第二十三話「巫女=神子【Shrine Maiden】」・2
「まだ七歳と年端もいかない鈴華の体は、まだ未発達な部分も多く子供を産める体ではなかったのだ。一瞬にして呆然となる砦内だったが、オルガルト帝ただ一人は違った。未発達ならば成長させればいい、そうやつは言ったのだ。俺も七年間をかけて成長させれば鈴華は十四歳。まだ未成熟な部分も多いかもしれないが、それでも十分に子供を産める体にはなるはずだ、とオルガルト帝の意見に賛成した。しかし、そこでオルガルト帝はさらに付け加えた。やつはただ育てるだけというのも煩わしいということで、開発途中の発明品の実験も兼ねて鈴華にいくつかの実験を施す上で育てることにした。こうして鈴華は、過酷な七年間に渡る多大な実験を超えて成長を遂げた。当然あらゆる実験のせいで鈴華の体や精神はボロボロだった。果てには心に鍵をかけて心を閉ざしてしまう始末・・・・・・。その結果、お前は十五歳になった今の今まであのクソジイイ――オルガルト帝の従順な奴隷として生活してきたんだ。どうだ、分かったか? これがお前の今までの七年間の歴史と真実だ」
長々と語られた真実を聞いて、鈴華は目を見開いたまま硬直状態に陥っていた。無理もない。自分がここにいる本当の目的を知ってしまったからだ。そして、ようやく我に返った鈴華は、ハッとなって慌ててこの場から逃げようとした。しかし、そこでどこからともなくあの不気味な低い声が聞こえてくる
「――マインド・コントロール!!」
「――っ!?」
動かそうとしても足は動かず、身動きできない状態に陥る鈴華。動かない体を無理やり動かして声のする方を見れば、そこにはニタリと悪質的な笑みを浮かべてこちらを見る鎧姿の男――オルガルト帝の姿があった。
「お、オルガルト・・・・・・っ!」
「ほぅ? 七年間に渡る様々な調教実験、数多の薬品投与とお前の心を破壊してきたつもりだったが、まだ微かに自我が残っていたか。こいつは驚きだ。わしとしても実に興味深い。特に、巫女の体というものは今まで見たことがなかったからな。実に一興であった、フッハッハッハッハ!! ・・・・・・にしてもフィグニルトよ。何度言えばわかるのだ? 鎖を繋いで置けとあれほど言ったものを――」
「うっせぇな! わーってるよ、ジジイ。あんたに説教される筋合いはない! これは俺のやり方だ。俺のやり方に口出ししないでもらおうか? お前は大人しく自分の部下に十分注意するこった。特に、ゴウストにはな・・・・・・」
白衣のポケットに両手を突っ込み、眉根を寄せて丸めがねを光らせるレイヴォル博士に、オルガルト帝は鼻で笑い言った。
「あやつの心は既に破壊されつくしとる。それに、やつの心はあやつらの心の臓と密接にくっついておる。当分の間は心配なかろうて・・・・・・」
「俺の部下が、一人の伝説の戦士の神力の暴走の被害にあったとしても――か?」
「・・・・・・どこの属性戦士だ?」
「氷雪系属性の片割れだ。JACKのやつらに多大な被害が及んでる。どう落とし前つけてくれんだ?」
「なるほど、伝説の戦士が集まることによってあやつの神の力の影響を受けておるのだな・・・・・・。くっくっく、これは面白い」
顎にたくわえた真っ白なあごひげを撫でながらそう言ったオルガルト帝は、チラリと動けぬままの鈴華に目をやった。
「さて、さっさとこいつのクローンを作れ。さすがに本体を傷つけては神の怒りを買う可能性があるからな・・・・・・。特にこいつは、七力を全て受け継ぎし者だ。もしも、実験中にそれを発動されては、力を蓄え切れていない状態のわしでは非常に辛い。よいな? くれぐれも繊細な注意を払ってクローン製作を行え!! あくまでも迅速にだぞ?」
「いちいち要望の多いジジイだな。俺だってそれくらいのことは重々理解している。だが、仮にそのクローンが巫女の力を持っていなかったとしたらどうする?」
「フンッ、痴れたこと。その際には本体を使って不死身軍団を生み出す」
「本体が壊れはしないか?」
「構わん! そうなれば、鳳凰一族の巫女全員を使えばいいだけの話だ」
レイヴォル博士の言葉を聞いても決して考えを曲げないオルガルト帝は腕を組んでそう言った。
「・・・・・・くく、相変わらず考えることがズバ抜けているジジイだ。だからこそ、面白い」
レイヴォル博士はメガネをカチャリと上にあげると指を鳴らした。すると、扉が開きそこへ四人の科学者が姿を現した。
一人は肩の部分から先の袖が無い白衣を着た、若干筋肉質の坊主頭で琥珀色の瞳を持つ男。
一人はあちこちに伸びた藍色の髪の毛にガーネットの瞳を持つ男性。
一人は白衣を腰に巻きつけた栗毛色の短髪にアホ毛、オレンジ色の瞳を持つ美少年。
そして、最後の一人は黒髪に緑色の瞳を持った青年だった。
「お前達に少しばかり手伝ってもらおう。他のチームは働きまくっているが、お前達はまだ対した働きもしていないからな・・・・・・。さてと、ではまずヴィンセント。お前は鈴華をおぶれ」
「お、俺がッスか?」
意外と言った顔で自分を指差す黒髪の青年――ヴィンセント。
「当たり前だ。他の者には別の役目がある。分かったらさっさとおぶれ! さもなくば、役たたずのお前は能なしということで、この場から退場してもらうぞ?」
冗談とは思えない顔つきでそういうレイヴォル博士に、ヴィンセントは焦り顔になり言った。
「いえ! やらせていただきます! いんや、やらせてくださいッ!!」
ビシッ! と敬礼して、やる気十分になったヴィンセントは、そそくさと動いてその場から全く動く気配のない鈴華をおぶった。
「これで、いいッスか?」
「ああ・・・・・・。ゴルキス、お前はこいつのDNAサンプルなどを得るための道具の準備をしてもらおう! 例のブツも使う。あれを運べるのは力では右に出るものがないと言うお前が適している」
「よかろう、儂とてレイヴォルの命令には逆えんからな。それに、儂も丁度暇を持て余して一暴れしたいと思っておったところだ。あの物を運べば、少しはこの暇も解消されるだろうて・・・・・・」
鼻の穴から伸びた金色の鎖が右耳の耳たぶに繋がり、ジャラジャラと揺れ動く。
「くく・・・・・・かもしれんな。とにかく、頼んだぞ?」
「うむ・・・・・・。儂に任せておけ」
胸の手前で互いの拳をぶつけてやる気満々に頷いたゴルキスは、その場を後にした。
「さてと、アルフレッド・・・・・・お前はある場所に行ってもらう」
「・・・・・・ある場所? それって、どこかな?」
アルトの声を響かせながら栗毛色の髪の毛にオレンジ色の瞳を持つ青年――アルフレッドが訊く。
「ああ・・・・・・。お前には地下牢の一室にいる“ミーミル”に会いに行ってもらう」
「――っ!? レイ、それってつまり、アレを始めるってこと?」
「その呼び方はやめろと言ったはずだ!」
「いいじゃない、ボク達は昔からの付き合い。それくらいはもう慣れっこでしょ?」
和やかな笑みを浮かべてアルフレッドが言う。そんな笑みに対して、レイヴォル博士はフンと鼻で笑い言った。
「まぁいい。とにかくあいつを連れてこい。いいな?」
「はいはい・・・・・・。まぁ、あの子もまだ幼いとはいえ、王族の一人ではあるからね」
やれやれと言った感じで了承したアルフレッドは、腰に巻いた白衣を揺らしながら踵を返し、部屋から出て行った。
「そして最後に・・・・・・オルグロス。お前は俺と一緒に実験の手伝いだ。レポートをまとめてもらう」
「なるほど・・・・・・人間の体には興味はないが、巫女の体となれば話は別だ。おれとしても、この実験には十分に研究心が沸く。喜んで実験に付き合おう」
「そうか・・・・・・。では行こう」
丸い縁のメガネをカチャリと上にあげたオルグロスの言葉に、口の端を吊り上げレイヴォル博士は何かを考えていた。
――△▼△――
ここはクロノス秘密研究所のさらに地下にある地下牢・・・・・・。階段を下へ下へと降りた先にあるこの場所は、真ん中に通路があり、その左右を牢で囲まれている。その牢屋の中には、それぞれ一人二人、あるところでは三人・・・・・・人が入っている。全員活力がなく、グッタリと項垂れている。そこを、栗毛色の髪の毛にオレンジ色の瞳を持つ青年が歩いていく。――アルフレッドだ。彼は腰に白衣を巻きつけており、制服もボタンを幾つか外してダラッとした格好をしていた。
「はぁ~、いくらレイの頼みだからってこのボクをこんな暗がりに、しかも一人で行かせるなんて酷すぎるよ。全く、あの人は部下をなんだと思ってるんだ。も~」
頬を膨らましてブツブツアルフレッドが文句を言っていたその時、ガタン! と何かの物音が地下に響き渡った。
その音に過剰反応を示したアルフレッドが涙目で悲鳴をあげる。
「きゃあああああああああっ!!! ・・・・・・はぁはぁ。う~、びっくりさせないでよ。失神するかと思っちゃったじゃないか・・・・・・。しかも、あの子がいるのはまだまだ奥の方だし・・・・・・トホホ~。どうせなら、ノイについてきてもらうんだった。あっ、でも・・・・・・ノイにはあの鈴華って子を連れて行く命令が下されていたから無理か・・・・・・」
どんどん肩を落としてため息ばかりつくアルフレッド。ちなみにノイというのは同じチームの『ノイズ=ヴィンセント』のことである。
アルフレッドは歩くスピードが亀並みに遅くなっていたことにふと気づいた。
そして、ようやく目的地についた時には、既にこの地下牢の部屋に入って三十分が経とうとしている時間だった。
「よ、ようやく到着だよ。ハァハァ、さて・・・・・・もしも~し、ミーミルさ~ん。『アルフレッド=ユニヴァーン』がお迎えにあがりましたよ~?」
カンカンと牢屋の扉を叩き声をかけるアルフレッドだが、牢屋の方からは声は全く帰ってこなかった。
「あっれ~、おっかしぃな~。レイは確かにこの中にいるって言ってたんだけどな~。あっ、そうだ! 確かこんな時のために鍵をもらってたんだっけ? えっと・・・・・・確か――」
ポンと手を叩いてそのことを思い出したアルフレッドは、懐から鍵を取り出し牢屋の扉を開け中へ入った。
すると、一歩足を踏み入れた途端に顔にベトリと何かがくっついた。
「うひゃっ! な、何よ・・・・・・ゴホン、なんだよこれぇ~。うぅ・・・・・・蜘蛛の巣? も~!これだから地下牢は嫌なんだよ。こう薄暗いとどっちがどっちかも分かんないし・・・・・・。レイ、戻ったら覚えてろよ~?」
顔についた蜘蛛の巣をサッサッと払い落とし、涙目でレイヴォル博士に文句を言うアルフレッドは、荷物を漁り偶然入っていた懐中電灯を点け周囲を照らした。
「どこにいるんだろ・・・・・・。あっ、いたいた!」
周囲を見渡し、ようやく捜し人を見つけ出すことに成功したアルフレッドは、笑顔になってその人物に駆け寄る。
「ちょっと君! ・・・・・・え~と――そう、ミーミルだ! ミーミル・・・・・・だよね?」
少し唸って目の前にいる人物の名前をひねり出したアルフレッドは、目の前にいる小柄な人物の肩に手を置いた。すると、ゆっくりと振り向きこちらを見上げたのは、薄汚れた布切れを纏った幼女だった。
「え? 君がミーミル? まだ年端もいかない子供じゃないか!」
姫というのでもう少し年齢が上の人を想像していたアルフレッドは、予想外の事に驚愕の表情を浮かべた。
「失敬ね・・・・・・あなた。私はこれでも十二歳よ?」
「え!? こ、こんなにちっちゃいのに?」
「むっ! あなたね、私をバカにするのも大概にしてよ? 全く、あなたと話していたら私を助けてくれたあの男を思い出すわ」
小さい割に少し大人びた口調で放すその少女に、アルフレッドは黙り込んでしまった。
「ところで、あなた・・・・・・名前は?」
急に話題を切り替えて名を訊ねてきた少女に、アルフレッドは「ああ」と言って答える。
「ボクの名前はアルフレッド=ユニヴァーン。秘密結社クロノスのGAUNのメンバーの一人だよ。君は、小七ヶ国の一つ『夢鏡王国』の姫様だよね?」
「ええ・・・・・・私は『ミーミル・S・リスマード』。長いから普通に皆にはミーミルって呼んでもらってるけれど・・・・・・。それで、私に何の用なの? アルフレッド」
「年上を呼び捨て!? ま、まぁいいけど・・・・・・。えっと、あなたに用があるってレイ――レイヴォルが・・・・・・」
「レイヴォル?」
初めて聞いたという顔で首を傾げるミーミルに、アルフレッドが説明する。
「レイヴォル=カオス=フィグニルトといって、ボクのトコのボスみたいな人だよ」
「レイヴォル・・・・・・ふ~ん、まぁいいわ。それにしても、どうして私はここに捕らえられているの? それに、確かあの時・・・・・・あの男に助けてもらって・・・・・・」
「あの男?」
今度はアルフレッドがミーミルに質問する。しかし、ミーミルは首を傾げるだけで答えない。どうやら名前が思い出せないようだ。
「記憶がないの?」
「そうみたい・・・・・・。ところで、さっきから何でアルフレッドは“ボク”って使うの? 普通に“私”じゃダメなの?」
「ふぇっ!? ど、どうしてさ?」
少し焦った表情で訊き返すアルフレッド。
「いいえ・・・・・・ただ、女の子なら女の子らしい喋り方がふさわしいとそう思っただけ」
「ぼ、ボクがお・・・・・・お、お女!? じ、冗談じゃないよ! ぼ、ボクは男だ!!」
焦りまくりで言葉を噛みまくるアルフレッドは、明らかに挙動不審だった。その様子にますますミーミルが怪しい人物を見るような目でアルフレッドを眺める。その目は明らかにある一点を見ていた。
「ちょっ! 人の胸をジロジロ見るなぁ!!」
サッと両腕で胸の前を隠すアルフレッドの仕草は、明らかに女子にしか見えない。そして、ついにミーミルが大胆な行動に出た。アルフレッドの隙を狙って相手の胸を揉んだのだ。
「ひゃっ! ど、どこ触ってるのさ!!」
「やっぱりね・・・・・・。あなた、女じゃない」
「うぅ~・・・・・・チームメンバーの誰にもバレてないのに、まさかこんなちっこい子供にバレるなんて・・・・・・」
「むっ、ちっこくて悪かったわね。あなただってこんなに胸はこんなにちっちゃいじゃない」
片眉をピクリと動かし、少し強く胸を掴むミーミル。
「んっ! ・・・・・・ち、違っ! これはサラシを巻いてるだけだよ!!」
「ふ~ん、あっそ・・・・・・。まぁ、少し楽しかったわ。実のところ、結構ここで暇を持て余してたのよね。だから、あなたの様なとっておきの遊び相手が来てくれてとても助かったわ」
目はあまり笑わず、かすかな笑みを浮かべるミーミル。しばらくの間笑顔を作らず、無表情ばかりを取り続けていたがために、笑顔をどうやって作ればいいのかを忘れてしまったかのような・・・・・・そんな表情だった。
というわけで、巫女は神子産みの道具として使われていたという話をしましたが、まぁそれはさておき、ヴィンセントとユニヴァーンとオルグロスとゼミネンヴェンジーと出たわけですが、さぁ覚えていますか? そう、あのヴィンセントとオルグロスです。Ⅲに出ましたね。あれです。
さらに、一話でいなくなったミーミル姫がここで再登場。ここにいたんです。フラグ回収です。で、お姫様三人目?です。ホントⅣはいろんなお姫様がいますね。しかし、誕生日なのに不運ですよねこの人。そんな不運なお姫様を助けてくれる救世主は現れるのでしょうか?
てなわけで、三部めをどうぞ。




