第64話 影八岐大蛇と酔いどれ最強おっさん
扉を押し開けた瞬間、むわっとした濃厚な酒の香りが鼻を刺した。
冷たいはずの地下空間なのに、どこか温かい空気が漂っている。
太郎「……酒くさっ!? なんでダンジョンの奥が酒蔵やねん!」
視界の先には、巨大な酒樽が何十本も並んでいた。
樽の表面には古代文字で「神酒」「危険」「飲むな」と刻まれている。
床には酒が染み込み、ほのかに光る霊気が立ち上っていた。
ツクヨミは樽に手を添え、静かに目を細めた。
ツクヨミ「……古代の退魔師が“魔物を酔わせて倒した”という記録があります。
この酒は霊力が強く、普通の人間は飲めません」
太郎「そんな危険物、なんでここに置いとくねん!」
その時、スサノオがふらりと酒樽へ近づいた。
まるで磁石に吸い寄せられるように。
スサノオ「……懐かしい匂いや。ちょっと味見だけや……」
太郎「絶対アカンやつや!!」
晴斗「俺も飲んでみ――」
オカン「高校生はアカン!! 未成年は“神酒”より麦茶や!!」
晴斗「ちぇっ……」
スサノオは豪快に酒をあおり、喉を鳴らした。
スサノオ「……うまっ……(バタッ)」
その場で爆睡。
ツクヨミはため息をつき、冷たい目で見下ろした。
ツクヨミ
「……精神力が低いのですか。
先ほどの私の話を聞いていなかったのですか。
聞いたそばから忘れるとは……鳥並みどころか虫並みの知力ですね。
まったく……このだら(バカ)」
太郎「辛辣すぎるやろ!!」
オカン「虫並みって言われたらもう立ち直れへんで……!」
その時、シーラが耳を立て、低く唸った。
シーラ「……くる……あの時の……!」
酒樽の影がぐにゃりと歪み、黒い蛇の影が床を這い出す。
影は生き物のようにうねり、酒の匂いに反応するかのように舌を伸ばしていた。
蒼真「影から生えるタイプの魔物や!」
太郎「なんで酒蔵に影蛇おんねん!」
影蛇が一斉に飛びかかる。
迫りくる影蛇の頭部へ、太郎はコテの平面を叩きつけた。
ガンッ!!
影とは思えないほどの“質量”が返ってきて、腕がしびれる。
太郎「っ……重っ! 影のくせに鉄板みたいやんけ!」
晴斗は勇者の剣を振るうが、影蛇は霧のように形を変え、攻撃をすり抜ける。
晴斗「攻撃が通らん!?」
玲奈が魔法陣を展開し、光の矢を放つ。
しかし影蛇は壁に溶け込むように避け、再び足元から襲いかかってくる。
玲奈「速い……!」
その時、シーラが前へ飛び出した。
白い毛並みがふわりと光に包まれ、筋肉が隆起し、骨格が軋む音が響く。
小柄だった身体がみるみる巨大化し、太郎の肩を越えるほどの大きさへと変貌した。
太郎「シーラ……でっか!!」
シーラは低く吠え、巨大な影蛇を噛み砕く。
その一撃は、以前の比ではないほど重く、影が悲鳴のように揺らいだ。
だが――
その瞬間、空気が一変した。
黒い霧が渦を巻き、酒樽がガタガタと震えだす。
霧の中心から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
黒衣の女
「……ここから先へは……行かせない……」
女の背後で、八つの影がうねり、床が軋む。
影八岐大蛇――その霊的残滓をまとった異形。
太郎「デカすぎるやろ!!」
晴斗「いやもうボスやん!!」
影八岐大蛇が地を揺らす咆哮を上げた瞬間、
八つの影が鞭のようにしなり、太郎たちへ襲いかかった。
太郎「うおおっ!?」
太郎はコテで影の一撃を受け止めようとしたが――
重い。重すぎる。
影の衝撃は鉄柱のようで、太郎の身体を横から弾き飛ばした。
壁に叩きつけられ、肺から空気が抜ける。
太郎「ぐはっ……!」
晴斗も同じく吹き飛ばされ、床を転がる。
晴斗「くっそ……重すぎる……!」
蒼真は影を斬ろうとするが、影は霧のように形を変え、逆に足元から絡みついてくる。
蒼真「足が……動かん!」
巨大化したシーラも影の尾に叩きつけられ、床に大きな溝を作りながら転がった。
シーラ「……っ!」
玲奈が叫ぶ。
玲奈「シーラ!!」
ひよりは震える手で光魔法を展開し、影を押し返そうとするが、
影八岐大蛇の圧力は強すぎて、光が押し負けていく。
ひより「だめ……力が……!」
黒衣の女がひよりたちへ影を伸ばす。
黒衣の女
「……消えて……」
ひより「きゃっ……!」
その瞬間――
酒樽の横で寝ていたスサノオが、眉間にしわを寄せた。
スサノオ「……うるせぇ……寝かせろや……」
太郎「起きたーーー!!」
スサノオはふらつきながら立ち上がり、刀をゆっくり抜く。
その動きは酔っているはずなのに、妙に無駄がない。
スサノオ「天羽々斬――」
太郎「技名あるんかい!!」
スサノオ「影断ち」
――ズバァァァァン!!
影八岐大蛇の八つの首が
一瞬で霧散した。
晴斗「え、今なにしたん……?」
蒼真「見えへんかった……」
玲奈「ただの酔っ払いのおじさんじゃないの……?」
オカン「寝起き最強やんけ!! 寝起きの旦那より強いわ!!」
黒衣の女は霧となりながら、かすかに呟く。
黒衣の女「……ヒルコ……守って……」
呟くと黒衣の女は消えた。
スサノオ「……もう一杯……(バタッ)」
太郎「また寝たーーー!!」
晴斗「俺が背負うわ……重っ!!」
奥の部屋へ進むと――
そこには横たわるヒルコと、神剣を構えるビリケーン信者たち。
信者「ヒルコの穢れで神剣を汚し、結界の復活を阻む……!」
太郎「やめろぉぉぉ!!」
オカン「太郎、行けぇぇ!! そのコテで“悪の味”全部ひっくり返したれ!!」
太郎「料理道具で戦わせるな!!」
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太郎「おいスサノオ、起きろや! こんなとこで寝るな!」
スサノオ「……五分だけ……」
ツクヨミ「五分で回復するほど脳が単純なのですか、このだら(バカ)」
太郎「言いすぎやろ!」
晴斗「てか、あの酒そんな強いん?」
オカン「匂いだけで酔いそうやわ」
玲奈「スサノオさん、完全に沈んでる……」
蒼真「戦力ゼロどころかマイナスやな」
ひより「ど、どうしましょう……?」
太郎「どうするもこうするも、起きてくれんと困るわ!」
スサノオ「……うるさい……寝かせろ……」
ツクヨミ「聞いたそばから忘れるとは……やはり虫並みの知力ですね」
太郎「また言うた!!」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




