第104話 尾巫女の森
朝の帝国支店は、開店前とは思えないほどの熱気に包まれていた。
鉄板の上では追加投入されたゴーレムがリズムよく包丁を振るい、刻まれた野菜が跳ねるたびに香ばしい匂いが立ちのぼる。
湯気と油の匂いが混ざり合い、まるで祭りの屋台の裏側に迷い込んだようだった。
その喧騒の中、帳簿を抱えたティナが太郎の前に立つ。
いつもより少しだけ目の下にクマがあり、昨日の忙しさがそのまま残っているのが分かる。
ティナ「太郎さん。昨日の利益ですが……金貨五十枚です。それと――」
ティナは帳簿をめくりながら、言いにくそうに続けた。
ティナ「ヒョウガミ像の前に“お供え”として金貨二十枚相当が置かれていました」
太郎「いやいやいや! 勝手に神扱いされてるやん!」
ティナ「どう処理すべきかと……」
そこへ、胸を張ったオカンが割り込んできた。
オカン「もらっとき! 気持ちは受け取らなアカン!」
太郎「オカンの判断基準どうなっとんねん!」
オカンはすでに追加の食材を山ほど発注しており、厨房の隅には粉袋が山のように積まれている。
ゴーレムたちは鉄板を磨き、油を温め、まるで戦の準備でもしているかのようだ。
オカン「粉もんは戦いや! 準備は怠ったらアカン!」
太郎「なんで粉もんが戦争みたいになってんねん!」
太郎が頭を抱えていると、店の入口からコハクが息を弾ませて駆け込んできた。
コハク「太郎様、殿下がお呼びです。至急、皇城へ」
太郎「またなんか始まったんか……。オカン、仕込みはちゃんとやるんやで」
オカン「それはこっちのセリフや!」
太郎はため息をつきながら、皇城へ向かった。
皇城の執務室では、モンドが山のような書類に囲まれていた。
窓から差し込む朝日が紙の束を照らし、その影がモンドの疲れた表情をさらに際立たせている。
モンド「太郎殿、来てくれて助かる」
太郎「殿下、忙しそうやな……」
モンドは一枚の地図を広げ、太郎の前に置いた。鉄道のルートが赤線で描かれ、その途中に黒い印がついている。
モンド「鉄道の最終ルートが決まった。しかし――魔物の巣が確認された」
太郎は地図を見た瞬間、胃がキュッと縮むのを感じた。
太郎「嫌な予感しかしないんやけど」
モンド「討伐隊に同行してほしい」
太郎「なんで俺やねん!」
モンドは真剣な目で太郎を見つめる。
モンド「太郎殿が行くと“なぜか”被害が減るのだ」
太郎「運頼みやめぇ!」
モンドは続ける。
モンド「晴斗殿と蒼真殿は王国側の魔物討伐中。玲奈殿も商会立ち上げで動けぬ。頼めるのは太郎殿だけだ」
太郎はしばらく黙り、窓の外で羽ばたく鳥をぼんやりと眺めた。逃げたい気持ちと、断れない性分が胸の中でせめぎ合う。
太郎「……しゃあない、行くわ」
モンド「恩に着る」
モンドの表情がわずかに和らいだ。
商会に戻ると、玲奈が心配そうに迎えた。手には書類の束、隣ではティナが新しい看板のデザインを描いている。
玲奈「太郎くん、気をつけてね。商会のことは任せて」
太郎「頼んだで」
そこへオカンが割り込んだ。
オカン「粉もんは任せたで!」
太郎「そこちゃうやろ!」
魔物の巣に近い野営地。森の木々が風に揺れ、葉が擦れ合う音が静かに響く。討伐隊の騎士たちは焚き火の周りで武具を整え、魔法士たちは魔力の流れを確認していた。
そこへ、オカンが大きな包みを抱えて現れた。
オカン「腹が減っては戦はできんで! 助六寿司や!」
包みを開けると、甘い揚げの香りがふわりと広がり、騎士たちの視線が一斉に吸い寄せられた。
騎士A「この甘い揚げ……うまい!」
騎士B「巻き寿司は“願い事の方向”を向いて食べると福が来ると聞いたぞ!」
太郎「ティナの噂、広まるの早すぎるやろ!」
オカンは胸を張る。
オカン「福は呼んだもん勝ちや!」
太郎「根拠ゼロや!」
太郎がツッコんだその瞬間――。
森の奥から、冷たい風が吹き抜けた。焚き火の炎が揺れ、空気が一変する。
白い能面をつけた巫女たちが、木々の間から音もなく現れた。衣の裾が風もないのに揺れ、その姿はまるで幽霊のようだった。
尾巫女の一人が静かに告げる。
尾巫女「この先に立ち入ることは許されぬ」
オニキスが剣に手をかけた。
オニキス「何者だ!」
巫女たちは同時に顔を上げ、能面の奥から冷たい声を響かせる。
尾巫女「我らは“尾巫女”。主の眠りを妨げる者は、ここで斬る」
太郎は叫んだ。
太郎「なんで巫女さんが敵なん!?」
オカンが前に出る。
オカン「太郎、あれ絶対ええ子らや。粉もん食べさせたら改心するで」
太郎「戦闘中に粉もん勧めるな!」
尾巫女たちが一斉に構えを取る。その動きは静かで、しかし異様なほど揃っていた。
尾巫女「――来るがよい、人の子らよ」
森の空気が張り詰め、太郎は小さくつぶやいた。
太郎(……これ、絶対めんどいことになるやつやん)
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太郎「ティナの噂、広まるの早すぎるやろ!」
オカン「福は呼んだもん勝ちや!」
太郎「根拠ゼロや!」
オニキス「……静かに。何か来る」
太郎「え、また嫌な予感しかしないんやけど」
ティナ「風向きが変わりましたね……」
オカン「太郎、腹減ってへんか? 今のうちに助六食べとき」
太郎「こんな緊張感あるとこで助六すすめるな!」
尾巫女「この先に立ち入ることは許されぬ」
太郎「うわっ、出た! なんで巫女さんが敵なん!?」
オカン「太郎はん、あれ絶対ええ子らや。粉もん食べさせたら改心するで」
太郎「戦闘中に粉もん布教すな!」
尾巫女「……問答無用。構えよ、人の子ら」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




