第109話 霊峰の影
避難が終わった北側の集落に太郎たちが駆けつけると、兵をまとめている二人の姿があった。
黒髪の青年オニキス。そして――威厳ある壮年の男性、サガノ公爵。
コハクが歩み寄る。
コハク「サガノ公爵様。ご無沙汰しております」
サガノ公爵「……コハク。無事で何よりだ。帝都での働き、聞いているぞ」
コハクは太郎を振り返る。
コハク「こちら、太郎さん。帝都で私が支援を受けている方です」
太郎「どうも、太郎や。よろしゅう頼むで」
オカン「うちもおるで。太郎のオカンや。商売と家事と戦闘、全部できる万能型や」
太郎「自己紹介のクセ強すぎるわ!」
サガノ公爵は一瞬だけ固まったが、何も言わずうなずいた。
サガノ公爵「……初対面だが、力を貸してくれるなら心強い」
太郎「ほな状況、教えてくれへん? なんでこんな騒ぎになっとんねん」
公爵は空を見上げた。そこには十匹のワイバーンが円を描くように旋回していた。
サガノ公爵「北側の鉱山開発が、龍の怒りを買ったのかもしれん。
ワイバーンが集落を襲い始めたのだ」
オカン「怒らすほど掘ったんかいな。そらアカンわ。山はな、ちょっとしたら拗ねるんやで」
太郎「山を人間みたいに言うな!」
晴斗「十匹って普通にやばいじゃん」
蒼真「全員で当たらないと無理だな」
その時、玲奈が魔力を集中させた。雷撃が空を裂き、ワイバーンの一匹に直撃する。
ワイバーンが怒り狂い、急降下してきた。
太郎「来るで!!」
玲奈「太郎くん、気をつけて!」
オカン「太郎! 避けんとアカンで! 当たったら死ぬで!」
太郎「わかっとるわ!!」
最初の一匹が太郎めがけて落ちてくる。太郎はドラゴンスレイヤーで真正面から受け止めた。
太郎「うおっ……重っ!!」
オカン「太郎! 腰落として踏ん張りや! 米袋持つときと一緒や!」
太郎「戦闘を米袋で例えるな!!」
太郎は踏ん張り、一閃で首を跳ね飛ばした。
晴斗「太郎、右!」
太郎「まじか!」
二匹目が横から突っ込んでくる。晴斗が剣を抜き、風のような踏み込みで胴を切り裂いた。
晴斗「まだ来るぞ!」
三匹目が玲奈へ向かって落ちてくる。
蒼真が地面に手をつき、影が一気に広がった。
蒼真「影縛り!」
影がワイバーンの翼と脚を絡め取り、空中で動きを止める。
蒼真は跳躍し、くないを三本投げた。
くないは正確に喉と関節を貫き、ワイバーンが地面へ落ちる。
オカン「蒼真、ええ仕事するなぁ! うちの店で働かへん?」
蒼真「いや戦闘中に勧誘すんな!」
太郎「オカンの商売魂どこでも出てくるな!」
しかし、次の瞬間――
四匹目、五匹目、六匹目が同時に急降下してきた。
晴斗「太郎、左!」
蒼真「右は俺が止める!」
蒼真が影をさらに広げた。
蒼真「まとめて止める……影縛り・三重!!」
影が三匹のワイバーンの翼と脚を一斉に絡め取り、空中でバタつく三体が完全に動きを止めた。
オカン「おおっ! 三匹まとめて縛ったで! 蒼真、器用やなぁ!」
太郎「褒めるんは後にせぇ!!」
晴斗が一体目へ踏み込む。
晴斗「はああっ!!」
剣が胴を深く切り裂き、ワイバーンが影の中で崩れ落ちる。
太郎「次、いくで!!」
太郎は二体目の首を力任せに叩き落とす。
残る三体目は、影に縛られながらも必死に咆哮していた。
蒼真「太郎、最後の一体!! 影が切れる!!」
太郎「任せぇ!!」
太郎は地面を蹴り、影に縛られたワイバーンの胸へドラゴンスレイヤーを突き立てた。
太郎「どりゃあああ!!」
胸骨を砕き、ワイバーンが影の中で沈む。
蒼真「……影縛り解除……っ!」
蒼真が息を荒げる。
蒼真「三体同時は……さすがにきつい……!」
太郎「よう止めたで! 助かったわ!」
オカン「蒼真、影縛り講座してくれへん? うちも覚えたいわ。太郎がゆうこと聞かへんかったら縛れるわ!」
太郎「オカンが影縛り覚えたら世界終わるわ!!」
だが、まだ終わらない。
七匹目、八匹目、九匹目、十匹目が怒り狂って突っ込んでくる。
晴斗「太郎、四体同時は無理だ!」
太郎「無理でもやるしかないやろ!!」
蒼真「俺が一体止める! 残り三体は任せた!」
蒼真が影縛りで一体を拘束。
晴斗が二体目を切り裂き、
太郎が三体目と四体目を力任せに叩き伏せた。
太郎「……はぁ……はぁ……なんやこれ……しんど……」
オカンはその死骸を見て目を輝かせた。
オカン「太郎! これ素材めっちゃ高く売れるで! 羽根も爪も全部使えるわ!」
太郎「オカン! 戦闘中に商売の話すなや!!」
オカン「いや商売は命やで。戦闘より大事や」
太郎「どの口が言うてんねん!!」
ワイバーン十匹が全て倒れ、集落に静寂が戻る。
オニキス「……助かった。太郎殿、感謝する」
サガノ公爵「恩に着る。領民も救われた」
オカン「ほな感謝の気持ちとして、うちの店の割引券配るわ」
太郎「勝手に配るな!!」
その瞬間だった。
空に暗雲が広がり、風が逆巻く。
雷鳴のような咆哮が山脈から響き渡る。
晴斗「……え、なにこれ」
蒼真「十匹で終わりじゃなかったのかよ……」
雲が裂けた瞬間、世界が“沈黙”した。
音が消えた。風も止まった。鳥の声も、木々のざわめきも、すべてが凍りつく。
霊峰の稜線が、“生き物の背中のように” ゆっくりと動いた。
太郎「……山、動いてへん……?」
蒼真「いや……あれ、背中だ……」
岩肌のような鱗が雲の中で光を反射し、その巨体がゆっくりと降りてくるたび、空気が波打ち、地面が低く唸る。
黄金の瞳が雲の奥で開く。その光だけで、周囲の空気が震え、兵士たちは次々と座り込んだ。
オカン「太郎……あれ、絶対ヤバいやつやで……」
太郎「オカンでもわかるレベルのヤバさや!」
オカン「いや、あの素材取れたら国一つ買えるで」
太郎「発想が商人やなくて魔王やねん!!」
晴斗は剣を握ったまま固まり、蒼真は影を出そうとしても指一本動かない。
蒼真「……威圧じゃない……存在そのものが……重い……」
龍が地面に着地した瞬間、周囲の草木が一斉に伏せるように揺れた。まるで大地そのものが“跪いた”かのようだった。
ひよりは震えながら太郎の袖を掴む。
ひより「太郎くん……怖い……」
玲奈も魔力を構えようとするが、指先が震えて魔力が散る。
玲奈「魔法が……発動しない……」
サガノ公爵は震える声で言った。
サガノ公爵「……あれは……霊峰の守護者……人が手を出してはならぬ……神の領域の存在だ……」
龍はゆっくりと太郎たちを見下ろした。その瞳は、怒りでも敵意でもない。
ただ――
“人では理解できない何か” を宿した光だった。
龍の声は、地鳴りのように響いた。
「小さきものよ……」
声だけで空気が震え、太郎たちは胸を押しつぶされるような圧を感じた。
────────────────────────
オカン「蒼真、影縛り講座してくれへん? うちも覚えたいわ。太郎が言うこと聞かへんかったら縛れるわ」
太郎「オカンが影縛り覚えたら世界終わるわ!!」
蒼真「いや、家庭内で影縛り使うのはやめてくれ……」
オカン「なんでやの。しつけには最適やで?」
太郎「影でしつけする親おるか!」
蒼真「影縛りは戦闘用だから……その……」
オカン「戦闘も家事も一緒や。動き止めてからが勝負や」
太郎「家事の勝負ってなんやねん!」
蒼真「太郎、普段どんな生活してるんですか……?」
太郎「オカンのせいで毎日が戦場や!」
オカン「ほら見てみ、影縛りあったら楽になるやろ?」
太郎「楽になるんはオカンだけや!!」
蒼真「それ……普通に虐待で通報されますよ……?」
太郎「せやろ!? やめてくれやオカン!!」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




