し機嫌悪そうですけど何かあったんですか?」
もしかすると踏み込んではいけない領域だったのかもしれないが、私はどうしても気になって訊いてみた。すると、彪岩さんはニヒッと歯を光らせて言った。
「なぁに、ずっと船の中で大人しくしておったから体力がありあまっておるのだ! 今すぐにでも戦いたい気分だぞ!」
ただでさえまだエンジンをかけていない状態で少しむさくるしい感じの船内なのに、そんな状態のこの場所でさらに熱気をあげてくる彪岩さんに、私は汗をかきながら言った。
「お、落ち着いてください、クールダウンクールダウン」
まぁまぁと子供をなだめるような動作をする私に、「ううむ仕方ない」と熱気を抑えてくれる彪岩さん。何とか助かった。このまま船内で蒸し焼きは勘弁してほしい。
「んで、それよりも問題は――」
そう言って砕狼がギロリと未だに少し警戒している龍族竜族双子兄弟を睨みつける。
一方で、二人も砕狼に敵対心を向けて八重歯を光らせていた。ドラゴン?というよりは蛇に近い目つきに紅色の瞳が不気味に光り、獲物を狙っているような顔つきになる。それを見た砂唯と光蘭は、目尻に涙を浮かべてブルブルと震えながら抱き合った。
「まぁまぁ双方落ち着いて? 砕狼の言う問題っていうのは、この二人の何かしら?」
「んなもん決まってる。こいつらが伝説の戦士のメンバーなのかどうかってことだ! この島に伝説の戦士が二人いるって黄金の地図に書いてあったからこんな文化もロクに発達してねぇ無人島に来ちまったが、これでこいつらが目的のやつらじゃなかったら骨折り損もいいトコだぜ?」
私を凝視し眉間にしわを寄せて強く言い切る砕狼に、私も対抗して言ってやる。
「ふんっ、ちゃんとこの二人は伝説の戦士よ! 確認もしたんだから! 第一、伝説の戦士かどうかなんて私達がよくわかってるわ! そうですよね、癒宇さん!」
確認のことも含めて一緒に双子兄弟を探しに行った癒宇さんに尋ねる私。すると、癒宇さんは相変わらずの笑顔で答えた。
「ええ。わたくしも彼らは伝説の戦士に違いないと思いますよ? 現に彼らは相当な力を体の内に秘めていらっしゃるようですから……」
「けっ、そうかよ。わかった、んじゃあ認めてやるよ。んで、だったらさっさとこっから出よーぜ?」
砕狼がそっぽを向き、その態度を見ながら私はその場に立ち上がり妖燕さんに頼んだ。
「それじゃあ、操縦頼めますか?」
「ああ、もちろんだ。あの二人はもう大丈夫だからな? これで……一応借りは返したぜ?」
「はい……」
妖燕さんの少し疲れた顔を見て私は本当に頑張ってくれたんだなと思い、少々申し訳ない気持ちになりながら頷いた。
それから私達は船室に向かい、各々休憩して大陸のエレゴグルドボト帝国付近の岸に到着するのを待った……。
――△▼△――
ここは小七カ国の内の一国で『フェイルーメニア王国』。エレゴグルドボト帝国の領地の一角に所属しており、光に満ちあふれた神々しい王国で有名だ。ちなみに、ここを治めているのが第十一代目国王『ファルスター=ビリビルトス』である。ファルスター王は雷系統の力を司っており、その相当なパワーは特殊攻撃での戦いでもなかなか有名で、その名を惑星ウロボロス中に轟かせている。
「ん、ふわぁ~あ。あぁ、暇だ。暇だ暇だ暇だ! こんなに暇だと暴れたくなるぜ。おい、何か情報は入ってねぇのか?」
この少々荒っぽい言動をする人物こそ、ファルスター=ビリビルトスその人である。巨躯の持ち主で、前髪を全て逆立たせ、その内の一本が雷の様な形で額に垂れている。また、もみあげも雷の様な形をしている。体格もがっちりしており、二の腕の太さも半端ではない。その鋭い双眸は力強く、目力なども相手を絶対に負かせる程の威力を持っていた。
ファルスター王に尋ねられ、衛兵はかしこまって答えた。
「は、はい。今のところこれといって重大な情報は――」
と、その時だった。
「ぐふっ!」
と、一声洩らしたかと思うと、その場に前のめりに倒れる衛兵。
「――ッ!?」
その様子を見ていたファルスター王は頬杖をついていた手をどかし、その場にガタッと立ち上がった。
「な、何事だッ!? おい、誰だ? 誰かいるのか!」
周囲を見回し確認するが、誰一人として見当たらない。すると、ファルスター王はひとつの疑問に至った。
「ん? そういや、他のやつらはどこに行った? さっきまでここにいたはずだろ?」
なぜ人っ子一人いないのか謎に包まれるファルスター王。すると、そこにどこからともなく声が聞こえてきた。
【くく……、お前がファルスター=ビリビルトス王か? ふん、殆どただのジジイじゃねぇか。これでは捕らえることなど造作もないな】
その完全に舐めきった台詞にトサカに来たファルスター王は、青筋を立てて怒声をあげる。
「何者だてめぇは! 姿を見せやがれッ!」
【落ち着きたまえ。俺の今回の目的はお前を捕らえることと、ここにある七つの秘宝のひとつを手に入れることにある】
謎の男はそう言って空間を歪ませ、玉座の間の空中に姿を現した。白衣に身を包んだその男は白銀の髪に黄土色の瞳をしており、不気味な笑みを浮かべていた。また、少し遅れて今度はファルスター王と同じ地上に四人の人影が姿を現す。
「て、てめぇら……その出で立ち……クロノスのやつらか!」
拳を強く握り目の前の五人に向かってそう叫ぶファルスター王に、上空にいた一人の男が地上に降り立ちながら答えた。
「ご名答……さすがだファルスター王。では、そんな賢い貴様に一つ頼みごとをしよう。七つの秘宝の一つ『黄金の光聖槍』を渡してもらおう!」
「断るッ!!」
即答だった。その凄まじい速度の二つ返事は、五人の白衣姿の者達に驚愕を与えた。
「……ほぅ、驚いたな。賢いと思っていたが、やはりただの筋肉馬鹿か。それとも、もう歳で俺達の命令に従うという考えもロクに思いつかないのか」
「なん……だとぉ~?」
青筋をビキビキッと立てて体の周囲に電撃を生み出すファルスター王。どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。しかし、クロノスの五人は少しも微動だにすることなくその場に立っている。その冷静さは目を見張るものがあるが、ファルスター王はそれよりも自分が老いぼれだと言われたことに憤怒している。
「てめぇらには俺の全力を持って思い知ってもらうッ! くらいやがれぇええええ!!」
そう言ってファルスター王はその強力な電撃攻撃を五人に向かって放った。五つに分かれた電撃はそのまま五人に直撃すると思われたが、その電撃は急に方向転換し、五人の内の一人、丸めがねをかけた長身男の元に向かった。
「な、何ッ!?」
自身が出した電撃がその命令を無視して一人の元にしかいかないというのは、あまりにも不可思議でならない。ファルスター王は目を見開くものの、すぐに冷静さを取り戻し、どちらにせよ五つの電撃全てが一人の元に向かうのだから、その人物はひとたまりもないだろうと高を括った。
しかし――。
「フッ。おれも舐められたものだ。このおれに不可能なことなど……ないッ!」
丸メガネの男はニヤリと笑い手を横に薙いだ。同時にファルスター王の放った五つの電撃はいとも簡単に消え去り、そのありえない出来事に驚きを隠せなかった。
「ど、どうなっているッ!? そんな馬鹿なことがありえるものか! 俺の雷は最強なんだ! しかも、一つならまだしも五つとも薙ぎ払うなど持ってのほかだ! てめぇ、一体どんなトリックを使いやがった!」
完全にキレてしまっているファルスター王は、怒声をあげながら五人を凝視した。しかし、相手は一向に攻撃してくる素振りも見せず、ただこちらの要求を呑むことを待っているだけだった。
だが、そこはあくまでも王族。例えキレていたとしても状況はちゃんと理解出来ていた。そこが王としての器としては良い人物でもあった。
「トリック……ッスか。残念ッスけど、そんなもんは使っちゃいないッスよ? ファルスターさん? 俺たちゃただ、科学の力でそちらさんの力を無効化しただけッス。まぁ、科学のことをこれっぽっちも知らない魔術の方にゃ分からないかもしれないッスけど」
両手をあげてやれやれと言った仕草をする黒髪少年に、今度は坊主頭にジャラジャラと様々なアクセサリーを着けた老人が口を開く。
「まぁ、そう言うなヴィンセント。この男には科学の事を話そうと分からんよ。科学には科学、魔術には魔術に携わる者しか分からない物というのがある。それは儂らがよく分かっておるだろう?」
「そうッスね。申し訳ないッス、ゴルキスさん」
黒髪少年――ヴィンセントが坊主頭の老人――ゴルキスに侘びを入れる。すると、完全に話題となっている事柄の蚊帳の外になっていたファルスター王が地団駄を踏みながら太い人差し指を白衣姿の五人に向け叫んだ。
「やいやいやいッ、てめぇら何俺をシカトしてやがんだ!! てめぇらの目的だっていう七つの秘宝の一つはゼッテーに渡さねぇからとっとと帰りやがれッ!!」
「やれやれ、あんなこと言ってるけど……どうするつもりだい、レイ?」
腰に手を当て短足する栗毛色のスラッとした美少年に、白銀の髪の男が答える。
「くく……そうだな。ならば少しばかり痛い目に合ってもらうとしよう。それと、……レイはやめろ。俺はレイヴォルだ」
メガネを指で上にあげながらそう指摘するレイヴォルに、美少年は笑いながら言った。
「どうしても昔の呼び名が抜けなくてね、あはは」
そんな二人を他所に、ファルスター王は両手にそれぞれ電撃を迸らせていた。今にも放つ気満々で、その双眸も怒りに満ち満ちている。ここで少しでも相手を挑発しようものなら一発で消し炭である。
しかし、それはあくまでも一般の民族ならば――の話である。実際、目の前にいる男達にはこの攻撃も効くかどうか保証が出来ない。まさにイチかバチかの賭けなのだ。
ファルスター王は今までにもこのような危機的状況に陥ったことがある。だが、その時には持ち前の天運を活かし切り抜けてきた。なので、今回もそれに賭けている節が少しあった。
「俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ、無属性者共がッ!!」
バチバチッ! と青白い光を周囲に放ち、ファルスター王が標的を定める。出来れば一気に五人を叩きたいところだが、生憎とこの攻撃はスピードと威力が高い分範囲が狭かった。なので、そこを突かれればこっちが不利となってしまう。しかし、目の前の敵は幸運にもこちらの攻撃を見たことがない――はずだ。攻撃したとしても恐らく弱点を突かれることはないだろう――そう思っていた。
「くらえ! 『雷迅速の一閃』!!」
大きな雷を体中に帯びた状態で、ファルスター王は一瞬にして目の前の敵――レイヴォルへ迫った。
「……やはり、ただの老いぼれだったか」
嘆息してレイヴォルは顔を俯かせると、目の前に迫っているファルスター王に向かって手のひらを突き出した。同時に手から小球程の大きさの圧縮弾が生成され、相手と同様のスピードで放った。その圧縮弾は凄まじい威力を持っていて、ファルスター王の右胸を光速で貫通し、さらに奥の玉座の間の壁面を突き抜けた。
「おっと、これは申し訳ない。どうやら迫り来る相手に焦って加減を間違えてしまったようだ……くく。許せよ、ファルスター王? そちらから攻撃してきたのだから正当防衛……だろ?」
ニヤリとニヒルの様な笑みを浮かべて言うレイヴォルに、吐血しながら右胸を押さえて地面に片膝をつくファルスター王。
「おやおや、フィグニルト博士? これでは使い物にならないのではないか?」
丸メガネを不気味に光らせながら明らかに人間を見る目ではない眼差しで見下す男に、レイヴォルは言った。
「くく……問題はない。それに、こいつはもうすぐ不死身になるんだ。死ぬ間際だろうと構わんだろ? 今は強制的にでもこいつを仲間にすることと、七つの秘宝の一つを早急に手に入れることにある。もう残る七つの秘宝はここにある『黄金の光聖槍』と、夢鏡王国にある『黄金の自由武器』だけなんだからな」
「それと、後一個の駒が揃えば計画発動まではもう目の前ということか?」
――計画……だと? こいつらは一体何を考えてやがんだ? それに、七つの秘宝が後夢鏡だけだと? くそ、他の国の王は全員やられたってのかよ! これじゃあ王都との約束の意味がねぇじゃねぇか!!
ファルスター王はぼ~っとする意識の中、自分を取り囲むようにしている五人の科学者の会話を聴いていた。
「それじゃあ、急いでこいつを連れて帰って妃愛様の下僕にしちゃおう!」
「それがいいッスね。他の王も待ってるッス」
「儂としてはもう少しばかり暴れたいところだったがな」
アルフレッド、ヴィンセント、ゴルキスが口々に言い、ファルスター王に手を伸ばす。
「まぁ待て。連れて行くならばこれに入れた方が暴れられなくていい」
どうやら言動からして、レイヴォルがこの五人の中では一番偉いのだろうということだけは、朦朧とした状態でも理解出来た。
そして、ファルスター王は結局無抵抗のまま拘束され、謎の透明の四角い箱に閉じ込められた後、五人の科学者と共に玉座の間から姿を消した……。
というわけで四部めで出発した斑希たち。これで、斑希も残すところ戦士はあとひとりです! そう、光蘭を仲間にした時辺りのとこから分岐する際に行っていたトゥインクル・ギャラクシー天文台。そこへ行きます。
また、そこで再び神族と絡みます。
そんでもって、またまた登場クロノスのGAUNとレイヴォル。今回の被害者はフェイルーメニア王国のファルスター王です。一番登場シーン少ないような気がしますが、お気になさらず。ちなみにⅡにも出てます。
てなわけで、次回は三十話を――と思いましたがここで、閑話的なものを。
七つの秘宝の最後の一つを夢鏡王国に取りに行くお話です。




