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第二十四話「霧霊霜一族と嵐一族」・3

「て、テメェ・・・・・・オレが誰だか・・・・・・わ、分かってんのか? オレはリーヒュベスト帝国の王にして、嵐一族のげ、現当主、嵐暗冷だぞ!?」


「・・・・・・ふっ、だからどうした? そんなもん俺には関係ねぇぇぇぇぇえええええええ!!!」


 俺は刀を握って空を切ると、足を踏み込み前方に瞬時に移動した。無論、標的はただ一人――暗冷だ。


「ま、待て待て待て待て待ってくれぇえええええええええ!!!」


 暗冷が腰を抜かして地面にヘタリ込み、片手を前に突き出して必死に懇願するも、今更俺の怒りは抑えられない。

 俺は地面すれすれを滑空して暗冷との距離を縮めると、刀を横薙ぎにした。しかし、寸前で暗冷の姉二人が手を横にして盾となって俺の進行を妨害した。無論止まれるはずがない。俺は既に刀を横薙ぎにしている状態だった。だが、少しでも二人へのダメージを減らそうと、俺は強引に身を後ろに引かせた。

 おかげで俺の刀のリーチが短いというのもあったが、幸運にも二人は刀の衝撃波を服すれすれにかするだけで済んだ。


「ふぅ・・・・・・危なかった。何してるんですか二人共! もしも俺じゃなかったら確実に死んでましたよ今の!!」


「ごめんなさい。でもやっぱり、暴れたり言うことを聞いてくれないわがままで怒りん坊のあっくんだけど、それでもこの子は私達の可愛い可愛い弟なの! だから殺さないで!!」


「さ、咲夜・・・・・・」


「咲夜の言う通り。わたしも、いつも影が薄いとか表情が乏しいとか、弟にイジめられてばっかりだけどそれでもやっぱり弟が殺されるのをじっと見てられない」


「亜夜・・・・・・」


 二人のメイドさん――咲夜さんと亜夜さんはそう言って涙を流しながら俺に許しを()う。


――あれ? 何だか俺が悪者みたいになってない? てか、二人とも重大な勘違いをしてる!?



 「す、すみません・・・・・・二人とも、その、泣かないでください。別に俺は暗冷を殺そうとか思っちゃいませんよ! ただ、その少し懲らしめてやろうとしただけで・・・・・・」


「え? ほ、ホント? ホントのホントに殺さない?」


「当たり前ですよ。第一、暗冷は伝説の戦士の一人なんですから、殺したら元も子もないじゃないですか!!」


 俺は、グスッと鼻をすすりながら目を真っ赤にしている二人に説明する。しかし、そこに暗冷が口を挟んできた。


「もういい、姉貴・・・・・・」


「・・・・・・あっくん」


「暗冷・・・・・・」


「仕方ねぇ・・・・・・。これ以上姉貴達を泣かせるワケにはいかねぇかんな・・・・・・」


「あっくん、ありがとう。お姉ちゃん、今の言葉すんごく嬉しいよ!」


「わたしも」


 暗冷が頬をかきながら照れくさそうに言う言葉に、咲夜さんと亜夜さんは頬を染めて嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 と、その時――。


ビリリッ!! ビシャッ!!


 と、何かが破ける音がしたかと思うと、次の瞬間二つの悲鳴が聞こえた。


「きゃああああああああっ!!!」


「いやああああっ!!!」


 何事かと悲鳴のする方を見てみれば、さっきまで感動の涙を流していた咲夜さんと亜夜さんが、産まれたままの姿でその場に蹲っているではないか!!

 一体何事かと俺が近づこうとすると「こ、来ないでぇええ!!」「い、今はだめぇ・・・・・・」と、二人の弱々しい声が返ってきた。二人のすぐ目の前にいる暗冷も顔を真っ赤にし、鼻から鼻血を噴出しながら目のやり場に困っている。


「ど、どうやらそこの二人の女性は・・・・・・さ、さっきの月牙くんの、こ、攻撃の衝撃波を僅かに受けていたせいで、じ、時間差で服が破けてしまった、み、みたいだね・・・・・・。で、でもまさか、少しかすったくらいで破けてしまうなんて、じ、実際に攻撃を当てていたら、ふ、二人とも生きてはいないだろうね・・・・・・」


 後ろから震える声で説明する人物に俺が振り返ると、そこには城の柱にしがみついて女子からなるべく距離を取っている刻暗の姿があった。


――なるほど、さっきのアレが・・・・・・。てことは、これ俺のせいじゃん!!



「テンメェ~・・・・・・。はなから姉貴達の裸が目的だったのか!?」


「は、はぁ!? な、何言ってんだお前!!」


「そーだろが!! さっきだって姉貴達の胸、チラチラ見てたじゃねぇか!!」


「え、うそ・・・・・・ほ、ホントなのそれ?」


「優しい人だと、思ってたのに・・・・・・」


 暗冷の根も葉もない嘘を信じ込む咲夜さんと亜夜さんの二人が、その言葉を聞いて俺の見る目を一瞬にして変える。


「い、いや違うんですよ!」


「きゃーっ! 近づかないで変態!!」


「女の敵・・・・・・」


「だ、だから違うんですって!! おい、水恋達も何とか言ってくれよ!!」


 一人では手に負えないと踏んだ俺は、後ろで待機している他のメンバーに助けを求めた。しかし、水恋は冷たい目と言葉で俺に返す。


「話しかけないでください・・・・・・。まさか、月牙さんがそんな人だったなんて幻滅です。すごく強くて、優しい人だとお慕いしていましたのに・・・・・・」


「え? な、何言ってんだよ水恋! あいつの言葉を信じるな!! あれは俺を騙そうとしてんだ!!」


「今更そんな言葉、信じられません」


 自身の胸を腕で覆って庇うようにしながら水恋は俺から距離を取る。


「お、おい・・・・・・凛も霧矛も何とか言ってくれよ!」


「あんたはもっと従順なペットだと思ってたわ。失望したわよ! 普通、ペットならご主人様の体を見なさいよね!! た、確かに私はお姉ちゃんよりも胸小さいけど・・・・・・って、何言わせんのよバカァ!!!」


ゴフッ!!


「ぶべらっ!!」


 人差し指同士をコツコツ当てながら俯き気味に言う凛は、後半何かをボソボソと呟いたかと思うと、急に顔を真っ赤にして俺にグーパンしてきた。俺は唐突な攻撃に(かわ)すことも出来ず、モロにその攻撃を受けて後ろに飛び、地面に背中を打ち付けた。


「イッテテテテ・・・・・・。ったく、何なんだよ~」


 俺がゆっくりとその身を起こすと、目の前に霧矛の姿があった。


「む、霧矛・・・・・・」


「わたしは月牙さんのこと信じてた。確かに最初会ったときは、わたしに攻撃してきて悪い人かと思ったけど、でもそれはわたしの勘違いだった。・・・・・・でも、その人がわたしのお姉ちゃん達をイヤらしい目で見てる人だったなんて、裏切られた気分だよ。最低だね・・・・・・」


グサッ!!


 その最後の一言は、俺の心に深い傷を刻み付けた。返しがついた心を傷つける槍が、俺の心にダメージを蓄積する。だが、抜こうとすれば返しが俺の体に刺さってよけいに嫌なことを振り返させられる。

 他の皆も俺を蔑んだ目で見ていた。距離を取る者、軽蔑の眼差しを向ける者、薄汚れたケダモノを見るかのような目で見る者様々だ。


――まずい、まずいぞ・・・・・・。このままだと、俺は多くの伝説の戦士を失ってしまう。特に水恋や凛は帝族と王族の血を引き継いでいる。これを失うのはすんごく手痛い。それだけは何としてでも阻止しなければ。このままでは暗冷の思うがままだ! くそ、このガキ、帝族の上に伝説の戦士というのが厄介だな。何とかこいつも仲間にしたいが・・・・・・。どうすればいい? それに、このままだと確実に女子メンバーがゼロになる。冤罪なんかで仲間の信頼を失うのはごめんだ!! それらのことは後で改善して誤解を解くとして、まずはこいつらを引き止めないと・・・・・・。でも、どうやって? 何か手は?



 俺は必死に脳内で思考回路をフル回転させた。思わず脳内の経路がショートして使い物にならなくなってしまいそうな感じだ。

 すると、頭を抱えている俺の元に誰かが歩み寄ってきた。ふと視線を上にあげると、すぐ近くに白衣が見えた。


――猛辣だ。やつは俺を見下ろすと、ニヤリといつものあの不気味な笑みを浮かべて俺の耳元で囁いた。


「いいかい、月牙。君は実に面白い。ヒヒッ、君のおかげで私はいつも退屈しないよ。でも、それも今では全く感じられない。ヒヒッ、君にはいつもの君に戻ってもらって、私を楽しませてもらいたいんだ。だから、これから私の言うセリフを言うんだ。そうすれば、君は元の君に戻り私も再び楽しむことができる。ヒヒッ、どうだい? 試してみないかい? やる価値はあると思うよ~? ヒヒッ!」


 俺はその時、猛辣が救世主の様に思えた。・・・・・・一瞬だが。


「お前ら、待ってくれ!!」


 広間を後にしようとする女子メンバーを引き留めようと、大声を出して止める俺。傍でその様子を見ていた刻暗は、少しばかり残念そうだ。まぁ、こいつは女子が苦手だからな。いない方が伸び伸びと出来るのだろう。


「何ですか?」


 不機嫌そうな顔で訊く水恋。俺は早く先ほど猛辣から言われた言葉を言おうと息を吸った。近くで見ている暗冷や咲夜さん亜夜さん、そして紫音も不思議そうな顔をしている。

 準備を整えた俺は、声を張り上げてこう叫んだ。


「お前らの言うこと何でも聞いてやるから、俺の元に戻ってきてくれ、頼むッ!!!!」


 俺は大声でその言葉を叫んだ後、背筋と指先をピンと伸ばしてかかとを閉じ、つま先を六十度開いてお辞儀した。すると、その言葉にさっきまで俺に背中を向けていた女子メンバーがクルリと踵を返してこちらに歩み寄ってきた。そして、凛が真顔で俺に訊いてきた。


「ねぇ、今の言葉本当?」


 俺は意表を突かれながらも「あ、ああ」と頷き答えた。

 刹那――答えるや否や、凛たちは大喜びでジャンプしてハイタッチなどを始めた。


――どうなってんだ? でもまぁ、これでこいつらが離れることはないだろう。



 と、俺は安堵して胸をなでおろした。


「ち、ちぃ! オレの完璧な作戦が無駄だったか。まぁいい。とにかく、オレは仲間になんかなんねぇかんな!!!」


 腕を組んでそっぽを向いた暗冷は、そう言ってその場から退出しようとした。しかし、そこで俺は暗冷を引き止める言葉をかける。


「なぁ、勝負しないか?」


 その言葉にピタリと足の動きを止める暗冷。そして、ゆっくりとこちらに顔を向けるとニヤリと笑みを見せて答えた。


「ケッ、面白ぇ・・・・・・。やってやろーじゃねぇか!」


 こうして、俺は暗冷と勝負をすることになったのだった・・・・・・。

というわけで、お仕置きされるはずが――姉二人のメイド服をビリビリに破ってしまい――って、え?

あれ? なんでお仕置きが変態みたいなことになってんの。

いやはや、月牙はほんとツイてないというか、なんというかアレですね。

そして、そのせいで危うく女子メンバー全員失いそうになるハメに。

が、猛辣のアドバイスによる発言のおかげでなんとか阻止。しかし、何でも言うことを聞く。いやな予感しかしません。

てなわけで次回二十五話は勝負をし、後半は百合になります。まぁ、見てのお楽しみです。

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