第73話 ムラカ水軍頭領とオタオタソース
ミヤジ島の山頂で呪いを祓った太郎たちは、吹き上げる潮風に目を細めながら海を見下ろしていた。
その海は、ただの海ではなかった。
水平線の向こうから、黒い影がいくつも、いくつも押し寄せてくる。
帆が風をはらみ、波を切り裂く音が山頂まで届く。
陽光を受けて白く輝く帆が、まるで巨大な鳥の群れのように連なっていた。
太郎「……百隻はあるやろ、あれ。なんやねんこの規模」
蒼真「軍勢だ。しかも統率が取れている」
ひより「ひ、ひぃ……あんなのに囲まれたら、島が沈んじゃいます……」
そのうち数隻が進路を変え、ミヤジ島の港へ向かってくる。
太郎たちは急いで山を下りた。
港に着くと、潮の匂いが濃く、波が桟橋を叩く音がいつもより荒々しく響いていた。
巨大な船がゆっくりと近づいてくる。
船体は黒と赤の塗装で統一され、船首には海の魔物を象った彫刻が牙をむいている。
太郎「なんや……迫力が違うわ……」
オカン「かばちたれな太郎。ビビっとったらアカン。ビビりは顔に出るで。あんた今“ビビり顔選手権”優勝レベルや」
太郎「誰が優勝やねん!! いらん称号つけんな!!」
船が桟橋に横付けされ、重い足音が板を鳴らした。
降りてきたのは、日焼けした肌に海風で荒れた黒髪、肩に巨大な薙刀を担いだ男。
その存在感だけで周囲の空気が変わる。
男は太郎たちを見るなり、じろりとオカンを見て目を細めた。
タケベエ「……おどれら、噂の“ヒョウガミの行商人”か。海を支配しとるムラカ水軍はの、港いう港でいろんな情報を拾うんじゃ。
ヒョウガミ連れた男が、あちこちで商売しとる……そう聞いとったけぇの」
オカン「誰がヒョウガミやねん! ウチはただのオカンや! ヒョウ柄着とるだけで神扱いすな!」
太郎「せや! ヒョウ柄は大阪の正装や!! 神格化すな!!」
タケベエ「ほぉ……ほんなら別人か。しかし噂どおり、存在感はよう似とるのぉ」
太郎「存在感で神認定すんな!! オカンの存在感は“生活感”や!!」
男は改めて名乗った。
タケベエ「わしはムラカ水軍頭領、ムラカ=タケベエじゃ。ミヤジ島に怪しい連中が来たと聞いてな。調べに来たんじゃ」
太郎「怪しいのはそっちの圧やろ!」
蒼真が前に出て事情を説明し、巫女の証言もあって誤解はすぐに解けた。
タケベエは鼻を鳴らし、腕を組む。
タケベエ「……ふむ。おどれら、悪いもんではなさそうじゃの」
太郎「最初からそう言うてくれや!」
その瞬間だった。
海面が、ぐらりと揺れた。
波が不自然に盛り上がり、泡がぶくぶくと浮かび上がる。
潮の匂いが急に濃くなり、海鳥が一斉に飛び立った。
太郎「なんや……?」
島民「ま、魔獣じゃあああ!!」
海を割って現れたのは、体長十メートルはあろうかという巨大な海蛇――
魔獣アナーゴ。
黒光りする体表が太陽を反射し、口からは海水を圧縮した水弾が飛び散る。
魔獣アナーゴ「ギョオオオオ!!」
太郎「アナゴの化け物やんけ!!」
太郎たちが構えるより早く、タケベエが一歩前に出た。
その背中は、海の男の誇りそのものだった。
タケベエ「かばちたれな。こんくらい朝飯前じゃ」
薙刀が風を裂き、一閃。
海風が止まったかのような静寂のあと、魔獣アナーゴは悲鳴を上げて海へ沈んだ。
太郎「は、はやっ!! なんやあの速度!」
蒼真「……強い。あれは本物だ」
タケベエは倒したアナーゴを引き上げ、水軍の料理人たちが手際よく捌き始めた。
潮の香りと、焼ける魚の香ばしい匂いが港に広がる。
タケベエ「食うてみい。これがミヤジ名物、アナーゴ飯じゃ」
太郎は一口食べて目を見開いた。
太郎「うっま!! なんやこれ、ふわっふわや!」
ひより「口の中でとろけます……!」
玲奈「香ばしさがすごい……!」
タケベエは豪快に笑う。
タケベエ「はっはっは! 海の恵みじゃけぇの!」
太郎は感動し、礼としてお好み焼きを作ることにした。
太郎「ほな、ワイらも礼に一品作るわ」
オカン「任しとき!」
鉄板を出し、太郎とオカンが大阪風お好み焼きを焼き上げる。
ソースの香りが広がり、島民たちが興味深そうに覗き込む。
タケベエは一口食べて――
表情が変わった。
タケベエ「……われ、わしらにケンカ売っとるんか?」
太郎「なんでやねん!!」
タケベエ「まずくはない。まずくはないが……ヒロガ焼きの足元にも及ばんわ」
太郎「言い方ァ!!」
オカン「はぁ? 大阪焼きの方が上品やに決まっとるやろ! あんたらの焼き文化に負ける気せぇへんわ!」
太郎「オカン火つけんな! 粉もん戦争が始まるやろ!!」
タケベエ「……おおさか? そがぁな聞いたこともない土地の食いもんなんか、わしゃ知らんわ!」
オカン「なんでやねん! 大阪は世界の中心やろが! 粉もんの聖地や!」
太郎「世界の中心は言いすぎや!!」
タケベエ「知らんわ! 聞いたこともないわ!」
太郎「やめろおおお!! 料理戦争始まるやろ!!」
太郎「ほな本物のヒロガ焼き食わせてや!」
タケベエ「……今は作れんのじゃ」
太郎「なんでやねん!」
タケベエは空を見上げ、深いため息をついた。
タケベエ「ヒロガ焼きの魂……オタオタソースが手に入らんのよ」
太郎「ソースが魂なんかい!」
タケベエ「ビリケーン教がオタオタソース工房を乗っ取り、“神のソース”と認定して信者にしか売らんようにしたんじゃ」
蒼真「……なるほど。ヒロガの食文化が人質に取られているわけか」
タケベエ「ソースがなけりゃ、ヒロガ焼きは作れん。わしらは今、魂を失っとるんじゃ」
太郎は拳を握りしめた。
太郎「……ほな、取り返しに行こか」
タケベエはニヤリと笑う。
その笑みは、海の男の覚悟そのものだった。
タケベエ「かばちたれな。その言葉、待っとったで」
ヒロガの海と食文化を巡る戦いが、静かに幕を開けた。
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タケベエ「ほぉ……これが“おおさか焼き”いうやつか」
オカン「そうや! 世界一上品な焼きもんやで!」
タケベエ「世界一? そがぁな聞いたこともない土地の食いもん、信用できるかいの」
太郎「(また火種増やしよった……!)」
オカン「なんやと! 味で勝負したろか!」
タケベエ「勝負もなにも、ヒロガ焼きは魂じゃ。おどれのは……まあ普通じゃ」
太郎「普通て言うな! オカンが暴れるやろ!」
ひより「た、太郎さん……止めないと……!」
蒼真「いや、これは止まらん流れだ」
タケベエ「ほれ、ヒロガ来るなら覚悟しとけぇよ。かばちたれな」
オカン「その“かばちたれな”で黙らされるの腹立つんじゃ!」
太郎「やめろ! 異世界グルメ戦争が始まるやろ!!」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




