第58話 封じられたハンザキ神
夜明け前。
王都ミササの空は、まだ眠りの色を残した薄青のグラデーションを描いていた。
静まり返った街路に、砂漠から吹き込む冷たい風が細く鳴り、
宿屋の木製の扉をかすかに揺らす。
その扉が、きしむような音を立てて開いた。
蒼真が戻ってきた。
外套は砂でざらつき、肩には細かな砂粒が積もっている。
髪は乾いた風に乱れ、目の下には深いクマ。
だが、その瞳だけは鋭く、夜の闇を切り裂くように冴えていた。
太郎「おかえり……って、お前、砂漠で三日迷った冒険者みたいな顔してるで」
蒼真「……情報は集まった。聞いてくれ」
蒼真は椅子に腰を下ろすと、
まるで重い荷物を降ろすように深く息を吐いた。
オカン「蒼真、顔色悪っ! ビタミン足りてへんやろ。モーモ食べ、モーモ!」
太郎「まず休ませたれ!」
蒼真「王都の湖の水源は、北にある“ハンザキ神の祠”の近くの聖泉だ。
だが……半年前から急激に水量が減り始めた」
玲奈「半年前……?」
蒼真「その直後、ビリケーン神殿が“これは神の怒りだ”と神託を出した。
住民はそれを信じ、水の配給を神殿に頼るようになった」
太郎「出たな……宗教の金儲けムーブ。困ってる人間ほど、信じやすいんや」
オカン「困ってる人ほど“無料サンプル”に弱いんや。商売の鉄則や!」
太郎「宗教の話やぞ今!!」
蒼真は淡々と続けたが、その声には怒りが滲んでいた。
蒼真「さらに……王族が姿を見せていない。
宰相が“水の配給はビリケーン神殿に任せる”と宣言した」
太郎「完全に乗っ取られてるやん」
蒼真「王城も調べたが……王族はどこにもいなかった。
ただ一つ、結界の張られた塔だけは入れなかった。
俺でも破れないほど強力な結界だ」
玲奈「……ますます怪しいね」
蒼真「祠の聖泉は……ほとんど湧き出ていなかった。
魔力の流れが乱れている。自然現象じゃない」
太郎は腕を組み、しばらく黙り込んだ。
窓の外では、朝日が城壁の向こうから顔を出し、
乾いた空気に淡い金色を落としている。
太郎「つまり、誰かが意図的に水を止めとるってことやな」
蒼真「その可能性が高い」
太郎は立ち上がり、手をパンと叩いた。
太郎「……で、住民は喉カラカラなわけやろ?」
蒼真「ああ。水の配給は神殿が独占している。水の販売も禁止されている」
太郎「オカン、なんとか助けることできんか」
オカン「“パンがなければケーキを食べればいいじゃない”作戦やな。幸いたくさん果物あるしな」
太郎の口元がゆっくりと吊り上がる。
太郎「そういうことか……」
玲奈「また太郎の悪い顔してる……」
晴斗「絶対ろくでもないこと考えてる顔だな」
太郎「失礼な! 人助けやぞ、人助け!」
オカン「まあ結果的に儲かるんやけどな」
オカン「“善意で儲ける”が一番ええんや。罪悪感ゼロや!」
太郎「言い方ァ!!」
ひよりが小さく笑った。
ひより「……でも、みんな喜ぶなら……いいと思う……」
太郎「よっしゃ、決まりや! キッチンカー出して、喉カラカラの住民助けたる!」
オカン「水がないならジュース飲ませたらええねん! うちは“喉のジャンヌ・ダルク”や!」
太郎「勝手に歴史的人物になるな!」
こうして、太郎たちの“ミックスジュース大作戦”が幕を開けた。
翌日。
王都の大通りは、朝から水を求める人々でざわついていた。
そんな中、宿屋の前にキッチンカーが現れた。
太郎たちはミックスジュースを売り始めた。
住民「うまっ……! なんといや、喉にしみるわ!」
住民「水より飲みやすいだが! 甘くて元気出る!」
太郎「ほら見てみ、商売繁盛や」
オカン「太郎、値段ちょっと上げよか? 需要爆上がりや!」
太郎「やめろ! 今は人助けや!」
しかし──
その香りに釣られたのか、ビリケーン信者が数名やってきた。
信者「神の許しなき飲み物を売るな!!」
太郎「お前らの許可なんかいらんわ!」
信者が詰め寄るが、玲奈が一歩前に出る。
玲奈「……邪魔しないで」
信者「ひっ……!」
太郎「玲奈、怖っ!」
オカン「玲奈、その顔ええわ! “氷の微笑みセット”として売り出そ!」
太郎「売り出すな!!」
太郎「ほな本題や。二手に分かれて調査するで」
Aチームは太郎・晴斗・玲奈。
ハンザキ神の祠へ向かう。
Bチームは蒼真・ひより。
王城の結界の塔へ向かう。
王城の塔の前。
蒼真「……この結界、やはり強い」
ひより「……小さな穴なら……開けられる……」
ピシッ、と結界に細い亀裂が走り、小さな穴が開いた。
蒼真「よし、入るぞ」
塔の内部は薄暗く、冷たい空気が淀んでいた。
最上階──
そこには、痩せ細った王族たちが幽閉されていた。
王族「助けてくれ……宰相とビリケーン神殿に閉じ込められたのだ……!」
蒼真「やはり……!」
ひより「……ひどい……」
王族「宰相は……王位を奪うつもりだ……!」
蒼真「太郎に知らせないと……!」
一方その頃、太郎たちはハンザキ神の祠に到着していた。
玲奈「……眠ってもらうね」
《スリープ・ミスト》
兵士たちは静かに崩れ落ちた。
太郎「相変わらず容赦ないな……」
祠の奥へ進むと、
太郎の持つ古代の羅針盤が激しく震え出した。
太郎「おいおい……壊れたんちゃうやろな」
最奥──
巨大なハンザキ神の石像が、封印札と鎖でガチガチに封じられていた。
玲奈「……これ、誰かが意図的に封じたんだよ」
晴斗「水が枯れたのは……この神さまが動けないからか」
太郎「ほな、封印解いたら水戻るんちゃうか?」
太郎は封印札に手を伸ばした。
オカン「太郎、端っこからゆっくり剥がしや! 雑に剥がしたら“ベタベタ跡”残るで!」
太郎「シール剥がしの話ちゃうわ!!」
石像の奥から、微かな光が漏れた。
──王都の水を巡る陰謀は、いよいよ核心へと迫っていく。
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太郎「……しかし、これ全部剥がすん大変そうやな」
玲奈「太郎くん、雑にやったら爆発するかもよ?」
太郎「え、そんな爆弾処理みたいなノリなん?」
晴斗「まあ太郎なら一回くらいは失敗しそうだな」
太郎「お前らの信頼どこ行ったんや!」
ひより「……太郎さん、がんばって……(小声)」
太郎「ひよりの応援だけが心の支えや……」
オカン「太郎、ウチは? ウチの応援は?」
太郎「お前は応援という名のプレッシャーやねん!」
玲奈「……はいはい、喧嘩は封印解いてからにしてね」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




