第98話 六層の真実と皇位の影
六層の朝は、赤黒い霧がゆっくりと揺れながら明けていく。昨夜の宴会の名残が、そこかしこに転がっていた。焦げた鉄板、空になった樽、粉まみれの岩床。そして巨大な鬼が二匹、豪快に寝転がっている。
太郎「……六層って、こんな散らかる場所ちゃうやろ」
オカン「太郎、魔道掃除機出し。ほら、あんたのたこ焼きの粉、壁にまで飛んでるで」
太郎「壁に!? どんな勢いで焼いてたんや俺……」
魔道掃除機が「ブォォォォ」と唸り、霧の中で粉を吸い込んでいく。勇者たちは疲れ切って座り込み、ひよりだけが太郎の無事を確認してほっとしていた。
ひより「太郎くん……ほんとに無事でよかった……」
太郎「ひよりも無事でよかったわ。昨日は大変やったな」
玲奈は散らかった六層を見渡し、呆れたようにため息をつく。
玲奈「……これ、迷宮の最深部よね? なんでこんな文化祭の後みたいになってるの」
晴斗「文化祭でもここまで散らからねぇよ……」
茨木童子は頭を掻きながら、申し訳なさそうに言った。
茨木童子「……すまぬ。酒呑様が暴れた」
酒呑童子「暴れてへん! 楽しんだだけや!」
オカン「楽しんだ結果がこれやんか。ほんま片付ける身にもなってほしいわ」
太郎は魔道掃除機を止め、ふぅと息をついた。
太郎「迷宮で掃除機使う日が来るとは思わんかったわ……」
片付けが一段落した頃、酒呑童子がどっかりと腰を下ろし、真面目な顔で太郎たちを見渡した。
酒呑童子「……さて。お前らに話しておくことがある。六層に来れるのは、本来“歴代の皇帝だけ”や。ただし条件がある。茨木と力比べをして、認められた者だけや」
太郎「力比べ……?」
玲奈「そんな試練が……」
晴斗「てか、茨木に勝てる皇帝って何者だよ」
茨木童子は静かに頷いた。
茨木童子「今の皇帝は、我が片腕を切り落とした。ゆえに六層への資格を得た」
全員「片腕!?」「皇帝強すぎやろ!!」
ひよりは震えながら太郎の袖を掴む。
ひより「太郎くん……皇帝って……そんなに強いの……?」
太郎「……想像以上やな」
酒呑童子は続ける。
酒呑童子「ここにおる誰かが次の皇帝になってもええんやで?」
太郎「いやいやいやいや!」
玲奈「なんでそうなるのよ!」
晴斗「無理だろ!」
コハクは即座に膝をつき、深く頭を下げた。
コハク「皇帝には、皇太子であるモンド兄様がなるべきです。今回の六層訪問は……どうかノーカウントでお願いします!」
酒呑童子「ええよ。酒が飲みたくて呼んだだけやしな」
太郎「理由軽すぎるやろ!」
蒼真がふと呟いた。
蒼真「……しかし、第二皇子オニキス殿下の動きが気になるな」
玲奈「そうよ。わざわざ銀髪鬼の髪を取ってこさせて、銀髪鬼の罠にかけさせたのも怪しいし」
酒呑童子「ああ、あれか。あれはワシが命じたんや。“酒の気配がするやつがおるから酒をもらえ。無理ならここまで連れてこい”ってな」
オカン「ほら見ぃ、やっぱり酒絡みやん。アル中やでこの鬼」
酒呑童子「誰がアル中や!」
蒼真「……そういえば、銀髪鬼、『チョウダイ』『ヨコセ』『返せ』って言ってたな」
玲奈「じゃあ……第二皇子の罠じゃないってこと?」
マッチャが一歩前に出て、冷静に言う。
マッチャ「殿下。第二皇子殿下は柔らかい物腰どすけど……腹の底は読めへん方どす。“今回の件が罠ではない”としても、殿下の真意がどこにあるかは分かりまへん」
陰陽師Aが慎重に口を開く。
陰陽師A「……確かに、第二皇子殿下の行動は掴みにくい。陰陽寮としても、殿下の真意は読み切れておりません」
コハクは小さく首を振った。
コハク「オニキス兄様は少し変わっているけど……優しい方です。ただ、私が太郎様と取引を始めて不機嫌になることが多くなりました。あと兄様の周りの貴族は……思惑がいろいろありそうですが」
ユウガが一歩前に出て、強く言う。
ユウガ「コハク様、オニキス殿下は第二皇子派の私に、“コハク様を守れ”と命じていました。そして太郎様が六層にいると知るや、式を飛ばし、すぐに我々へ知らせてくださったのです!」
コハク「……オニキス兄様が、太郎殿の居場所を……?」
太郎「え、なんで第二皇子が俺の居場所わかるん?」
オカン「ストーカーに違いないで。気いつけや!」
太郎「オカン、皇族に向かって失礼やろ!」
その横で、陰陽師Bが護符を取り出した。どこか見覚えのある顔だと太郎は思った。
陰陽師B「太郎殿。あなたが六層にいると分かった理由ですが……それは、オニキス殿下の命で“護符”をお渡ししていたからです」
太郎「……は? 護符? 俺、そんなもん……」
陰陽師Bは軽く笑った。
陰陽師B「覚えておられませんか? カサギの宿場町で大道芸をしていた時、子供が『旅の無事のおまじない』と渡した木札……あれです」
晴斗「……あの時の大道芸人!?」
蒼真「やっぱり……見覚えがあると思った」
太郎「え、あの時の兄ちゃん陰陽師やったん!? てか、あれ護符やったん!?」
陰陽師Bは深く頷く。
陰陽師B「はい。あの護符は“持ち主の位置を知らせる”術式が込められていました。太郎殿が転移された直後、護符が六層を指し示したのです」
玲奈「じゃあ……敵じゃないってこと?」
晴斗「むしろ助けてくれてる側……?」
蒼真「だが、意図は読めない……」
オカン「やっぱりストーカーやと思うで!」
太郎「オカン、二回言うな!」
コハクは胸に手を当て、複雑な表情で呟いた。
コハク「……オニキス兄様は、モンド兄様を支える気なのか……それとも……別の意図があるのか……」
マッチャ「第二皇子殿下は、表も裏も読めへん方どす。けど、コハク様を守れと命じた事実は……確かどす」
太郎「……なんか、余計に謎深まったな」
酒呑童子が手を叩いた。
酒呑童子「ほな、そろそろ帰すで。六層は閉じる準備に入っとる」
茨木童子「道を開く。全員、我の後ろへ」
霧が裂け、光の道が現れる。六層の空気が震え、まるで名残惜しむように揺れた。
太郎「酒呑童子! また来るわ!」
酒呑童子「酒持ってこいよ、小僧ォォォ!!」
光が弾け、太郎たちは帝城へ転移した。
六層の霧が静かに閉じていく。
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太郎「……はぁ、やっと帰ってこれたわ」
オカン「太郎、あんた六層で粉まみれになってたで。洗濯大変やったんやからな」
太郎「オカン、六層で洗濯したん!? 魔境やぞあそこ!」
玲奈「てか太郎、なんであんな鬼と宴会してんのよ……」
太郎「知らんがな! 向こうが勝手に盛り上がったんや!」
晴斗「いや、たこ焼き追加で焼いてたのお前だろ」
太郎「……あれはノリや」
蒼真「ノリで六層の守護神と宴会するな」
ひより「でも……太郎くんが無事でよかった……ほんとに……」
太郎「ひより……ありがとうな」
コハク「太郎殿、次は勝手に転移しないでください。心臓に悪いです」
太郎「いや俺も好きで飛ばされたんちゃうねん!」
オカン「ほら見ぃ、やっぱり太郎はトラブル体質やわ」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




