第105話 狐森の和解
尾巫女たちが森の奥から現れた瞬間、空気が張り詰めた。
白い能面の奥から淡い妖気が漂い、衣の裾が風もないのに揺れている。
焚き火の炎が細く揺れ、討伐隊の騎士たちが息を呑んだ。
尾巫女「この先に立ち入ることは許されぬ」
オニキスが剣を抜き、前に出る。
オニキス「やむを得ん。構えよ!」
太郎「いやいやいや! なんで巫女さんが敵なん!?」
尾巫女たちは音もなく散開し、太郎たちを包囲した。その動きは静かで、しかし異様なほど揃っている。
コハクが太郎の前に立つ。
コハク「太郎様、下がってください!」
太郎「下がるも何も、もう囲まれてるんやけど!」
オカンはなぜか包みを開けていた。
オカン「太郎、腹減ってへんか? 助六食べとき」
太郎「こんな緊張感あるとこで助六すすめるな!」
尾巫女の一人が太郎に向かって跳ぶ。
その刃が迫った瞬間――。
助六弁当の稲荷寿司が、ふわりと光を放った。
太郎「なんで助六が光んねん!!」
尾巫女たちは一斉に動きを止め、ひざをつく。
尾巫女「……その光……神気……?」
太郎「いや弁当やで!? ただの弁当やで!?」
尾巫女たちは敵意を失い、太郎たちを森の奥へ案内した。
森の奥は、外よりもさらに静かだった。木々の間を抜ける風が止まり、空気が重く沈んでいる。
その中心に――苔むして朽ちた小さな社があった。
社の前には、巨大な九尾の狐が横たわっていた。白銀の毛並みはくすみ、九本の尾は弱々しく揺れている。神気と妖気が混ざり合い、苦しげな息を吐いていた。
太郎「……ここ、神社か?」
尾巫女が静かに頷く。
尾巫女「この森は神域。主は、この社を守る神獣……」
太郎「神獣!? なんでそんな大事なもんが倒れてんねん!」
尾巫女「鉄道工事の振動で……社の結界が乱れました。森の端に集う魔物たちは、主を守るために並んでいるだけ……」
太郎は森の外縁を見た。狼型、熊型、鳥型……さまざまな魔物が、まるで“森の守衛”のように整列ししている。
九尾が弱々しく目を開いた。
九尾「……人の子よ……我を討つのか……?」
太郎「いや、倒れてる相手に何すんねん。まず大丈夫か?」
オカンがそっと稲荷寿司を差し出す。
オカン「太郎、これ食べさせたら元気なるんちゃう?」
太郎「おいなりさんを万能薬みたいに扱うな!」
しかし九尾は稲荷寿司の匂いに反応し、わずかに首を動かした。
九尾「……その甘い揚げ……懐かしい……」
尾巫女が静かに言う。
尾巫女「主は長らく“供物”を受けておりませんでした……」
太郎「供物って……おいなりさんのことかい!」
オカンが九尾の口元に稲荷寿司をそっと置く。
九尾は弱々しく口を開き、一口かじった。
次の瞬間――九尾の体から淡い光が立ちのぼった。
九尾「……力が……戻る……!」
九本の尾がふわりと持ち上がり、毛並みが一気に艶を取り戻す。社の周囲の空気が澄み、森が息を吹き返した。
太郎「ほんまに回復したーーーっ!?」
オカン「ほら見ぃ、食べたら元気なる言うたやろ!」
太郎「おいなりさんを回復アイテム扱いすな!」
九尾は立ち上がり、太郎たちを見下ろした。
九尾「……人の子よ。礼を言う。妾はフシミ。この地を守る神獣である。おぬしらの供物……実に良い……」
太郎「供物って言うな! ただの寿司や!」
九尾の事情を聞き、太郎は提案する。
太郎「ほな、鉄道のルートずらしたらええんちゃう? 社も森も守れるやろ」
技術者「可能です! むしろ駅を作れば観光資源に……!」
オカンが勢いよく手を挙げた。
オカン「駅前に神社建てよ! おいなりさん供えたら運気上がるって言うたら、観光客が勝手に供えるで!」
太郎「商売の匂いしかしない!」
オカンはさらに追撃した。
オカン「駅でケツネうどんも売るで!」
太郎「絶対売れるやつやん!」
九尾はその様子を見て、かすかに笑った。
九尾「……人の子らよ……悪くない……」
尾巫女たちも静かに頭を下げる。
尾巫女「主は、この森を守りつつ、人の子らと共に歩むことを望まれます」
オニキス「殿下に報告しよう。駅と神社の建設、森の保全……すべて両立できる」
太郎「ほんまに観光地化する気満々やん……」
九尾が太郎に尾の先を向ける。光の粒がふわりと舞い、太郎の胸に吸い込まれた。
太郎「うわっ!? な、なんやこれ!」
九尾「……加護の欠片……礼だ……」
太郎「いや、勝手にバフかけんといて!」
尾巫女「主の恩寵を拒むとは……」
太郎「いや怖いねん!」
九尾は静かに目を閉じ、森に再び静寂が戻った。
九尾「……また供物を持って来るがよい……」
太郎「いや、気軽に呼ばんといて……」
オカンが太郎の背中を叩く。
オカン「太郎、帰ったら粉もんの仕込みやで!」
太郎「結局そこかい!」
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太郎「なんで巫女さんが敵なん!?」
オニキス「太郎殿、下がれと言っている!」
太郎「下がる場所がないんやって!」
コハク「太郎様、私の後ろへ!」
太郎「いや、もう囲まれてるんよ!」
オカン「太郎、腹減ってへんか? 助六あるで」
太郎「この状況で助六出すな!」
尾巫女「……静まれ。主の眠りを妨げる者よ」
太郎「いや、妨げる気ゼロや!」
オニキス「来るぞ!」
太郎「来るなって言うてるやろ!」
オカン「太郎、食べながら戦ったら力出るで」
太郎「だから助六を戦闘食にすな!!」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




