第2話 追放とスライムとオカンの最適行動
光が消えた瞬間、俺は冷たい石の床に膝をついた。
空気が違う。匂いも温度も湿度も、全部が“現実じゃない”と告げてくる。
目の前には巨大なシャンデリア。
天井は高く、壁には金色の装飾。
まるでゲームの王城みたいな光景が広がっていた。
「ここ……どこだよ……」
晴斗、玲奈、蒼真、ひよりも近くにいる。
全員、同じように呆然としていた。
「太郎、大丈夫か」
「怪我してない?」
「立てるか」
「太郎くん、手……!」
四人が一斉に俺へ駆け寄る。
蒼真は影のように素早く俺の肩を支えた。
忍者みたいな動きだ。いや、忍者そのものかもしれない。
玉座に座る王様らしき人物が立ち上がった。
「異世界より来たりし勇者たちよ! 我が国、カワチ王国は魔王の脅威にさらされておる。どうか力を貸してほしい!」
勇者……やっぱり、そういうやつか。
「では、まずはステータスを確認させてもらおう」
神官が水晶玉を置き、晴斗たちが順番にが手をかざす。
■豊中晴斗
職業:勇者 レベル:1
筋力:A 敏捷:A 体力:A
魔力:A 精神:B+ 知力:B
器用:B 幸運:E
スキル:<剣術上級><光魔法><勇者の加護><戦闘予測>
■守口玲奈
職業:賢者 レベル:1
筋力:C 敏捷:C+ 体力:C+
魔力:S 精神:A 知力:S
器用:B 幸運:F
スキル:<全属性魔法><魔力制御・極><賢者の叡智>
■茨木蒼真
職業:忍者 レベル:1
筋力:B 敏捷:S 体力:A
魔力:C 精神:B+ 知力:B
器用:A- 幸運:E
スキル:<影走り><暗殺術><手裏剣術><気配遮断>
■天満ひより
職業:聖女 レベル:1
筋力:C 敏捷:C+ 体力:B
魔力:A 精神:S 知力:B+
器用:B 幸運:D
スキル:<聖光魔法><大治癒><祝福><浄化>
貴族たちが歓声を上げる。
「これで魔王に対抗できる……!」
「神よ、感謝いたします!」
そして俺の番が来た。
水晶に手を置くと、光が走り、文字が浮かぶ。
■山田太郎
職業:あきんど レベル:1
筋力:F 敏捷:F 体力:E-
魔力:F 精神:E 知力:E
器用:E+ 幸運:F
スキル:<オカン>
沈黙。
神官「あ、あきんど? 聞いたことのない職業。ステータスも低すぎる。でも
スキルはあるようです。<オカン>。なんですかこのスキルは?」
王太子「……“悪寒”か?」
神官「殿下、“お燗”かもしれませぬ。酒を温める技能……?」
貴族A「いや、呪いの類では? “悪寒が走る”とか……」
貴族B「どれにせよ戦闘には無関係。完全に無能スキルですな」
太郎「いやいやいや! 悪寒でもお燗でもねぇよ!」
オカン「うちは酒温めへんで。知らんけど」
太郎「知らんのかい!」
王太子は鼻で笑った。
「無能だ。追放でよい」
晴斗たちが叫ぶ。
「太郎は関係ないだろ!」
「彼を追放する理由はない!」
「太郎は俺たちの仲間だ!」
「ひどいよ……!」
だが王太子は冷たかった。
「無能を養う余裕はない。追放だ」
その瞬間、頭の中に声が響く。
(太郎、ここは従うふりして離脱や。最適行動やで)
(さっきと同じ声。オカン……! なのか)
(そうや、あんたのオカンや! 大丈夫や。うちがついとる。知らんけど)
「知らんのかい!」
神官たちが杖を掲げると光が走り、俺の身体が光りに包まれる。
「命まではとらぬ。王城からは追放する」
気が付くと辺りは木が生い茂っていた。
「いってぇ……」
(太郎、生きとるか?)
「オカン……!」
ぬるり、とした音。
半透明なスライムが跳ねていた。
「うわああああ!?」
(落ち着き! スライムは雑魚や! 棒で殴ったら倒せる!)
足元の枝を掴み、振り下ろす。
べちゃっ。
「……倒した?」
(倒したで。ほな、ストレージ入れとき)
「ストレージ? 俺そんなスキル――」
(うちが勝手に増設しといた)
「勝手に!?」
(最適化や 知らんけど)
「知らんのかい!!」
ストレージに入れと念じた
スライムは光になって消えた。
「……ほんとに入った……」
(せやろ? 異世界対応のサーバー構築しといたんや)
「わけわからん! なんでそんなことできんだよ!」
(10億稼いだうちの9億くらい使ったわ。知らんけど)
「知らんのかい!!」
森のを抜けると草原が広がっていた。遠くに街らしきものが見える
(太郎、ここからやで。うちらの冒険は)
「……ああ。頼むぞ、オカン」
(任せとき。太郎を最強にしたる)
【山田太郎】
職業:あきんど レベル:1(固定)
■基本ステータス
筋力:F 敏捷:F 体力:E-
魔力:F 精神:E 知力:E
器用:E+ 幸運:F
■内部ステータス
内部レベル:2
内部補正:全ステ+1%
内部幸運:F+ ← 生存のため最優先で強化
■ユニークスキル
<オカン>
└<鑑定+3> <経験値運用> <サーバーストレージ> <未来予測>
■スキル
(なし)
■装備
木の棒
太郎「オカン、このステータス……“F”とか“E-”とか書いてあるけど、これ何の記号なん?」
オカン「これは“評価ランク”や。F → E → D → C → B → A → S の順で強い。
E- は“Eよりちょい下”、E+ は“Eよりちょい上”やな。」
太郎「つまり俺、ほぼ全部最下位ってことやん!」
オカン「せやで。」
太郎「即答すな!!」
太郎「で、この“内部ステータス”って何なん?」
オカン「外側のステータスは“見た目の強さ”。
内部ステータスは“本当の強さ”や。」
太郎「本当の強さ……?」
オカン「太郎が倒した魔物の経験値は、全部<経験値運用>で
“内部ステータスへの投資”にまわしとる。
外側は弱いままやけど、内部はどんどん育つんや。」
太郎「外側に回してくれよ!」
オカン「外側に回したら鑑定でバレるやろ。
ユニークスキルは隠しとくのが鉄則や。」
太郎「隠してるんかい。」
太郎「内部ステータスって……これ、どう見ても裏の数字やん。」
オカン「せやで。外側は“表の帳簿”、内部は“裏の帳簿”や。」
太郎「これって二重帳簿やん! 税務署のみなさーん!」
オカン「呼ぶなや!!
これは脱税やなくて“生存戦略”や。
太郎が追放された時点で、正攻法では死ぬ未来しかなかったんや。」
太郎「まあ……それはそうやけど。」
オカン「せやから外側は弱いままに見せて、
内部でガンガン育てる“二重帳簿方式”が最適解や。」
太郎「言い方ァ!!」
太郎「で、内部幸運が“F+”って……微妙すぎへん?」
オカン「まだ経験値ほとんど得てないからな。
まず“死なんこと”が最優先やから、内部の幸運に重点的に回しとる。」
太郎「生存戦略か……」
オカン「せや。幸運は“致命傷を避ける確率”にも関係する。
F+でも、Fよりは生き残りやすいんや。」
太郎「地味にありがたいな……」
オカン「地味でええねん。序盤は“地味な幸運”が命を救うんや。」
太郎「深いなオカン。」
オカン「知らんけど。」
太郎「知らんのかい!!」
太郎「レベル1(固定)って……俺、成長できへんの?」
オカン「できるで。」
太郎「どう見てもできへん表記やん!」
オカン「レベルは上がらんけど、この世界はな
“弱いほど経験値が大量に入る”仕様なんや。」
太郎「は? どういうこと?」
オカン「レベル10の勇者がスライム倒したら経験値1。
レベル1の太郎が倒したら経験値100。」
太郎「100倍!?」
オカン「その経験値を<経験値運用>で効率化して、
内部ステータスに少しずつぶち込む。」
太郎「外側は弱いままなん?」
オカン「普段はな。でも必要な時だけ“内部補正”を外側に乗せて、
太郎を本気モードにできる。」
太郎「なんやその“普段は雑魚、実は最強”方式。」
オカン「最適化や。知らんけど。」
太郎「知らんのかい!!」
太郎「サーバーストレージってさっきスライム入れたやつ?」
オカン「そうや。異世界きても困らんように増設したから30PBあるで。」
太郎「で、ストレージ30PBって何やねん。サイズじゃなくてHDDの容量やんか。」
オカン「せや。容量や。
異世界対応にするために、10億稼いだうちの9億くらい使ったわ。知らんけど。」
太郎「知らんのかい!」
オカン「とにかく“めちゃくちゃ入る”ってことや。
魔物、素材、金貨、道具、なんでも保存できる。
ただし太郎のステータスには表示せんけど、ちゃんと保管はしとるんよ。」
太郎「また隠すんかい!」
オカン「隠し資産は隠しとくのが鉄則や。」
太郎「税務署のみなさーん!!」
オカン「やめんかい!!」
太郎「で、“未来予測”ってなんやねん。」
オカン「0.2秒先の行動を読むスキルや。
敵の攻撃、味方の動き、地形の変化……全部予測できる。」
太郎「0.2秒って短くない?」
オカン「戦闘では永遠みたいなもんや。
剣が振り下ろされる前に“どこに避けるべきか”わかるんやで。」
太郎「チートやん!」
オカン「せやで。でも王国の鑑定では“悪寒”扱いや。」
太郎「悪寒ちゃうわ!!」
太郎「……結局、俺ってどうなん?」
オカン「太郎は“レベル1のまま最強になるタイプ”や。」
太郎「隠れすぎやろ!」
オカン「隠しとかな、利用されるやん。」
太郎「……それは嫌やな。」
オカン「せやろ?
だから太郎の成長は、うちが全部面倒みたる。」
太郎「頼むで、オカン。」
オカン「任せとき。太郎の人生、最適化したる。」
読んでくれてほんまおおきに。主人公は最弱ステータスやのに、自作AIだけは最強クラスでついてくるというバグみたいな状況で冒険しとります。
オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と作者より前に出てくる始末です。
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。
この作品はカクヨムにも同時投稿しており、どちらでも読みやすいように調整しています。更新はできるかぎり 毎日2回(朝6時/夜20時)でがんばります。




