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第二十四話「霧霊霜一族と嵐一族」・2

「これは何だろうなぁ~?」


 俺がそう訊くと、後ろにいた水恋が口を開いた。


「カードの様ですね・・・・・・。でもそれが――あっ!」


 カードをよく見ていた水恋が、あることを思い出したように声をあげる。


「どうかしたのか?」


「実はその・・・・・・。昔、小さい頃に暗冷くんが私や鈴華さんと一緒にトランプをして遊んでいたなぁ~と思いまして・・・・・・」


「トランプ・・・・・・ふっ、やっぱりな」


「す、水恋テンメェェエエ!!!」


「あっ、すいません・・・・・・このことは秘密にするのでしたね?」


 ハッと口元に手をやり、わざとらしく謝る水恋。いつもの水恋とは違う一面が見れて、俺は一瞬戸惑った。


「ところで、トランプで何してたんだ?」


 俺の質問に暗冷は黙り込む。しかし、すかさず紫音が説明した。


「暗冷は、部下の者と一緒にババ抜きやってたのさ。ねぇ、暗冷?」


「紫音、テメェ!! てか、あれほどカードは全て片付けるように言っといただろーが!! テメェは、命令もまともに完遂出来ねぇのか!?」


 嫌味の様に言う紫音に、暗冷は仕事のことについて話し出す。紫音も今の話には言い返せず、下唇を噛み締めた。


「って、また喧嘩してんじゃねぇよ!! それよりも、さっさと本題に移りたいんだが・・・・・・」


「そうだったぜ。そもそもテメェらが何でここに来たのかだ!! 何しにきやがったんだ!!」


 本題に入った途端に暗冷も大人しく喧嘩を終わらせ、本題について問いただす。恐らく、これ以上喧嘩をしても逆にこちらが負けてしまうと踏んだのだろう。


「俺達はお前に頼みがあってきたんだ!」


「頼み・・・・・・だぁ?」


 明らかに嫌そうな表情を浮かべる暗冷に俺は頷く。


「そうだ。こいつを見て欲しい・・・・・・」


 そう言って俺は暗冷に黄金の地図を見せた。


「眩しッ!! 何なんだそりゃ!?」


 暗がりの部屋に急に眩しく光り輝く黄金の地図を見て、暗冷は目を細めて腕で顔を覆った。


「お前は伝説の戦士を知っているか?」


「あったりめぇだ!! オレは四帝族の一つ――嵐一族の当主だぜ? んなこと知ってて当然だぜ!! んで? その伝説の戦士がどーしたってんだ?」


 玉座に座り、偉そうに腕と足を組んで俺に訊く暗冷。俺はその質問に答えた。


「この地図にはその伝説の戦士の居場所が記されているんだ!!」


「そいつに?」


「ああ・・・・・・。そして、お前はその伝説の戦士の一人なんだよ!!」


「・・・・・・ふっ、はは――あっははははははは!!! 何を言い出すかと思えば、んなことかよ!!笑える、笑えるぜ。ったくよ――っざけんじゃねぇぞ、このクソヤローがああああああァァァァ!!!!」


 いきなり笑い出すかと思えば、突然怒り出した暗冷は邪悪な魔力を体中から(ほとばし)らせ、俺に向かってその膨大な魔力をぶつけてきた。


ドギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!


 凄まじい魔力の大轟音が城の広間中に響き渡り、ようやく収まる。俺は両腕でガードしていたが、そんな俺の前には青い髪の毛を風になびかせる少女の姿があった。――水恋だ。


「お、おい・・・・・・お前!」


「月牙さんに手出しはさせません!!」


「チッ、どこまでもオレをコケにしやがんのか水恋!!」


「昔のことをいつまで根に持っているのですかあなたは! 良い加減そのような過去は水に流しましょうよ!!」


 構えていた武器を降ろし、涙目で相手に語りかける水恋。しかし、暗冷は首を横に振り言った。


「あの忌まわしい過去をオレに植え付けたのはテメェと鈴華だろーが!! オレはあの屈辱的な日々を忘れねぇ!! 確かにあの時は紫音も混ざって三対一でオレの完敗だったが、今は違ぇ!! ぜってーにオレが勝つッ!! いや、勝たねぇといけねぇんだあぁァァァ!!!」


 そう言って再び作り出した魔力の球をこちらに向けて投げてくる。暗冷の頭上で作り上げられた巨大な魔力の球は周囲の自然魔力をも吸収してどんどん巨大化し、俺達の目前にまで迫ってきた時にはその大きさは計り知れない物となっていた。


「うわぁああああ!!!」


「くっ、せめて月牙さんだけでも逃げてください!!」


「おい、水恋何言ってんだ!!」


「これは私と暗冷くんとの問題です。いわば、四帝族関係の話だとも言えます。ですから、ここは私に任せておいてください!! お願いします!!」


「けど――」


 俺が水恋に言い返そうとしたが、その手前で近くにいた凛に腕を掴まれた。


「ちょっと何やってんのよバカ! お姉ちゃんが任せてって言ってるんだから、離れるわよ!!」


「凛まで何を言ってんだ!! あんな巨大な魔力球くらったらひとたまりもねぇぞ!?」


 今にも水恋に直撃しそうになっている魔力球を指差して俺は凛に説明した。しかし、頑として凛は頷かず俺の手を引いて後ろに下がらせた。


 刹那――ビュボォォォォォォオオオオオオンッ!!!


 巨大な魔力球が水恋の体に触れたと同時に炸裂し、大きな轟音と爆音が鳴り響き大きなキノコ雲が舞い上がった。


「す、水恋!?」


 俺は我が目を疑った。こんな所でよもや仲間になるはずの側に攻撃を受け死ぬことになるとは思わなかった。もしも水恋が死んだとなれば、故郷にいる水恋の妹――水兎(みなと)や他の者達にも悲劇を与えることになる。それだけではない。四帝族の一人が欠けることで力バランスが乱れて大変なことになるかもしれない。そうなれば、重大な責任を問われることになり、必然的にあいつと行動を共にしていた俺が責任を取って裁きを受けることになる。事の発端である四帝族の一つ――鎧一族の当主、オメガ=アーマー=オルガルトが目の前にいるというのに、こんなところでBAD ENDなどもってのほかだ。


「バカ! あんたはホンットにバカね!!」


「・・・・・・なんだよ、バカバカって・・・・・・。だって、水恋が死んだんだぞ? お前は悲しくないのか?」


「だからバカだって言ってんのよ!! よく見てみなさいよ!! お姉ちゃんは死んでなんかいないわ!! ちゃんといるじゃない!!」


「え?」


 眉毛を吊り上げ、腰に手を当ててそう言う凛の言葉に、俺は手の甲で目を擦ってもう一度水恋を探す。

 すると、未だにモワモワと舞い上がっている煙の中に一つの人影があった。


「す、水恋!!」


 俺は思わず声をあげた。水恋はボロボロの姿ではあるものの、ちゃんとその場に立っていた。武器を持ち、真剣な眼差しで口の端から垂れる血を拭っている。綺麗な青い髪の毛は砂埃で汚れてしまい、顔や体のあちこちも傷だらけで、出血も僅かながらにしている。その上、服も所々破れていた。


「コホコホ・・・・・・幼馴染にこんなことするなんて酷い人ですね、全く・・・・・・」


「誰が幼馴染だ! テメェはただの腐れ縁だ!! ・・・・・・テメェだけは許さねぇ!! あの時の屈辱、数千倍にして返してやんぜ!!」


 暗冷は完全に戦闘モードだ。隣にいる紫音も必死に暗冷を止めている様子だが、力が及ばないらしく、手に負えないようだ。


――こうなったら、やはり俺が止めるしかないのか?



 親指の爪を噛みながら俺は考え込む。ただ、俺にも一つ気になることがあった。それは――。


「おい、暗冷! さっきから気になっていたんだが、どうしてお前はそこまで水恋に恨みを抱いているんだ?」


 その質問に頭上に巨大な魔力球を作り出していた暗冷が手を止めた。同時に形成中だった魔力球も形を崩して消え去る。


「聞きてぇか? だったら聞かせてやるぜ!! 昔々、オレは二人の幼馴染と一人の従姉の四人で遊んでいた。毎日が楽しく飽きない時間を過ごした。だが、そんなある日、悲劇は起こった。王様ゲームをしていた時のことだ。王様になった鈴華はオレに命令した。『三番の人は他の番号の人達に女装させられなさい』とな。オレは一瞬固まったさ。だが、脳内で繰り返されるその命令内容に確信を得ちまった。間違いなく今鈴華は俺に対して女装しろと言ってきた。それは紛れもない事実だ。しかも、王様の命令は絶対。逆らえるわけもなく、俺は女装させられた。その時の羞恥ったらねぇ・・・・・・。自分で着替えるならまだしも、同い年の・・・・・・しかも女から着替えを手伝われるんだ。まさしくあれは失態だったぜ。おまけに、あいつらはそれに味を占めてそれ以降王様ゲーム以外でも何かと罰ゲームを作っては、オレ一人をハメて(もてあそ)びやがったんだ!! んなのが許せるか? 許せねぇよなァ~? だからオレは、こうやってこいつらに復讐してんだ!! だが、それだけじゃまだ足んねぇ。なにせ、こいつらはオレの弱みを握ってんだからな!!」


「弱み?」


 長い昔話の後、俺は首を傾げ訊く。すると、暗冷は顔面蒼白となって俺に言った。


「こいつらはオレが女装した時の写真をまだ持ってやがんだ。あの時、確かに抹消したはずなんだ。データも全てだ!! だが、こいつらは何度も何度もオレに会ってはその写真を見せびらかしやがる!! だったらいっそ、こいつら本人を消しちまえばんなことにはなんねぇだろうとな・・・・・・」


「確かに、写真で脅すってのは・・・・・・」


「待ってください月牙さん! 暗冷くんの言い方では語弊と誤解を生みます! いいですか? 確かに私達は王様ゲームで暗冷くんを女装させました。これは事実です。でも、これには私達四帝族と紫音さんしか知りえない裏話があるのです」


「裏話?」


 少し気になるワードを口にする水恋に、俺は少し興味を抱いた。水恋は頷き説明する。


「あの時、私達は女装している暗冷くんを写真に収めました。写真に収めた後、絶対に暗冷くんはこの写真を消したがるだろうと思い、私達はあらかじめ暗冷くんに写真を奪われう前にコピーを取っておいたんです。後はコピーを絶対にバレないような場所に封じ込めれば、後はいくら他の写真を盗られようが痛くも(かゆ)くもなかったわけです。案の定、暗冷くんは私達から全ての写真を奪い抹消しました。でも、そこで誤算があったんです。コピーを隠していた場所に盗賊が踏み込み、その写真を盗まれてしまったんです。それで、結局私達は写真を奪い暗冷くんを(いじ)って楽しむことも出来なくなりました」


「シリアスっぽく言ってるが、結構サディスティックなことするなお前ら・・・・・・」


「これは私ではなく、鈴華さんが考えたことですから・・・・・・」


「鈴華って何者なんだよ」


 俺は度々出てくる四帝族の一つ――鳳凰一族の鈴華の存在について疑問を抱いていた。

 鳳凰鈴華――水恋と同様四帝族の一人にして、鳳凰一族の現当主だ。『七自然属性の不死身巫女』とも呼ばれている赤髪に黄色い双眸を持つ少女。その二つ名の由来は、彼女の持つ特別な力が理由なのだとか。何でも『火・土・雷・風・光・水・闇』という自然に関わる七つの属性を持っていて、それを自由自在に扱うことで強敵とも渡り合えるらしい。普通はその自然属性は各個人に一つずつしか受け継がれないはずなのだが、鈴華だけは例外で七つ全てが受け継がれたそうだ。それからというもの、鈴華の噂はあらゆる場所に広まり、今や超人気者となってしまった。そのせいで、悪い輩に狙われることもしばしば増えた。その度に他の巫女が死守するのだそうだが、ついには鈴華に目をつけた鎧一族とクロノスによって連れ去られてしまったとこういうわけだ。ちなみに、これらは全て水恋に聴いた。

 暗冷はこういったことについてはあまり詳しくないらしい。


「まぁ、そういうわけですから・・・・・・私達の間には深い溝ができてしまったのです」


「そりゃそうだろ・・・・・・。てか、殆どお前らが前面に悪いと思うけどな」


「だろ!?」


 俺が暗冷の肩を持っているところに、同意を求めてきたのは暗冷本人だった。彼は「やっぱオレが正しいよな!?」と言った顔で俺に訴えかけてくる。


――そんな眼差しで俺を見るな。



 と俺は心の中で呟きながら暗冷に言う。


「それはともかく、俺はさっさと本題に移らせてもらいたいんだが・・・・・・」


「本題だァ?」


 暗冷が眉間にしわを寄せながら(あご)をしゃくれさせ訊く。


「さっきも言ったが、お前には俺達と一緒についてきてもらう」


 俺は真剣な面持ちで彼にそう言った。しかし、暗冷はさらに目つきを悪くして言い返す。


「却下だ! オレは誰の下にもつかねぇ・・・・・・。オレは一国の王として君臨し、この国を動かすんだよ、邪魔すんじゃねぇクソガキ!!」


 その言葉にはさすがの俺もカチンと来た。思わず俺は、先ほど召喚した如月の魔力を自身の体内の魔力と結合させ、強大な魔力を練り上げていた。


「お前・・・・・・、年上に対して何だその態度は・・・・・・?」


「な、何だテメェ・・・・・・。んな魔力一体、どこに隠して――」


「お仕置きが必要だな!!」


 そう言って俺は腰に携えていた得物を片手に持ち、鞘から『月光刀』を引き抜いた。月を象ったキーホルダーが宙に揺れ、刀身は暗がりの広間にも淡く光り輝いている。月の魔力を帯びたこの刀は多大な攻撃力と威力を誇っているはずだ。

というわけで、月牙を怒らせてしまった暗冷はお仕置きされることに。

しかし、よ~く見ると暗冷の周りって部下以外の側近と世話役は女じゃね?しかも、血縁関係者じゃね?

しかも、姉二人をメイドってどんだけですね。おまけに側近は元暗殺者って、用心棒以上でしょ。

そんな暗冷くんが三部めでお仕置きです。

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