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第二十五話「殺戮の暗殺者と黒影の暗殺者」・1

「次は俺の番だな・・・・・・」


「さぁ、早く引きな!」


 紫音は口の端を吊り上げて俺に向けてトランプを差し出す。無論、カードの中身が見えないように――。

 そう、今俺達は勝負としてトランプのババ抜きをやっている真っ最中だった。本当は剣を交えて戦おうと考えていたのだが、暗冷がどうしてもトランプで戦いたいというので、仕方なく了承したのだ。


「次はオレだ。オラよ!」


「ち、ちょっと! 少しは丁寧に渡せないのですか?」


「何でオレがてめぇに優しくカードを差し出さなきゃなんねぇんだよ!! んなことしてられっか!!」


 そう言って暗冷は水恋に文句を言った。水恋は嘆息しながら呟く。


「昔はもっと優しい人だったのですが、どうしてこのような残念な方になってしまわれたのでしょうか?」


「んだとてめぇ!! オレがいつ残念なヤローになったってんだ!!」


「その口調ですよ。昔はもう少し優しい口調だったではないですか! どうしてそのような口調になったのですか?」


 訝しげな表情でそう(たず)ねる水恋。それに対して暗冷も言い返す。


「オレはてめぇの知ってる今までのオレじゃねぇんだ!! ニューオレとして生まれ変わったんだよ!!」


 俺はそんな二人のやり取りを水恋の持つトランプから一枚カードを引きながら聴いていた。


「何なのですかニューオレって!! 訳が分かりません。月牙さんも何とか言ってやってください!!」


「え、俺!?」


 突然俺にふられてしまったので、俺は参ってしまった。


「ま、まぁ人は変わる生き物だからな・・・・・・。そういうこともあるさ!」


「ふんっ、だろ? やっぱ、分かってんなテメェは!」


 暗冷はうんうん頷きながら俺の言葉に同調する。


「・・・・・・もぅ、月牙さんのバカ」


「え、何か言った?」


「なんでもありません!!」


 水恋が何と言ったのかが聞き取れず内容を訊いたが、少し声を荒げてそっぽを向いてしまった。


――何か気に障ることでも言ったのだろうか?



 と、俺は訝しげに思ったが勝負の最中なのでこちらに集中することにした。

 すると、後ろで俺達が勝負を終えるのをじっと待っていた他のメンバーの一人、凛が黄金の地図を見て何かに気づいたらしく、俺の元へ駆け寄ってきた。


「ん、どうした?」


「ちょっとこれ見てくれる?」


 互いに声が聞こえる範囲で会話し、凛は俺に黄金の地図を見せると、指である場所を指し示した。するとそこには、俺達とこれから仲間にする予定の暗冷の他にもう一人、伝説の戦士の反応があったのだ。しかしおかしい。さっきまでは全く反応がなかったというのに、どうしてまた、今になって反応を示したのだろうか。

 とりあえず俺は、その地図の場所と自分たちのいる場所とを確認しあった。そして、その赤く点滅する点が何者なのかが分かると同時に、俺達二人は驚愕して互いの顔を見つめあった。


「嘘でしょ?」


「だが、地図にはそう示されている・・・・・・間違いない!」


 そう、その人物とはあろうことか暗冷の従姉である紫音だったのだ。すると、紫音がこちらの視線に気づいたのか、首を傾げてこちらを見返してきた。


「どうしたんだい? あたいの顔に何か付いてるとか言うんじゃないだろうね?」


「ち、違うって!! その・・・・・・」


「これを見て!!」


 そう言って俺が紫音に説明する前に凛が黄金の地図を見せる。


「これは、さっき暗冷が伝説の戦士を示す時に使った地図だねぇ。これがどうかしたのかい?」


 あくまでもトランプを続けつつ話をする紫音。二つのことを同時にするとは何とも器用なやつだ。


「ここの点が暗冷のなんだけど、ここにもう一つ点があるの・・・・・・。この位置、これはあなたを指し示してるんじゃない?」


 凛が真剣な目で紫音を見つめる。向こうも負けじと見返すが、しばらくすると向こうが鼻で笑って言った。


「だったらどうだってのさ? 今は暗冷があんたらの仲間になるかどうかの勝負をしてるんだろぅ? あたいは関係ないじゃないのさ」


「いいや関係大ありだ! お前も伝説の戦士だってんなら、お前も仲間にして連れて行く必要があるからな!!」


「はぁ~、全く・・・・・・あたいは暗殺者(アサシン)だよ? 一匹狼で群れなんて成さないのさ! それなのに、暗冷が無理やり暗殺団からあたいを抜擢して、さらにはあたいを側近なんかにして・・・・・・おかげ様ですっかり腕が(なま)っちまったよ!! だからこそ、あたいはあんたらに(くみ)するつもりは毛頭ないよ!! 分かったらさっさと諦めるんだね!!」


「いや、俺たちは諦めない!! 絶対にお前も仲間にしてみせる!!」


 紫音の獲物を睨み殺すかのような目力に俺は一瞬怯みそうになるが、何とか持ちこたえる。すると、暗冷が言った。


「いいぜ? 今やってるこの戦いと、もう一つの戦いでテメェらが勝ったら、オレ達二人ともテメェらの仲間になってやらぁ!!」


「んなっ、ちょっと暗冷、あんた何勝手にあたいの意見なしに決めてくれてんのさ!! あたいはまだ仲間になるだなんて一言も――」


「グダグダ言ってんな、頑固女!! 今のテメェは暗殺者でも何でもねぇ、ただのオレの側近だ。だったら側近は側近らしく、オレに従いやがれ!!」


「クッ・・・・・・あたいも焼きが回ったようだねぇ。いつもならお得意の鎌で首を切り落として、その生意気な口を黙らせてやれるんだけど」


 脅し口調でそんなことを暗冷に言う紫音。しかし、暗冷は少しも怯んでいない。むしろ、好戦的に言い返す。


「ケッ、どうせ従弟を()る自信もねぇくせによ!!」


 一瞬俺はその言葉に本当に紫音が暗冷を殺してしまうんじゃないだろうか? と思ったが、実際は違った。ただ先ほどの暗冷の言葉に僅かながら紫音の体から凄まじい殺気が放たれていたことは事実だ。つまり、あそこで紫音の心が彼女自身にストッパーをかけていなければ、今頃暗冷はあの世行きだったということになる。本当に紫音があそこで踏みとどまってくれてよかった。でないと、一人伝説の戦士が減ってしまうことになるからな。




 それから何分かが経過して、ようやく一戦目が終了した。結果はこちらの勝利だ。最初に俺が一抜けし、水恋が三抜けしてくれたおかげで勝てた。もしもあそこで暗冷に先に上がられていたらこちらの負けは確実となり、こちらが条件を満たさなければならなかった。ちなみに、条件というのは“水恋が暗冷の言うことを何でも聞く”というものだった。全くもって本当に勝ててよかった。水恋もほっと安堵して胸を撫で下ろしている様子だった。

 そして、二戦目が開始される。二つ目の勝負は同じくトランプの神経衰弱だ。ルールは既に知っているように、裏返しにされたカードをめくり、同じ数字、同じ絵柄が揃えばOKという至ってシンプルな物だ。しかも、ペアのカードをたくさん集めた方が勝利という、勝負の結果が目で見ても理解出来るあたりがまたいい。

 二戦目も俺と水恋のペアで出ようと思ったのだが、暗冷に止められ代わりのペアを出すことになった。裏か表で決めたところ、刻暗と霧矛という何とも異色のペアが完成してしまった。おまけに、刻暗は女子が大の苦手ときた。


――大丈夫だろうか?



 その思いだけが俺の脳裏を駆け巡る。しかも、霧矛となるとあまり喋らない地味な印象がある子だ。果たして刻暗との相性がどれほどの物なのか心配でたまらない。左右にいる凛と水恋も、霧矛の従姉妹として心配そうに見守っている。


「では、開始!!」


 暗冷の姉の一人、咲夜さんの一言で神経衰弱が開始される。


「では、まずは月牙さんチームから始めてください」


 まずは刻暗がカードに触れてそれをめくる。一発目から当たることはほぼないが、少しは期待を乗せる。めくったカードはハートの七だった。ということは、スペードかクローバーかダイヤの七を引けばいいということだが、果たして刻暗は幸先よくカードを引くことが出来るだろうか? しかし、後ろからでは刻暗の表情が上手く(うかが)えないので、俺は場所を少し移動して確認した。すると、あろうことか刻暗は相当緊張して顔中汗だくだった。


「あっ、そうか!!」


 俺はあることに気づいた。そう、今刻暗の後ろには霧矛が待機している。つまり、後ろからの女子の視線に怯えているんだ。道理で汗だくだけではなく、顔色も悪いわけだ。こうなってくると、緊張のあまりカードをうまく当てられない可能性も出てくる。

 そして、ついに刻暗がカードを引いた。引いたカードはハートのジャックだった。残念、ハズレだ。

 刻暗も少しガッカリした様子で二枚のめくったカードを戻す。それを終えた刻暗はトボトボと霧矛が待機する場所まで下がった。しかし、そこで足を止める。そう、霧矛がいるために近づくに近づけないのだ。霧矛もそれに気づいてはいるが、どうしたらいいのか分からないらしく、戸惑っている様子だ。アドバイスをしてやりたいが、仲間からのアドバイスなどは禁止とされているために向こうへ行くに行けない。




 そして、二戦目も終盤戦。残り枚数も残り数枚となった。次のターンはこっちで、霧矛の番だ。霧矛が椅子から立ち上がってカードが広げられた台の側まで歩いていく。その間、刻暗はずっと椅子に座らずに立ったままでいた。座りたくても霧矛がいるために座れないのだ。そして、霧矛が台の方へ行ったと同時に椅子に座るのだ。決して霧矛が大嫌いで避けている訳ではない。女子が苦手なために近づくに近づけないのだ。そのことは霧矛も重々理解している。


「えと・・・・・・このカードは、・・・・・・ここ」


 霧矛は台の上に広げられたカードを記憶を頼りに当てていき、次々にカードを手に入れていった。その結果、全てのカードを手に入れて台の上からは一枚もカードがなくなった。


「はーい、そこまででーす! 四人ともお疲れ様でした! では、結果発表です!! 亜夜ちゃん、よろしくー!!」


「・・・・・・分かった。結果は、暗冷チーム二十二枚・・・・・・。月牙チーム三十枚で、月牙チームの勝利」


 特にテンションをあげることなく、淡々と亜夜さんは結果発表を済ませる。


「と、いうことは――。二回戦に渡る勝者は・・・・・・月牙チームでーす!!」


 一方で咲夜さんはノリノリの様子だった。満面の笑みを浮かべ、拍手して賛辞の言葉をくれる。


「チッ! このオレがトランプで負けるとはな・・・・・・。だが、勝負は勝負だ。月牙、オレと紫音は大人しくテメェの仲間になってやるぜ」


 勝負事に負けるや否や、急にトゲがなくなったかのように素直になる暗冷。紫音も小声でブツブツと文句を言っているが、はっきり拒否はしない。


「どうやら仲間になってもらえたみたいですね!」


 水恋も無事に事が収まって嬉しそうだ。他のメンバーも満足そうな笑みを浮かべている。

 すると、俺の元へ咲夜さんと亜夜さんが歩み寄ってきて、俺の手を取った。


「月牙さん、いつも暴れてばっかりで心配ばかりさせる不束者の弟ですが、どうかよろしくお願いします!」


「わたしからも、お願いする」


「ああ、いえいえ・・・・・・こちらこそ。それと、メイド服の件・・・・・・すみませんでした。不可抗力とは言え、大切な服を使い物にならなくしてしまって」


「ううん、いいんだよ。あれもこっちが悪いっちゃ悪いんだし! でも、裸を見られたことは忘れないからね?」


「・・・・・・わたしも、初めて男の人に見られた」


「うっ! 本当に返す言葉もありません」


「あはは、いいよいいよ! 気にしないで? そんなに言われると、こっちも参っちゃうし」


「そうですか、じゃあそろそろ俺達行きますね」


 いつまでもこの話をしていると、その内後ろにいる女子メンバーに色々と面倒事に巻き込まれそうなのでやめることにする。

 俺達は新たな仲間――『(あらし) 暗冷(あんれい)』と『虚織(こおり) 紫音(しおん)』を連れて城の外へ出ていき、咲夜さんと亜夜さんに手を振られて見送られながらリーヒュベスト帝国を後にしようとした。しかし、突然咲夜さんが血相を変えてこちらに走ってきたので、俺達はとっさに足を止めた。


「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて・・・・・・。何か伝え忘れたことでも?」


「ハァ、ハァ・・・・・・違うの! そうじゃなくって・・・・・・。あっくん、大変だよ! ドーナカイ村で、人々がシスターに襲われてるらしいんだよ!!」


「シスターに村人が襲われてる? どういうことですかそれ・・・・・・」


 普通ならシスターは逆に村人を助ける存在の様な気がするのだが・・・・・・。俺は訝しげに訊くが、咲夜さんもよく分からないと言った感じで首を横に振った。


「私にも分からない。でも、ちゃんと伝えたから・・・・・・一応寄ってみて?」


「うぇ~? メンドイな~」


「何言ってんだ暗冷! お前はこの国を治める王だろ? だったら村人を助けねぇと!!」


「そーゆーのは下の仕事だろ? 何でオレが直々に村人を助けねぇといけねぇんだよ!!」


 そう言って腕組をしそっぽを向く暗冷。すると、紫音が青筋を立てて暗冷の頬を片手で掴む。


「少しはマジメにやったらどうだい、暗冷!! あんた、今まで一度も王らしいことをしたことがないじゃないのさ!!」


 顔を思い切り近づけて目と目を合わせてそう言う紫音だが、暗冷は少しも怯んでいない。


「だったらテメェらだけでやれや!!」


 紫音の腕を掴んで振り払うと、身なりを整えて暗冷は冷たく俺達に言い放った。

 すると、突然誰かのすすり泣く声がした。声のする方へ向けば、咲夜さんが両手で顔を覆って泣いていた。俯いていて顔は(うかが)えないが、間違いなく泣いている。その証拠にポトポトと地面に透明の滴が(したた)り落ちている。


「ど、どどどどうしたんですか、咲夜さん?」


「ひぐっ、うぅ・・・・・・だって、あっくんが皆に冷たくて・・・・・・。皆は懸命にあっくんと仲を深めようとしているのに、かわいそうに見えて・・・・・・うぐっ、それで・・・・・・」


 溢れる涙を手で拭いながらそう言う咲夜さん。すると、暗冷がボソリと言った。


「け、ケッ! あ~もうわ~ったよ!! 行くよ、行きゃあいいんだろ!?」


「行ってくれるの!!?」


 急にコロッと表情を変えたかと思うと、満面の笑みを浮かべて咲夜さんは両手を合わせて暗冷にそう訊いた。


「ヘッ! どうせ、通り道だしな・・・・・・」


 姉に詰め寄られて照れ隠ししながら顔を逸らす暗冷。すると、すかさず水恋がツッコミを入れる。


「ちなみに、ドーナカイ村は私達が向かう方向とは逆方向ですけどね・・・・・・」


「んなっ! うっせぇ、黙ってろデカ乳!!」


「なっ!! だ、だだ誰がデカ乳ですか!! 私はそんなに胸は大きくありませんよ!!」


「へっ、そんな風に威張ってばかりいっから、胸に無駄な脂肪が付きまくるんだよ!!」


「ムカッ! 頭に来ました。どうやら昔与えた忌まわしい過去だけでは物足りないようですね!!」


 プルプルと肩を震わせ、何やら邪悪なオーラを体に(まと)っている水恋に俺は少し恐ろしさを感じた。水恋の従姉妹である凛と霧矛も顔面蒼白で怯えている様子だ。


「おもしれぇ、だったらここで勝負すっか?」


「望む所です!!」


「うわぁあああああ!! 待て待て待てぇえええええ!!! お前ら分かってんのか? お互いに帝族の血を引き継いでいる上に、四帝族の中の二つの勢力のトップが集まってるんだぞ? しかも、どちらも伝説の戦士だ!! それがここで戦ったりしてみろ? 力バランスどころの騒ぎじゃねぇ、ここら一帯が粉塵と化すぞ?」


 急に武器を構え出す二人の間に仲裁として入り、二人に待ったをかける俺。我ながら素早い行動だと思う。しかし、こうでもしなければ今頃俺達どころかここらは何もなくなっていただろう。


――全く、帝族の上に伝説の戦士とは少しばかり厄介だよな・・・・・・。にしても不思議だ。普通帝族にはこういった特別な力はつかないはずなんだが・・・・・・。



 と、少しばかりそんなことを考える俺だが、すぐにその考えを払拭し、今の現状に思考を戻す。まずは、この二人の戦闘を止めるのが先決だ。


「分かったか?」


「ちっ、まぁいい。決着はその後だ!!」


「いいでしょう、月牙さんに言われては敵いません」


 どうして帝族でもない俺が、帝族である水恋や暗冷を止められるのかは分からないが、まぁ引き下がってくれたからよしとしよう。


「とりあえずその・・・・・・ド――なんだっけ?」


「ドーナカイ村だよ。そこには教会もあって、普段はそこにいる聖職者達が村人達に不幸などが起こらないように加護を施してくれているんだけど・・・・・・」


 咲夜さんは地図を指差しながら少し不安そうな顔で説明してくれた。

というわけで、二十五話が始まりゲームをしたわけですが途中で側近の紫音も伝説の戦士と判明し、二戦目もやることになるわけですが。どちらの勝負もトランプと。バトルじゃないんです。よほどゲーム好きな暗冷。

そして、勝利した月牙は無事仲間を二人加えて旅を続行するのですが、そこで姉の咲夜さん登場。ドーナカイ村へ行くことに。ちなみに今回、五部構成でお送りします。なんか、長くなりました。

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