第114話 揺れる伝統と、姉の婿候補
帝国学院の講師室は、重厚な木製の机が整然と並び、壁には歴代講師の肖像画が静かに見下ろしていた。窓から差し込む光が床の大理石に反射し、白い輝きが揺れる。太郎はその空気に飲まれたように肩をすくめた。
太郎「なんやこの“格式高いです”みたいな空気……落ち着かんわ……」
オカンは逆にテンションが上がっていた。
オカン「太郎、今日からうちも先生や!講師室の母や!」
太郎「勝手に就職すな!」
そのとき、講師室の扉が勢いよく開いた。貴族教師たちが、冷たい視線を隠そうともせずに入ってくる。
教師A「皇太子殿下のご意向とはいえ……庶民が講師とは」
教師B「学院の伝統が崩れますぞ」
太郎「ほら見てみぃ!俺、場違いやん!」
オカン「太郎は誇りや!八つ橋の誇りや!」
太郎「八つ橋で全部説明すな!」
教師たちの冷たい視線が突き刺さる中、太郎たちは生徒会室へ案内された。そこは学院の中でも特に格式高い部屋で、壁には帝国の紋章が刻まれている。
その中央に、黒曜石のような黒髪を持つ青年が立っていた。第三皇子――コクヨウである。
コクヨウ「初めまして。帝国第三皇子、コクヨウと申します」
太郎(絶対強キャラやん……)
教師たちはすぐに詰め寄る。
教師A「殿下!学院の品位が……!」
教師B「庶民に貴族教育など……!」
コクヨウは静かに、しかし鋭く言った。
コクヨウ「兄上のご判断に異を唱えるのですか」
教師陣「……っ」
その一言で、教師たちは一瞬で黙り込んだ。しかし、コクヨウの背後に控える側近たちの表情は複雑だった。
側近A「殿下……モンド殿下の意向は重いものです。逆らうべきではありません」
側近B「しかし……学院の伝統を壊すことになるのでは……」
側近C「庶民が講師など……帝国の恥です」
太郎「おい、聞こえてるで……」
オカン「太郎は誇りや!八つ橋の誇りや!」
太郎「八つ橋で押し切るな!」
コクヨウは静かに息を整えた。
コクヨウ「……私は迷っています。伝統を守るべきか、兄上の望む変革を受け入れるべきか」
側近たちは顔を見合わせた。そのとき、コクヨウは静かに言った。
コクヨウ「……姉上に意見を伺います。帝国の変化を最も近くで見てこられた方です」
側近たちは驚いたように顔を上げた。
側近A「コハク様に……?」
側近B「殿下が、姉君に……?」
コクヨウは頷いた。
コクヨウ「姉上は太郎殿を尊敬していると聞きました。ならば、その理由を私自身が確かめるべきです」
太郎「えっ……尊敬って……そんな大層な……」
オカン「太郎は尊敬の塊や!八つ橋の尊敬や!」
太郎「八つ橋で全部説明すな!」
生徒会室の奥。重厚な扉が閉じられ、静寂が満ちる。コクヨウは姉コハクを前にし、少しだけ緊張した面持ちだった。
コクヨウ「コハク姉様。太郎殿のことを、どのように思われているのですか?」
コハクは一瞬で頬を赤らめ、指先をもじもじと絡めた。
コハク「そ、そんな急に聞かれても……太郎様は……うちが見てきた誰よりも……変革を起こすお方ですえ」
コクヨウは息を呑む。
コハク「王国でも、帝国でも……太郎様が動けば、人も街も変わります。うちは……その姿を見て……尊敬してますえ」
コクヨウの胸がズキッと痛む。
コクヨウ(姉上……そんな顔で太郎殿を語るのか……嫉妬など、皇子として表に出せぬ。だが……姉上の婿候補がこの男であるなら……見極めねばならぬ)
コクヨウは静かに息を整えた。
コクヨウ「……姉様の想い、確かに受け取りました」
太郎は生徒会室の前で待たされていた。扉が開き、コクヨウが静かに歩み出る。
コクヨウ「太郎殿。お待たせしました」
太郎「なんかめっちゃ重い話してた空気やん……」
コクヨウは太郎の前に立ち、まっすぐに告げた。
コクヨウ「太郎殿。あなたには……学院に“変化”を示していただきます」
太郎「変化って……何すんねん……」
コクヨウは少しだけ視線を伏せ、言葉を選ぶように続けた。
コクヨウ「私は皇子です。だが、皇子である前に……一人の人間として迷っています。伝統を守るべきか、変革を受け入れるべきか。姉上の想いも、父上の考えも、兄上の意向も……すべて重い」
太郎「……そら、皇族は大変やろうけど……」
コクヨウ「だからこそ、太郎殿。あなたの言葉が聞きたい。あなたが見てきた世界……あなたが変えてきた人々……その経験から導き出した“帝国の未来”を」
太郎「いやいやいや……そんな国家レベルの話、俺にできるかいな!」
オカンが太郎の背中を叩く。
オカン「太郎、やったれ!うちは太郎の母や!国家レベルも家庭レベルも任せとき!」
太郎「家庭レベルってなんやねん!」
コクヨウはオカンの勢いに一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに真剣な表情に戻った。
コクヨウ「太郎殿。あなたは“庶民”だからこそ、見えるものがあるはずです。貴族には届かぬ声……変化を恐れる者たちの影……それらをどう導くべきか、あなたの考えを聞きたい」
太郎「……俺の考え、か……」
コクヨウは静かに頷いた。
コクヨウ「これは試練ではありません。あなたが姉上の婿候補としてふさわしいかどうか……それを見極めるためでもあります」
太郎「いやそこまで言う!?急にハードル上がったやん!」
オカン「太郎は婿候補や!八つ橋婿や!」
太郎「そんな婿おらんわ!」
コクヨウはわずかに口元を緩めた。嫉妬と期待と不安が入り混じった、複雑な笑みだった。
コクヨウ「太郎殿。あなた自身の言葉で……帝国の未来を語ってください。それが、私の難題です」
太郎は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
太郎「……わかった。俺なりに考えてみるわ。帝国がどうあるべきか……俺の言葉で」
オカン「太郎、やったれ!うちは応援団や!」
太郎「応援団は静かにしてくれ!」
こうして太郎は、皇子の迷いと姉の想いを背負いながら、“帝国の未来”という重すぎる難題に挑むことになった。
────────────────────────
太郎「……帝国の未来とか、急に言われてもなぁ……」
オカン「太郎、未来は八つ橋や!甘さで国を包むんや!」
太郎「包まれへんわ!」
コクヨウ「太郎殿、逃げずに向き合ってください」
太郎「いや向き合うけども!重すぎるねん!」
側近C「庶民が帝国の未来など語れるのか……」
オカン「語れるわ!太郎は家庭の未来も語れるんや!」
太郎「家庭の未来ってなんやねん!」
コクヨウ「……太郎殿。姉上の想いを裏切らぬ答えを期待しています」
太郎「プレッシャー増やすな!」
側近A「殿下、太郎殿が混乱しておられます」
オカン「太郎は混乱しても強いんや!八つ橋のように!」
太郎「八つ橋は強くない!」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




