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 サトリが会場の中から当日に飛び入り参加した本庁の刑事を指名する。


「佐田警部、実験に協力してもらえますか?」


 指名を受けた警部が立ち上がり、ヨミの隣に立つ。

 そこで高校生探偵がいくつかの質問をする。


「実験内容はご存知ありませんね?」

「ああ、もちろん」

「死神のヨミと会って話したことは?」

「ない。今日が初めてだ」

「警部はサクラではありません」

「それは私が保証しよう」


 サトリが実験内容を説明する。


「これから死神にベッドのあるA部屋へ入ってもらい、警部にはテーブル席のあるB部屋に入ってもらいます。そこで俺たち人間が超能力と呼んでいる力を、実際にお見せしたいと思います」


 警部が尋ねる。


「まさか私を殺すんじゃないだろうね?」


 それを真顔で言うのでサトリには冗談かどうか判別できなかったが、連れてきた部下たちだけが笑っていた。


「テーブルに紙とペンを用意していますので、部屋に入ったらお好きな言葉を書いてください。死神は別部屋に居ながらにしてその言葉を読むことができるのです」


 死神ヨミと佐田警部の二人が実験助手の案内に従って会場を後にした。しばらくしてからモニター映像に二人が再び姿を見せるのだった。会場と音声が繋がっているのでサトリがマイクを通して呼び掛ける。


「ヨミ、聞こえるか?」

「はい」

「それじゃあ、いつものように頼む」


 そこで死神少女はベッドに横たわるのだった。

 次に佐田へ呼び掛ける。


「警部、聞こえますか?」

「ああ、聞こえている」

「部屋の中は警部お一人ですね?」

「保証しよう」

「それでは紙に何か書いてください」


 佐田が走り書きをしてペンを置いた。それを見て、サトリが実験をスタートさせて、実況解説する。


「ヨミ、それでは始めてくれ」


 ベッドで横になるヨミは何もアクションを起こさなかった。


「もう既に始まっています」


 するとヨミのいるA部屋のドアがひとりでに開くのだった。


「死神は壁を通り抜けることはできませんが、鍵の掛かっていないドアなら開けることができます。俺たち人間がテレキネシスとか念力と呼んでいる力です」


 しばらくすると今度は警部のいるB部屋のドアがひとりでに開くのだった。警部がそちらを凝視している。


「移動してきた死神が部屋に入りました。警部? 今その部屋には誰かいますか?」

「いや。おらんよ。ドアは誰が開けたんだ?」

「その部屋には鍵も仕掛けもありません」


 それからB部屋のドアが開き、しばらくしてA部屋のドアが開いて、ヨミがベッドから上体を起こして縁に腰掛けるのだった。


「ヨミ、佐田警部が書いたメモの内容を教えてくれ」


 死神少女が首を捻りながら答える。


「信じる者しか救われないのか?」


 それを不思議そうに弱弱しく小声で口にしたのだった。

 サトリが尋ねる。


「警部、当たっていますか?」

「疑問形も含めて正解だ」


 会場では、どよめきと驚きと小さな笑いが同時に起こった。


「それでは警部、会場にお戻りください──」


 佐田が戻る間、会場では隣の席同士で感想が交わされた。


「──警部が戻られたので第二の実験を始めます。ヨミ、準備を頼む」


 死神少女がベッドで横になった。


「A部屋の実験室には通常の監視カメラとは別に特殊なカメラが設置されています。技術さん、お願いします」


 そこで天井アングルから水平アングルへとモニター映像が切り替わった。ベッドで寝ているヨミを真横から捉えた映像になっている。


「これは音を視覚化させるカメラです。微弱な音波でも映像化させることが可能なんです。ヨミ、死神になってくれ」


 するとヨミが幽体離脱したかのように、人間の形をした白い影が起き上がり、ベッドから抜け出すのだった。


「これが死神の正体です。科学は神の姿を捉えることに成功したんです」


 会場は言葉を失っていた。


「人間が部屋に入ると音が反響しすぎて画面が真っ白になるんですが、人間の聴覚には感じ取れない死神が発する音は、より鮮明に映し出すことができるんです」


 補足する。


「殺害現場を押さえることはできませんが、実用化に向けて開発を急げば、死神の証明として役立つはずです。そうなれば状況証拠の一つとして裁判に提出できる未来がやってくるかもしません」


 締める。


「そこまで待たなくても、防犯や犯罪の抑止力として活用することは、法整備されていない現在の段階でも可能です」


 そこでマイミィが拍手をしたが、他の者は続かなかった。


「死神のターゲットと目される中学生が昨夜の事件を受けて、とある場所で警護されていますが、そこにも既に死神を感知するカメラが設置してあります。捕まえることはできませんが、テロを防ぐことはできるのです」


 それはレンへのメッセージだった。


      ※


 先に刑事関係者が散会した後、D4と女子三人で今後についての話し合いをする予定だったが、家族が心配しているということで、マイミィと天使とヨミは富彦が用意した送迎車で先に帰宅した。


 残されたD4の四人が玄関のロビーで二台目の送迎車を待っていたら、年配の男性社員がにこやかに声を掛けてきた。社内警備を受け持つ、引き締まった身体つきをした男だ。


「覚くん、ほんとだ、大きくなったね──」


 サトリがキョトンとしている。


「──憶えてるわけないか、十五年前だもんね」

「十五年前?」

「君が持っているリストに僕の名前があるはずだ」

「DB事件」

「そう。澤田和哉さわだかずやです。刑事を辞めて、今はこちらでお世話になってるんだ」


 そこで富彦に会釈をする。

 サトリが話を戻す。


「お話を伺いたいと思っていたところでした」

「いつでも歓迎するよ」

「では本庁の刑事さんを交えて改めてお願いに上がります」

「うん。そうするといい」

「リストに名前がある人は狙われる可能性が高いので充分に気をつけてください」

「いや、その必要はないさ」

「はい?」

「相手が死神なら、殺されたって構わない」

「え?」


 そこで澤田がにこやかな表情のまま考え事をし、一つ頷いて打ち明ける。


「隠していても仕方ないし、いずれ知ることになると思うから話しておくけど、死神は死んだ娘の仇を討ってくれた僕のヒーローだ」


 サトリが思い出す。


「一年前に自殺した小学生って」

「僕の娘だ」


 それを清々した顔で言い放つのだった。


「元刑事が言うことじゃないけど、今すぐ死神の捜査なんて止めてほしいくらいだよ。警察には能力の限界があるのだから、裁けない悪事は死神にお願いすればいいんだ。僕は反対しない。死神の方がよっぽど公平だからね」


 ご遺族を前にして反論する言葉を失うサトリだった。否定する言葉が頭に思い浮かんでもブレーキが掛かってしまうのだった。


「動画を観たよ──」


 そこで澤田がレンを見た。


「──気持ちはわかるよ。大切な人を守る君の熱い気持ち。それが僕にはなかった。君が立ち向かったように、僕も全力で娘を守れば良かったんだ。だから決して理解されないと思うけど、僕の代わりに仇を討ってくれた死神に感謝しているんだ」


 次は仁太に向かって言う。


「公務員として忠実に命令に従ってきたけど、その全てが正しかったかどうかは分からない。特に十五年前のDB事件。当時も今も、死神は法を犯したわけではないんだ。テロ対策室にいたけど、死神をテロリストとして認定できる法的根拠は一切なかった。そうなると、どちらが法を犯したんだって話になる」


 最後に富彦に言う。


「今は身の回りの人を守りたいと思う気持ちが強くなりました。私自身の不甲斐なさもありますが、警察にいながら警察には守れない領域があると痛感したからです。まだ一年にも満たないですが、社員の安全は私にお任せください」


 サトリに微笑みかける。


「室長の判断に疑問を持ち、批判したことはお父上に内緒にしておいてください。あの人は死神どころか悪魔なので」


 それを茶目っ気たっぷりに言うのだった。


     ※


 サトリは天川刑事が運転する車で家まで送ってもらうことになった。車を走らせるとすぐに助手席の秋津刑事が後部シートに話し掛ける。


「ひどいじゃないか、サトリくん」

「何がですか?」

「何がじゃないよ、死神実験なんて聞いてないよ」


 これには天川も同意する。


「ほんとだよ、本物の死神と知り合ってたなんて、もう、信じるしかないじゃん」


 サトリが笑う。

 秋津が怒る。


「いや、笑い事じゃないよ、そういうのは言ってくれないと。隠し事をする間柄じゃないだろう? もうすでにオレたちは仲間なんだからさ」


 サトリが笑いを引っ込める。


「あれ、嘘ですよ」

「うん? 何が?」


 秋津は飲み込めていない様子だ。


「あの実験そのものがフェイクなんです。死神の視覚化はできませんでした。だから映像クリエイターにお願いして、それらしく見えるように創ってもらったんです。犯罪の抑止力になると思って」


 秋津がガッカリする。


「なんだ、嘘かよ。騙されたな」

「私も騙された。こういうのに引っ掛かる人じゃないのに」


 天川も落ち込んだ、と思ったら、急に不機嫌になる。


「それにしても見損なったよ。サトリくんも案外、いじわるな性格なんだね」

「すいません」


 素直に謝るサトリだが、天川の気は収まらない。


「私たちに教えてくれても良かったのに」

「身近な人も騙せるか、それも検証の一つでした」

「成功したわけだ」

「はい。これで少しは時間が稼げるかなと」

「サトリくんの性格の悪さも証明されたけどね」


 秋津が笑って、無駄話を始める。


「刑事コロンボや古畑任三郎や杉下右京とか、観てると『コイツ、性格悪いな』って思いますよね。魅力的な俳優や綺麗な女優を追い詰めるもんだから、ついつい犯人役に同情しそうになる」


 天川が一言。


「なんないよ」


 秋津は気にせず続ける。


「刑事って損な役回りだなって話ですよ。『デスノート』はピカレスク作品として、悪漢である主人公が死神の言葉通りに非業の死を遂げましたけど、現実にはそういったカタルシスがありませんからね」


 天川が一言。


「なに言ってんの?」


 秋津は気にせず続ける。


「現実は必ずしも我々に味方してくれないって話です。『名探偵コナン』は仲間が死なないことで有名ですが、我々の場合は関係者全員が死神に殺されるバッドエンドも存在するんですよ。何の前触れもなく、急に話が畳まれる。それこそが本物のリアルなんですけどね」


 天川が一言。


「死ぬときは一人で死んでね」


 秋津が気にせず続ける。


「そういうことじゃなくて、今の我々はですね、それこそ神に生かされてるだけなんです。生きるとか、生きようとか、生きろとか、そんな人間の意志が介在できるレベルの話ではなく、死神の気分次第なんですよ」


 天川が一言。


「少し休んだら?」


 秋津は気にせず続ける。


「オレは最後まで見届けますよ」


 二人の会話を後部シートで聞いていたサトリだが、心境に変化が生じたのを自分でも感じ取るのだった。

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