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第二十三話「巫女=神子【Shrine Maiden】」・1

「だ、大丈夫かい奏翠?」


 刻暗は、壁についた鎖などに拘束されている奏翠を助け出しながら訊いた。あの後、腹部に穴が開いていた刻暗を助けるために猛辣に薬を作ってもらったのだ。そのための条件はあまりにも痛手だったが、何とか水恋達は協力してくれた。仲間思いのメンバーがいて本当にうれしいものである。

 それから俺達は奏翠の僅かながらの魔力を辿ってここまでやってきた。そして、当人があられもない姿で拘束されているのを発見して、即座に刻暗がその場に駆けて行った。さっきまで腹部に穴が開いていたとは思えないほどの回復のしようだった。それほどまでに猛辣の薬は効果覿面ということだ。さすがはマッド・サイエンティストといったところか。とまぁ、そんなわけでここまでのあらすじはこんなところだ。

 刻暗の手は僅かに震えていた。恐らく、女性恐怖症の影響が原因だろう。

 一方で奏翠は、今にも泣き出しそうな顔で目に涙を浮かべて刻暗が自分を助けている姿を見ていた。

 奏翠から聞いた話によれば、あの大柄な男を含めたクロノスの研究員達は目的の物を手に入れたらしく逃げたらしい。奏翠の側には二人から奪った色違いの懐中時計が解体されて放置されていた。大男――スパイダーが、「もう必要ないからお前らにくれてやる!」と言って、ゴミ同然に置いていったらしい。

 そして、拘束具が外れると同時に奏翠は刻暗に飛びついた。不意を突かれた刻暗はそのまま後ろに倒れて背中を打ち付けた。


「イタタタ・・・・・・。って、ひぃいいいいい!! ど、どどどどどどうしたんだい奏翠!?」


 顔を真っ青にして声を震わせ訊く刻暗に、奏翠は涙を拭いながら言った。


「だ、だって・・・・・・嬉しかったの。毎日酷いことばっかして、おまけに女性恐怖症にまでした私のことなんか助けてくれないと思ったから・・・・・・。だから、来てくれてすごく嬉しかったの。ありがとう、刻暗!」


 そう言って今度は刻暗の首周りに腕を巻きつけ、思いっきり体を密着させて抱きついた。


「――ッ!!? や、ややややめてくれぇぇぇええええ!!! ぼ、ぼぼぼぼ僕はあ、当たり前のことをやっただけだよ!! だ、だだだから、は、離れてくれ!!」


「だーめ、絶対に離れないから!」


 少し体を離し、満面の笑みを浮かべ刻暗の間近で答えた奏翠は、再び目の前の情けない救世主に抱きつく。


「ひぃいいいい!! げ、月牙くん! 見てないで、た、助けてよぉおおおおお!!!」


「いや、なんかその・・・・・・イチャついてていいんじゃないか?」


「そーだよね~」


 俺の言葉に同意した奏翠がさらに強く抱きしめる。刻暗の胸板に奏翠の胸が密着して潰れているのがこっからでも見える。その表情は心底嬉しそうだ。刻暗は心底しんどそうだが。


「ひぃいいい!! こ、これのどこがイチャついてるんだよ! どう見ても僕が、おおおお襲われてるじゃないかぁあああああ!!!」


 身を捩り、何とかして奏翠の体から離れようと試みる刻暗だが、努力虚しく奏翠に両手で顔面を固定されると、口元を緩め頬を紅潮させた奏翠が、唇を突き出して俺達が見ている目の前で二度目のキスをした。


――ったく、刻暗の野郎・・・・・・なんてうらやま――ゲフンゲフン、いやけしからん!! 相手はこんなにも積極的なのに、どうしてこいつは女性恐怖症なんてもんにかかっちまってるんだよ!! あーもったいない。ホント、奏翠が攫われた後、あのスパイダーとかいう男に色々されなくてよかったな!!



 なぜか嫉妬めいた物を感じた俺は、苛立ちながらそんなことを心の中で愚痴ると奏翠に言った。


「なぁ、そろそろ解放してやらないか? もう完全に刻暗が失神しちまってんぞ?」


「――ちゅっ、ぷはぁ~。……ふぇ?」


 またしても口内に舌を入れていたのか、淫靡(いんび)に二人の間にツーッと透明の糸が引き、艶めかしい銀色の架け橋が出来上がる。そしてそれが距離が離れると同時に消える。

 こちらに向き直った奏翠は、口の端から垂れるその液体を手の甲で拭い取った。その様子がなんとも妖艶で、年下のはずの奏翠が一瞬年上に見えてしまった。


「だから、刻暗が気絶してるって言ってんだよ!!」


「あっちゃー、ホントだわ。ったく情けない。少しは成長を見せてほしいものだわ。これじゃあ、満足にキスも出来ないじゃない!」


「いや、さっきキスしてただろ?」


「私はもっと激しいのを求めてるの!!」


 どうもさっきのでは満足のいっていないご様子のお姫様。奏翠みたいなお姫様や、凜みたいな素直じゃないお姫様など、俺のイメージしてたのとは随分と本物のお姫様は違うらしい。


「末恐ろしいやつだ。てか、少しは周りの目を気にするようにしろよ!! 逆にこっちが恥ずかしくなるんだよ!!」


 俺はさっきのビジョンが脳内で流れ、慌ててそれを消すようにしながら奏翠に注意する。

 しかし、当人はあまり悪びれていないようで、俺の方に歩み寄ってくると少し顔を上にあげて人差し指で俺の胸板に触れ「の」の字を書くように動かしながら言った。


「もしかして羨ましいのぉ~?」


 僅かに頬を染めてそんなことを言ってくる奏翠。


「んなっ、だ・・・・・・誰が!!」


 予想もしていなかったことを奏翠が口にしたせいで、思わず上ずった声を出してしまう俺。すると、さらに調子づいた奏翠が俺を妖しい目つきで見る。


「それじゃあ、私とキス・・・・・・してみる?」


「は?」


 最初は周囲の人間も冗談の様に思っていたのだろうが、さすがに今の奏翠の一言には意義申し立てをしたいらしく、異論を唱えた。


「冗談もいい加減にしてください奏翠さん! 月牙さんをそれ以上からかってはいけません!!」


「冗談なんかじゃないわ。この人は一応私を助けてくれた命の恩人なわけだし、恩を返すという意味でキスしてもいいのよ? だから、そう言ってみたんだけど、ダメだったかしら? それとも、・・・・・・好きな人を取られるのはイヤ?」


 口の端を吊り上げた奏翠に言われて水恋は思わず顔を真っ赤にする。そして、舞い上がったように顔を真っ赤にして言い返す。


「そ、そんなのではありません!! 私まで茶化さないでください!!」


「あはははは、面白いなぁ~。ホント、水恋さんはからかいがいがあっていいわ。まぁいいや。まっ、私はいつでもしてあげるから、してほしくなったら教えてね、月牙くん?」


 昨日は俺のことを名前で呼んでいなかったため、俺は名前で呼ばれて不思議な感じがした。


「だから、俺はそんなつもりじゃ――」


「まぁ、いいからいいから。それよりも、刻暗・・・・・・連れてくんでしょ?」


「え?」


 突然話が切り替わり、真面目な表情を浮かべる奏翠に俺達は少し驚いたが、口を開き答える。


「ああ・・・・・・。刻暗は俺達と同じ、伝説の戦士の一人だからな・・・・・・」


「ここに、戻ってくるのよね?」


 不安な顔をする奏翠を見て、思わず罪悪感を感じるが、それでも俺は続けた。


「ああ、もちろんだ。決して幼馴染を悲しませるようなことはしねぇ!! そうさ、幼馴染を悲しませたり・・・・・・なんか――」


 俺は“幼馴染”という言葉に思わず脳裏にある人物を思い浮かべてしまい、暗い表情を浮かべてしまった。それを見たせいか、少し訝しげに奏翠が訊く。


「どうかしたの?」


「いや、すまねぇ。とにかく、すぐに・・・・・・ってわけにはいかないが、必ず刻暗は返すからな!」


「そう・・・・・・じゃあ――」


 そう言うと、奏翠は俺の目の前にゆっくりと歩み寄ってきて、手を後ろ手に組みつま先立ちをすると、俺の頬にチュッとキスをしてきた。


「――ッ!?」


「んなっ、奏翠さん!!」


「あっはっはは、さすがに唇にキスをするのはマズイかなぁ~と思って、ほっぺで勘弁してあげたわ。まぁ、これは、刻暗を任せたっていう意味のキスで、今ので恩を返したってわけじゃないから安心して?」


「いや、そうじゃなくて――」


「それじゃあ、私は戻るわ。パパもどこかに連れ去られちゃったし、これからどうするか決めないといけないからね・・・・・・。気絶させちゃって運ぶの大変かもしれないけど、刻暗のこと、よろしく頼むわよ?」


 そう言うと、奏翠は小声で気絶している刻暗に「またね・・・・・・」と言ってこの場を後にした。

 俺は自分の頬に手をやりしばらく放心状態に陥っていたが、周囲の女子メンバーからの痛い視線で我に返り、刻暗を背負ってタルマルーク王国を後にした・・・・・・。


――△▼△――


 ここは、エレゴグルドボト帝国の地下――クロノス秘密研究所の一部がある場所の一室。地下だけあって湿気が多い上に冷えており、窓もないため暗い。そのため、電球がいくつかついて明るく部屋を照らすものの、それでもなお少し暗い。

 そんなこの部屋には、一人の少女が監禁されていた。首には頑丈そうな首輪をつけられ、その首輪からは鎖が垂れている。衣服は巫女装束ではあるものの、ボロボロでほぼ原型を留めてはおらず、四肢や顔にはミミズ腫れなどの様々な傷跡が残っていた。目に光が灯っておらず、ほぼ無心の状態。例えるならば操られた状態だ。長い間風呂に入ってない上に髪も切ってもらえていないのか、髪の毛は伸び放題で、その赤髪も少し汚れてしまっている。


「起きていたか・・・・・・。いや、起きていたとしても起きているという実感も沸かないだろうがな・・・・・・」


 そう言って暗がりの部屋に入ってきたのは、レイヴォル博士だった。ゆっくりと少女の前にやってくると、その場にしゃがみ込み少女の顎に手を当てて自分の方に向かせる。強制的に目を合わされた少女は、目に光の宿らぬままこちらを見ているが一言も喋らないままだ。


「はぁ・・・・・・仕方ない。不本意だが、少しの間心を解放してやろう」


 全く口を開かない少女に呆れたのか、嘆息するレイヴォル博士は指を鳴らした。

 刹那――少女が目に光を取り戻し口を開いた。


「え? こ、ここはどこ?」


 見たこともない部屋に連れられてきたことに驚きを隠せない赤髪の少女は、周囲を見渡した。そして、目の前にいる人物を見るや否や声をあげる。


「あなた、七年前私を(さら)った――」


「フッ、覚えていたか。そうだ、レイヴォル=カオス=フィグニルトだ」


 相手の少女の言葉を遮り、レイヴォル博士は鼻で笑って言った。


「どうして私を攫ったの?」


「教えてやろう。お前の持つ巫女の力を欲しているからだ」


「巫女の力?」


 巫女でありながら初めて聞く言葉に首を傾げる少女。


「お前が知らないのも無理はないな、鈴華。なにせお前は、それらのことを聞くことになる(よわい)になる前に、俺によって攫われたのだからな・・・・・・」


 皮肉げにそう語るレイヴォル博士の言葉に、唇を噛み締めて睨みつける少女――鈴華。


「その巫女の力を何に使うの?」


「知りたいか? そもそも巫女とは何なのか・・・・・・。そのことから話してやろう。お前達一族――鳳凰一族は、太古より神の子即ち神子(みこ)を宿す者として扱われてきた。巫女の力というのは自身が体内に持つ不死身の力のことだ。巫女は生まれながらにして不死の体を得ているのだが、胎内に子を宿すと不死身の力を失うのだ。どうしてか分かるか?」


 急に質問してきた博士の言葉に返答詰まる鈴華。すると、レイヴォル博士は続けて言う。


「・・・・・・子に不死身の力が移るんだ。ところで、こちらから質問しよう。神はどうやって子を産むと思う?」


「え? ・・・・・・普通に産むんじゃないの?」


「フッ、残念ながらそれは不正解だ。神は正体を隠し、伝説の鳥――鳳凰や不死鳥となり巫女の元へやってくる。そして、その際に巫女に神の子を孕ませるのだ。そうして、神の子が誕生するのだ。まぁ、神が体の一部を変化させて新たな神を創りだすこともあるそうだが、これには諸説が多々ある。分かったか? 即ち、これこそが巫女が神子(みこ)を宿す者と言われる所以(ゆえん)だ。こういう経緯を経て神は不死身の力を持つのだ。しかし、そうなると巫女は不死身の力を失ってしまうために不死身ではなくなる。だが、再び巫女は不死身になることが出来る」


「どういうこと?」


 自分も巫女の端くれであるために、多少なりとも興味があるのだろう。少し瞳を輝かせて鈴華はレイヴォルの話を訊く。


「子を産んでから一ヶ月後には再び不死身の力を得るのだ。だから、巫女は何度も神の子を産むことになるのだ。そういうことから巫女は、新たな神を産む道具として非人道的に扱われることもあった。そのため、そんな彼女達を哀れんだ者達が巫女を庇い、正体を隠させることもあったんだ。だが、結局バレて巫女は神子産みの道具として扱われた」


 自分の立場を今の話の中の登場人物と重ねたのか、鈴華は目にうっすらと涙を浮かべている様子だった。


「・・・・・・まだ、続きがあるの?」


「ああ・・・・・・。ある日のこと、とある科学者がこう言った“本来、神の子を産むために不死身の力を持っているとされる巫女が、仮に人間の子を孕み産んでしまったらどうなるのか”と――。他の科学者は唖然とした。ならば試してみようという別の科学者の一言でさっそくその研究は始められた」


「え?」


 意表を突かれたような顔で呆けた顔になる鈴華だが、構わずレイヴォル博士は続ける。


「試しに行われた実験は、王族の血を持つ人間を使って巫女に子供を産ませるというものだった。卑劣な実験に巫女は耐え兼ねたが、それでも無理やり実験は実行され、巫女は子を産んだ。それを引き取った科学者の一人は、片手に拳銃を構え銃口を生まれたばかりの赤子に向けると引き金を引いて銃弾を撃ち込んだ。しかし、赤子は死ぬことなく産声をあげ続けたのだ。見事、実験は成功だった。出血はしているものの、赤子は死ななかったのだ。この実験の事から、巫女を使うと不死身の人間を生み出すことも可能だということで、ありとあらゆる学者が騒然となった。巫女の力を我が物にすれば、不死身の人間を大量に生み出す事ができ、果てには不死身の軍団を作り出すということも出来ると言い出すものもいた。それを言ったのが、クロノスのとある科学者・・・・・・。そう――俺だ」


「じゃ、じゃあ・・・・・・私がここに呼ばれたのは――」


「まぁ、話は最後まで聞きたまえ」


 嘲笑うかのような冷笑を浮かべ、レイヴォル博士は再び話し始める。


「俺一人だけの力ではクロノスの絶対的な科学技術力を用いても巫女の力を使いこなすことが出来ないと踏んだ俺は、エレゴグルドボト帝国の王――鎧一族のオルガルトと和睦協定を結んだ。そして俺は、さっそく巫女の持つ素晴らしい力のことを教えた。すると、やつは言った。“それは実にいい。巫女の力があればわしの最強無敵の不死身軍団が誕生するな!!”と――。絶賛だった。そして、俺はさっそく鎧一族の数名の兵と共に鳳凰一族のいるフレムヴァルト帝国へと向かった。まだ当時七歳と幼かったお前は、神社で毎日のように国の人間から崇め奉られていた。そんな隙を狙って、俺は神社の中で休養している鈴華――お前を攫ったんだ。無論、近くにいた他の巫女が慌てて助けに入ったものの、仲間の鎧一族の力には歯が立たず、圧倒的な力量差の前に敗れ鎧一族のやつらに好きなようにされた。結局鈴華は俺らに連れ去られてしまい、鳳凰一族は騒然となった。一方で、鎧一族では多大な歓声があがっていた。不死身、不死――という誰もが手にしたい力を持った、まだ七歳という巫女の幼女が自分たちの手の中にある。この巫女の力があれば、最強の軍団を生み出せると誰もが思った。だが、そこで問題が発生した」


 そこで一旦話を区切るレイヴォル博士。それからそばにあった瓶に入った水をゴクゴクと飲み干す。どうやら、長話の影響で喉が渇いていたようだ。そして一息つくと、話を再開した。

というわけで、二十三話ですが、まだまだⅣは終わりません。位置的にはようやく半分くらい……です。

そして、奏翠ですが相変わらずのキス魔です。まぁ、これ以上にキス魔な人がいるわけですが。刻暗もお疲れ様です。が、その標的は刻暗だけではなく月牙にまで――。まぁ、当人は助けてくれたお礼だと言い張っていますがこれ軽く好感度あがってますよね。斑希が(ry

そして、再びクロノスのお話ですが、ここでようやく三チームの最後の一つ、GAUNが出ることになります。そんでもって、いつの間にか牢屋に捉えられてしまわれている鈴華さん。今回は鈴華さんたち巫女についてのお話なわけです。

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