第113話 帝国学院へ ――変化を求める者たち
――ヒョウガミ商会・帝都支店の会議室。
朝の光が大きな窓から差し込み、木製の長机に柔らかい影を落としていた。
太郎たちが席につくと、扉が静かに開き、オニキス、コハク、マッチャが整った足取りで入室する。
三人の姿勢はいつも通り端正で、帝都の空気をまとったような落ち着きがあった。
オニキスは机の前で一礼し、淡々と告げる。
オニキス「太郎殿。モンド殿下より正式な要請が届きました。学院での講師の依頼です」
太郎は椅子の背にもたれ、眉をひそめた。
太郎「またなんか仕事増えたんか……?」
コハクは袖を揺らしながら、柔らかい声で続ける。
コハク「帝国には“帝国学院”という貴族子弟が学ぶ場がありますえ」
マッチャ「十五歳から三年間、貴族として必要なことを学ぶ学校どす」
太郎は机に手をつき、前のめりになる。
太郎「いやいや、そんなとこで教えることなんかないで? 年も近いし、俺らあんまり変わらんやん」
オニキスは静かに首を振った。
その仕草は、帝都の空気のように無駄がなく、冷静だった。
オニキス「帝国は長い歴史があります。しかし……変化が乏しいのです」
オニキス「太郎殿が召喚されて二年。その間に起きた変化は、帝国の百年分に匹敵します」
太郎は思わず肩をすくめる。
太郎「いやそんな大層な……」
コハクは微笑みながら、太郎の肩を軽く叩いた。
コハク「太郎様が来てから、神様も動きはりましたし、商会も発展しましたえ」
マッチャ「殿下も、太郎様の影響力を認めてはります」
オニキスは視線を太郎に向け、静かに続ける。
オニキス「モンド殿下は、貴族中心の政治に一石を投じたいと考えておられます」
オニキス「まずは学院で学ぶ貴族子弟の“意識改革”を……と」
太郎は額に手を当てた。
太郎「意識改革って……俺そんな大層なことできへんで?」
オカンが勢いよく机を叩く。
その音は会議室に妙に響いた。
オカン「太郎、八つ橋の授業したらええんや! 八つ橋は世界を変えるんや!」
太郎「変わるかい! 世界規模で甘いもん広める気か!」
玲奈は肩をすくめ、苦笑しながら言う。
玲奈「でも、太郎の話って面白いし、わかりやすいよ。あれ授業にしたら?」
太郎「いやあれただの雑談や!」
ひよりは両手を胸の前でそっと握り、控えめに言葉を添える。
ひより「……でも……みんな、聞いたら変わる……気がする……」
オニキスは太郎をまっすぐ見つめた。
その瞳は揺れず、ただ静かに太郎の答えを待っている。
オニキス「太郎殿。何を教えるかは……太郎殿の“好きなこと”で構いません」
太郎は思わず机に手をつき、身を乗り出した。
太郎「好きなことって……ほんまに八つ橋の作り方でええんか?」
コハク「ええどすえ。太郎様の授業なら、なんでもええどす」
マッチャ「殿下も“太郎殿らしさ”を求めてはります」
太郎「なんやそのフワッとした依頼……」
玲奈が手を挙げる。
玲奈「太郎より私のほうが向いてるんじゃない? 頭もいいし」
晴斗「玲奈は魔法、俺は剣術で教えられるしね」
オニキス「はい。玲奈さんと晴斗さんにも、魔法と剣術の講義をお願いします」
太郎「ほら見てみぃ! 俺いらんやん!」
オカンは胸を張り、どや顔で言う。
オカン「太郎はんは“八つ橋学”の第一人者や! 世界初の八つ橋博士や!」
太郎「そんな学問ないわ!!」
オカンはさらに太郎の肩を叩く。
オカン「ところで講師料はいくらなん? 時給? 日給? 歩合制?」
太郎「金の話すなや! なんで歩合制で八つ橋売る前提やねん!」
オニキスは淡々と告げる。
オニキス「では、今から学園に向かいましょう」
太郎「今から!? 心の準備とか……」
――帝国学院・学園長室
帝国学院は白亜の大理石で造られた巨大な建物で、帝都の中でもひときわ威厳を放っていた。
広い中庭には整然と並ぶ木々が風に揺れ、学生たちの声が遠くに響いている。
太郎たちは案内され、重厚な扉の奥――学園長室へ通された。
室内は静かで、壁には帝国の歴代学園長の肖像画が並んでいる。
学園長は白髪の老貴族で、背筋を伸ばし、静かに彼らを見つめた。
その視線は厳しくも、どこか誇りを感じさせる。
学園長「皇太子殿下の申し入れと伺っています。しかし……伝統ある学園として、
貴族でもない者に貴族を導くのは難しいのではありませんか」
太郎は思わず叫ぶ。
太郎「ほら見てみぃ! 俺、場違いやん!」
オカンは胸を張り、堂々と言い放つ。
オカン「太郎はんは貴族より貴族らしいで! 八つ橋で帝都を救った男や!」
太郎「八つ橋で帝都救ってへんわ!!」
オニキスは一歩前に出る。
オニキス「貴族ではないからこそ、教えられることがあります」
オニキス「太郎殿たちは、帝国の誰よりも“変化”を起こしてきた」
学園長は静かに目を閉じ、短く息を吐いた。
学園長「……まずは、この者たちが生徒より優れていることを示していただきたい」
晴斗が剣を軽く抜く。
晴斗「じゃあ、剣術でやりましょうか」
玲奈も杖を構える。
玲奈「魔法は私が」
学院の訓練場に移動すると、上位貴族の子弟たちがざわついた。
白い砂地の広場に、学生たちの視線が集まる。
貴族生徒「庶民が講師? 笑わせるな」
貴族生徒「剣術なら我らが上だ」
晴斗は軽く笑う。
晴斗「じゃあ、手加減するよ」
太郎「その言い方やめぇ! 嫌味に聞こえる!」
試合開始。
晴斗は一瞬で相手の剣を弾き飛ばし、背後に回って軽く肩を叩いた。
その動きは風のように滑らかで、誰も追えなかった。
晴斗「はい、終わり」
貴族生徒「な、なに……!? 見えなかった……!」
続いて魔法試験。
玲奈が軽く詠唱すると、相手の魔法陣が一瞬で霧散した。
光が弾け、風が巻き、玲奈の魔力が場を支配する。
玲奈「魔力の流れが甘いよ。もっと基礎を固めないと」
貴族生徒「ぐっ……!」
学園長は静かに目を開く。
学園長「……見事です。講師として認めましょう」
太郎「俺なんもしてへんけど!?」
オカンは満面の笑みで叫ぶ。
オカン「太郎はんは“見守りのプロ”や! 見守り八段や!」
太郎「そんな段位ないわ!!」
――こうして、太郎たちの帝国学院での講義が始まる。
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太郎「……はぁ、なんで俺が学院で講師やねん……」
オカン「太郎、心配いらん! うちは“学院の母”になるで!」
太郎「勝手に母親ポジション取るな!」
玲奈「でも、太郎が教壇に立つ姿……ちょっと見てみたいかも」
太郎「見世物ちゃうわ!」
晴斗「学院の子たち、太郎の話聞いたら絶対びっくりするよ」
太郎「なんで俺が爆弾扱いやねん!」
コハク「太郎様、学院は広いどすえ。迷子にならんように」
太郎「子ども扱いすな!」
マッチャ「太郎様、講師室にはお茶もありますえ」
太郎「そこだけちょっと嬉しいわ!」
オカン「太郎、八つ橋も置いとこか? “講師の机に八つ橋”は伝統になるで!」
太郎「ならへんわ!!」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




