第51話 イカナーゴは春の風物詩
街を出てしばらく、太郎たちは西へ伸びる街道を進んでいた。
魔道馬車キッチンカーの前を歩くのは──一見すると普通の栗毛の馬。
……ただ、よく見ると耳の角度が妙に鋭く、毛並みの下で金属光沢がちらついている。
馬は軽快に蹄を鳴らしている──ように見えるが、近づくと「カンッ、カンッ」と金属音が混じる。
遠目には完璧、近づけばアウト。そんな絶妙な偽装ゴーレム馬である。
晴斗「なあ太郎……あれ、ほんまに馬なんか?」
太郎「馬“やったらええな”ってレベルやな……」
太郎「オカン、これ偽装できてるんか?」
オカン「遠目は完璧や。近づいたらバレるけど最適や」
太郎「近づいたらアカンやろ……!」
玲奈「歩くたびに鍋みたいな音してますよ。普通の旅人、絶対気づきますって」
蒼真「そもそも魔道馬車って、馬いらないんですよね……? なのに馬つけてるの、逆に怪しくないですか」
太郎「オカンが“馬なしは悪目立ちする”って言うたんや!」
オカン「馬なしより、馬“っぽい何か”の方が最適や」
オカン「最悪バレても「今日は鉄分多めの日やねん」で押し切れる」
晴斗「その判断が一番危ないねん!」
ひよりは馬を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
ひより「……太郎くん、あの子、時々こっち見てウインクしてるよ……?」
太郎「意思持たせるなや!!」
そんな騒がしい旅路の中、潮の匂いが風に混じり始めた。
海が近い。コウベ共和国の港街が見えてきたのだ。
港街は、石造りの建物が並び、潮風にさらされた木の看板が軒を連ねていた。
漁船が何十隻も並ぶ桟橋には、網を干す漁師たちの姿がある。
しかし、どこか活気が薄い。
人は多いのに、笑い声が少ない。
港町特有の“威勢の良さ”が欠けていた。
そんな中、太郎のキッチンカーは瞬時に視線を集めた。
「なんやあれ! 動く屋台か?」
「見たことない形やな……!」
子どもたちは目を輝かせ、大人たちは半信半疑で近づいてくる。
「兄ちゃん、これ……馬車なんか? 家なんか?」
「どっちでもええけど、なんかうまそうな匂いするな!」
太郎は慣れた手つきでたこ焼き器を温め、勇者たちも手伝いに回る。
オカン「太郎、これ返すん早すぎやろ!」
オカン「蒼真、ソースはそこちゃう! それ醤油や!」
オカン「ひより、かぎまぜるんは、もっと早よし!」
オカン「玲奈、焼くんは魔法でやるな! 焦げる!」
オカン「晴斗、あんたは皿洗いしとき! “勇者の中で一番皿が似合う男”や!」
わちゃわちゃしながらも、たこ焼きとお好み焼きは大人気だった。
「うまい! なんやこの丸い食べ物!」
「このソース……クセになるわ!」
「お好み焼きって……こんなふわふわなんか!」
行列ができ、太郎は満足げに胸を張る。
太郎「商売繁盛や!」
オカン「最適や」
太郎「最適って言うたら何でも許されると思うなよ!」
オカン「許されへん時は“最適”って顔しといたら大体いける」
勇者たちも汗を拭きながら笑っていた。
久しぶりに“平和な賑わい”を感じる時間だった。
食材が足りなくなり、太郎たちは市場へ向かった。
港の市場は広く、魚介の匂いが立ち込めている。
しかし、どこか寂しい。魚の種類が少ないのだ。
この地域の名物は──イカナーゴの佃煮。
春になると、港中の家々が一斉に鍋を火にかけ、
狂ったように炊き続けるのが風物詩らしい。
だが、どこにも売っていない。
太郎「おっちゃん、イカナーゴの佃煮は?」
店主「今年は一匹も獲れへんのや……」
市場の空気が重くなる。
太郎「春の名物ちゃうんか?」
市場にいた漁師が口を挟む。
漁師A「せやけどな……沖に魔物が出て、漁に出られへんのや」
漁師の顔は青ざめていた。
漁師A「海が“鳴く”んや……夜中に、低い声でな。あれは普通の魔物やない。船を出したら最後、帰ってこれん」
漁師B「仲間の船も、一隻……帰ってきてへん。網だけ流れ着いたんや。ボロボロになってな」
ひよりが息をのむ。
玲奈は拳を握りしめ、蒼真は険しい表情になった。
晴斗「太郎、行くしかないな」
太郎「いや俺、商人やぞ……?」
オカン「最適や」
太郎「最適って言うたら何でも許されると思うなよ!」
オカン「太郎、あんたの“商人やぞ”はもう信用ゼロや。うちの家計簿より薄い」
太郎はコテを握りしめ、勇者たちは武器を構える。
港の人々は、太郎たちを不安そうに、しかし期待を込めて見つめていた。
「兄ちゃん……頼む。イカナーゴが獲れんと、この町は春を迎えられへんのや」
太郎は深く息を吸い、頷いた。
太郎「しゃあない……行くか。海の魔物、しばいてくるわ」
オカン「ついでにイカナーゴも“しばいて”持って帰ってきてええで」
こうして太郎たちは、港街の危機を救うため──
海の魔物退治へ向かうことになった。
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晴斗「しかし太郎、お前……港着いてすぐ屋台出して行列作るってどういう神経してんねん」
玲奈「むしろ町の人より先に活気取り戻してましたよね……」
蒼真「イカナーゴの佃煮が無いって聞いた瞬間の太郎さんの顔、絶望してましたし」
ひより「太郎くん……佃煮そんなに好きだったんだね……」
太郎「好きや! 春の味やぞ! 食べられへんとか耐えられん!」
オカン「せやから魔物しばいて最適に漁を再開させたらええんや」
太郎「最適って言うたら何でも解決すると思うなよ!」
晴斗「でも結局行くんやろ?」
太郎「……行くわ! 佃煮のためにな!」
勇者4人「動機が完全に食い意地やん……!」
読んでくれてほんまおおきに。主人公は最弱ステータスやのに、自作AIだけは最強クラスでついてくるというバグみたいな状況で冒険しとります。
オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と作者より前に出てくる始末です。
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。
この作品はカクヨムにも同時投稿しており、どちらでも読みやすいように調整しています。更新はできるかぎり 毎日2回でがんばります。




