第102話 帝国側窓口とお目付け役
帝都ヘイアンの皇城は、白い石壁が夕陽を受けて淡く輝いていた。
その奥にある皇太子モンドの執務室は、静謐で、空気が張りつめている。
太郎は緊張しながら扉をくぐった――つもりだったが。
オカン「太郎はん、背筋伸ばしぃや。皇太子の前で猫背はアカンで」
太郎「なんでオカンついてきとんねん!」
オカンはまるで自宅の茶の間にいるかのような気安さで立っていた。モンドは書類から顔を上げ、苦笑を浮かべる。
モンド「構わぬ。……慣れた」
太郎「慣れたってなんやねん!」
部屋の中央には大きな地図が広げられ、魔道列車の予定ルートが光を反射している。
オニキスとコハクも席につき、太郎を見守っていた。
モンド「魔道列車の敷設ルートだが、利権が絡むと話が進まぬ。太郎殿、帝国側の窓口を誰にするか希望はあるか?」
太郎は地図を見下ろし、眉を寄せる。
太郎「希望って言われてもなぁ……官僚相手は苦手やし……」
その横で、オカンが胸を張った。
オカン「太郎はん、官僚相手には粉もん渡したら一発やで」
太郎「賄賂みたいに言うな!」
オカン「ちゃうちゃう、“心の交流”や」
太郎「余計あかんわ!」
コハクが扇子を口元に当て、静かに言う。
コハク「オカン殿、粉もん外交は帝国では通用しませんえ」
オカン「通用せんのか……残念や」
太郎「残念がるな!」
モンドは軽く息をつき、太郎をまっすぐ見た。
モンド「――オニキスを窓口にする」
部屋の空気が少し動いた。オニキスは驚きつつも、背筋を伸ばす。
太郎「オニキス殿下を!? ええんか?」
モンド「貴族の影響を排除できるし、オニキスにとっても良い学びになる」
オニキス「兄上……! 任せてください!」
オカンが感心したようにうなずく。
オカン「オニキスはん、ええ声してるし窓口向きやわ」
オニキス「声は関係ないのでは……?」
オカン「声は大事やで。商売は声から始まるんや」
太郎「なんの理論やねん!」
モンドはさらに言葉を続けた。
モンド「そして太郎殿。お前は……やらかす」
太郎は思わず椅子からずり落ちそうになる。
太郎「なんで断言やねん!」
オカン「そらそうや。太郎はんは昔からやらかし体質や」
太郎「おまえが言うな!」
モンド「だから――コハクとマッチャをヒョウガミ商会に派遣する」
太郎「え、なんで!?」
モンド「太郎殿の暴走防止と、貴族の干渉を防ぐためだ」
コハクは静かに微笑み、マッチャは冷静に頷く。
コハク「太郎様、うちがしっかり見張りますえ」
マッチャ「太郎様の“勢い任せ”は危険ですから」
太郎「お前らまで……!」
オカンが太郎の肩をポンと叩く。
オカン「安心し、太郎。重しが二つもついたら転ばんで」
太郎「俺は荷車か!」
その時、扉が勢いよく開いた。
兵士「報告します! 国境付近の魔物討伐体の編成完了しました!」
モンド「帝国からも魔物退治に兵をだす。太郎殿たちは商会の準備に集中してくれ」
オカン「軍の人らにも粉もん差し入れしたろか?」
太郎「やめとけ!」
皇城を出ると、夕暮れの風が帝都の街路を吹き抜けていた。
ヒョウガミ商会の前には、すでに数名の貴族が押しかけている。
貴族「ヒョウガミ商会殿、魔道列車について力になれると思うのですが――」
オニキス「何か用か? 帝国の未来を妨げるなら、皇族として見過ごせぬが?」
貴族「ひっ……! し、失礼した!」
貴族たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
オカン「オニキスはん、今の“圧”ええわぁ。粉もん焼くときの火力みたいや」
太郎「例えが雑すぎる!」
さらに太郎の店にも別の貴族が来ていた。
貴族「ヒョウガミ商会よ、我が家のものをヒョウガミ商会へ――」
コハク「太郎様に近づくのは許しまへん。お引き取りください」
貴族「ひぃっ……!」
太郎「コ、コハク……ちょっと怖いわ」
マッチャ「太郎様が甘いからです」
帝国支店のフードコート予定地に入ると、学生たちが元気よく説明を始めた。
厨房からは、すでに香ばしい匂いが漂ってくる。
学生A「ハンバーガー、ラーメン、牛丼、ドーナツなど、人気の料理を中心にそろえています!」
学生B「キョウ帝国料理の店も誘致しました!」
学生C「料理学校の卒業生も呼び寄せています!」
学生D「寿司コーナーも作ります! にぎり、巻き寿司、稲荷寿司も!」
太郎「稲荷寿司ええやん。子どもも好きやし」
オカン「おいなりさんは正義やで。甘い揚げさんは狐も喜ぶわ」
太郎「なんで狐が出てくんねん」
オカン「知らんけど、なんか呼ばれそうな気ぃするやろ」
太郎「不穏なこと言うな!」
ティナ「……巻き寿司は“願い事の方向を向いて食べると福が来る”って噂を広めれば、売れそうですよね」
太郎「ティナまで商売っ気出してきたんかい!」
オカン「それと粉もんコーナーは絶対いるで! たこ焼きとお好み焼きは外せへん!」
太郎「急に粉もん押し込んでくるな!」
オカン「粉もんは世界を救うんや!」
太郎「根拠ゼロやろ!」
太郎はため息をつきながら、奥の扉を開けた。
その瞬間、空気が変わった。
そこには――ヒョウガミ像が鎮座していた。
その足元には、ひよりと、太郎の街の教会にいた孤児の少女たちが並んで祈っている。
太郎「なんでここにおるん!? ひより、それなんなん」
ひよりは胸の前で手を組み、少し照れたように微笑んだ。
ひより「太郎さんの役に立ちたくて……ヒョウガミ様のことを帝国の方に知ってもらいたいの」
孤児たちも元気よく頭を下げる。
孤児たち「お仕事、手伝いに来ました!」
太郎「ひよりちゃん、それアカンやつや~!」
太郎が頭を抱えた瞬間、オカンが目を潤ませながら前に飛び出した。
オカン「ええ子らや……! 粉もん教えたる!」
太郎「粉もんから離れろや!」
ティナ「……太郎さん。帝国支店、すでにカオスなんですが」
太郎「俺のせいちゃうやろ!」
────────────────────────
太郎「……なんか俺、貴族に狙われすぎちゃう?」
コハク「太郎様が隙だらけなんどす」
マッチャ「“押せば何とかなる”と思われてますね」
太郎「ひどい評価やな!」
オカン「そら太郎はん、顔に“押し売り歓迎”って書いてあるし」
太郎「どんな顔やねん!」
オニキス「太郎殿、安心してほしい。私が前に立てば貴族は逃げる」
太郎「それはそれで怖いわ!」
ティナ「太郎さんは後ろに立っててください。安全ですから」
太郎「俺、戦力外扱いなん!?」
コハク「太郎様は“守る対象”どす」
マッチャ「間違っても前に出ないでください」
オカン「せやせや。太郎はんは後ろで粉もん焼いとき」
読んでくれてほんまおおきに。オカンは「ブクマ押しとき!損はさせへん!」とか「★評価?そら押すやろ常識やん!」と言ってます
もし少しでも笑えた、続き読みたい、オカンうるさいけど好き、など思ってくれたら、ブクマや★評価で応援してくれたらオカンがめちゃくちゃ調子に乗ります。作者もついでに元気になります。ほな、次回もよろしく頼むで。




