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『――Orgalt VS Rismard――』

 場所、夢鏡王国。時刻、真夜中の零時。

 夢鏡王国の初代国王『コーガリック=T(トゥカルメス)=リスマード』と初代女王『ヘーニル=D(ディニメラ)=リスマード』が住むこの場所に、今大いなる敵が来訪していた。

 二人の目の前に立ちはだかる全身に金属製の鎧を身につける男。そう、四帝族が一つ、鎧一族の帝王――オメガ=アーマー=オルガルトである。


「久しいな、リスマード。しばらく会わん間にこれほどまでに老けていようとは」


「フンッ、それは貴様も変わるまい。オルガルト……ここへ何をしにきた」


「ほぅ、気づいておらんのか。フッ、老いれば周囲も見えなくなるとはよく言ったものよ。自分の娘の行方も分からんか」


 口の端を吊り上げ悪魔の様に不敵な笑みを浮かべるオルガルト帝。その言葉に、さすがのコーガリック王も気づいたのだろう。眉間にシワを寄せ、青筋を立てて怒声をあげた。


「貴様ッ、娘を――ミーミルを攫ったのかッ!!」


「ガッハッハッハ! ああ、そうとも。貴様の娘には素質がある。だからわしの駒として使用させてもらった。今頃は地下に巣食う白きゴミ共に実験されまくっていることだろう。全てはわしの計画のために……な」


 計画。一体この男が何を企んでいるのか。それは、コーガリック王とヘーニル女王には分からなかった。一つわかるのは、娘を悪用し、害を与えようとしているということだ。いや、もしかするともう既に与えられてしまっているかもしれない。そう思うと、もうこーガリック王を止めることは妻のヘーニルにも無理だった。


「き、貴様ァァァアアアアアアッ!! そこに直れッ! 性根の腐った外道がッ! 娘を返せェェェェェエエ!!」


 ガキィィィィィィンッ!


 愛する娘を助けたい一心で剣を振りかぶったコーガリック王だが、その一撃は激しい金属音を鳴らしただけで憎き男の首を切り落とすことは適わなかった。


「ハァ、わしを失望させるでない、コーガリックよ。貴様には分からんかもしれんが、これは崇高なる計画のためなのだ。ただそのために貴様の娘が選ばれただけのこと。むしろ、ありがたいことなのだぞ? 貴様の娘は人柱となれる。この腐りきった世界を変えるための礎となるのだ!」


「ふざけるなッ! 何が人柱だ! 何が礎だッ! ならば貴様の(せがれ)を使えばよかろう! なぜ吾輩の娘を使われねばならんッ!!」


 明らかにその双眸は憤怒の色に塗り染められており、冷静さは著しく失われていた。すると、隣にいたヘーニル女王が口を開いた。


「わたしからも言わせてもらうわ。オルガルト帝、あなたはわたしがお腹を痛めて産んだ可愛い娘をそんなどうでもいいことに使うつもり? そんなこと許されるとホントに思っているのかしら?」


 コーガリック王同様に、ヘーニル女王も不機嫌な口調だった。その表情は明らかに怒っている。


「やはり貴様らには分からんようだな。まぁいい。所詮貴様らは神王族と繋がりがあるもの。一度は苦しみを覚えるべきだ。さて、わしは忙しいのでな。本命をさっさと片付けさせてもらおう」


「本命……だと?」


 訝しげな顔をするコーガリック王に、オルガルト帝は白い歯を光らせ笑った。


「七つの秘宝、最後の一つ――『黄金の自由武器オーラム・オーダーメイド』を寄越せ」


 腕を前に突き出し、渡せと言わんばかりの顔をするオルガルト帝。だが、七つの秘宝という言葉を聞いてはっきりと王族の二人は目の色が変わった。それは、娘を取り返すということよりも先に、七つの秘宝を守らねばならないという使命感だ。娘よりも秘宝を優先しなければならないほど、この七つの秘宝は大切なものなのだ。それを、あろうことか愛する娘を攫っていった男の手になど渡してなるものかと二人は意気込んだ。


「どうやら、渡す気はないようだな」


「当たり前だッ!」


「これだけは渡さないわよ!」


 嘆息混じりに言うオルガルト帝の言葉に、コーガリック王とヘーニル女王は唇をきゅっと結び覚悟を決めた。最悪差し違えてでも守る所存だ。そんなことになれば今後の夢鏡王国の存亡が危ぶまれるが、そんなことを気にしている暇は今の状況にはない。


「ならば、強奪するのみッ!!」


 そう言ってオルガルト帝が先に動き出した。瞬時にその場から移動したオルガルト帝は王族二人に向かって手に生み出した波動を打ち込んだ。

 コーガリック王は背中に、ヘーニル女王は右肩にそれぞれ波動を受けてしまい、二人はそのまま地面に叩きつけられた。


「ぐぅッ!」


「がぁっ!」


 悲痛の声をあげる二人を他所に、オルガルト帝は余裕綽々として今度は両手に魔力の球を作り出すと、それを上空に掲げた。


「さぁ、くらえッ!」


 叫ぶと同時に球が破裂し、小さな散弾となって全方位に向かって容赦なく降り注ぐ。激しい攻撃の連続に二人は疲弊しているが、それでも何とか魔力で防壁を張って防御していた。だが、その二人の辛そうな表情にもうひと押しと踏んだオルガルト帝はニッと笑みを浮かべて滅びの魔力を纏った剣を生成した。


「そ、それは――ッ!?」


「ヌッフッフッフ、この剣にて貴様らの体を滅してくれるわッ!」


 ブゥゥゥゥゥンッ!!!


 空を切るような音の後、衝撃波が生まれて王族二人を襲う。


「ぐわぁああああああッ!!」


「きゃあああああああっ!!」


 二人はまるで人形のように衝撃波によって体中を切り刻まれて吹き飛ばされ壁に激突した。壁がへこみ、そこにめり込む形になって二人が(こうべ)を垂れる。


「うっ、くっ……!」


「な、……なんて強い、の」


 コーガリック王とヘーニル女王の二人はこの男には勝てないと悟った。何がここまでこの男を強くしているのかが理解できない。何よりも、まず二人は違和感を感じていた。

 実はコーガリック王とオルガルト帝は随分前に知り合っている。だが、その時にとある意見の食い違いで分かれて以来ずっと連絡を取り合っていなかったのだ。

 そして、久しぶりに再会しての戦闘。その結果にコーガリック王はオルガルト帝の動きに違和感を少なからず感じているのだ。動きが明らかに別人と言えたんだ。まるで何者かに体を乗っ取られているかのような、そんな感じ。


「なんだ、もう終わりか? つまらん、少しは鬱憤晴らしにでもなるかと思っていたのだが、興醒めだ。さて、最後の七つの秘宝を手に入れ帰るとするか」


 そう言うとオルガルト帝は指を鳴らした。すると、既にあらかじめ探りを入れていたのだろう。どこからともなく空間を歪ませて白銀の髪の毛に黄土色の双眸を持つメガネをかけた青年が姿を現した。白衣を着ているため、クロノスのものだということはすぐに二人には理解できた。


「く、クロノス……。どうして、あなた達まで」


「くく、これはこれは美しきヘーニル女王。ボロボロの姿になっても尚美しさを失わないとはさすがだ。だが、今回の勝者はこっちであったな。ああ、ついでに教えてやろう。ッミーミル姫はよくやってくれた。やつの子もスクスクと育っているよ」


「こ、子供っ!?」


「き、貴様ッ! ミーミルに何をしおった!!」


「くく、そのうちわかる。さて、ではこの最後の七つの秘宝、黄金の自由武器オーラム・オーダーメイドはありがたくもらっていくぞ?」


 踵を返した男は、高らかに笑い声をあげながらその場から姿を消した。次いで、オルガルト帝が振り返り様に口を開く。


「まぁ、ミーミルの事は諦めるんだな。励んで第二子を産めばいい。そして、その子に第二のミーミルと名をつけて育てればそれでよかろう、クックック、ガーッハッハッハッハ!!!」


 腕組をし、邪悪で邪なまるでそう――神族の四つの中に分類される一つ、魔族のような雰囲気を放ちつつ、オルガルト帝は姿を消した。

 その場に残ったコーガリック王とヘーニル女王は閉口したまま何も喋れなかった。だが、このままというわけにもいかないため、先にコーガリック王がゆっくり体を動かしてめりこんだ体を壁から引き剥がし、次いでヘーニル女王を壁から引き剥がした。


「ありがとう、コーガリック」


 手首を優しくさすりながら夫に礼を言うヘーニル女王。すると、照れたコーガリック王が腕組をして背を向けながら口を開いた。


「礼を言われるほどのことではない。だが、七つの秘宝の最後の一つということは、他の者達は全員やられたということか」


「ええ、恐らく。でも、どうしましょう……あのままでは王都さんとの約束が」



「うむ、分かっておる。しかし、……第二子、か」


 突如顎に手をやりオルガルト帝に言われたことを振り返るコーガリック王。すると、その言葉にヘーニル女王が頬を紅潮させて胸を庇うように覆った。


「……え、えっち」


「ナッ! な、なんの話だ! 吾輩はただ、ミーミルは一人っ子だからどうせなら姉妹にしてやろうとだな?」


 いきなり失礼極まりないことを言われて赤面したコーガリック王が言う。その慌てふためきように、ヘーニル女王はジト目で見ながら口を開いた。


「本当かしら? なんだか怪しいわね。この世界に危機が迫っているというのに、いやらしいこと考えてたんじゃないのかしら? いい歳こいてあっちの方は元気なんだから」


「はんっ! 吾輩には何のことだかわからんな。それよりも、他の王国に連絡だけ入れておこう。何か情報があるやもしれん!」


「あら、急に話を切り替えるだなんて。余程図星だったのかしら? まぁいいわ。からかうのはこの辺にしておいて……連絡ね? 入れておくわ」


 くすっと小さく笑ったヘーニル女王は、踵を返すと連絡をしにその場を後にした。その後ろ姿を見ながらコーガリック王は妻に別段大きな怪我がないようでホッと安堵し玉座に座ったのだった……。

というわけで、今回は主に登場人物三人でお送りしました。また、年齢層が高い人が今回は多かったです。コーガリック王は高年齢ですが、ヘーニル女王は低年齢です。年の差結構あります。さらに、第二子の件ですが、産まれるかどうかはまたまた作者の気分次第です。

てなわけで、次回三十話は敵側の話をお送りします。伝説の戦士の話は三十一話でやるかと。いよいよレイヴォルの言っていた最後の駒が登場します。

さぁ、一体誰なのか? お楽しみに。

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