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富彦の会社が出資しているストリーミングTVでは、毎週日曜日のお昼に三時間ぶち抜きで生放送の情報番組を配信している。
番組名は『THE WEEK』で、一週間で起きたニュースやスキャンダルを六名の出演者が感想を言い合うだけのシンプルな構成になっている。
リアルタイムでSNSの反応を拾うので、そこが一方通行の既存メディアにはない特徴でもあった。
この日は四時間の拡大版で、通常ニュースを後回しにして、番組開始から三時間通して死神事件を特集する予定だ。
出演者は司会進行を務めるフリーアナウンサー、大学教授、ビジネス系インフルエンサー、有名弁護士、現役アイドル、お笑い芸人、以上の男女六名がメインの出演者だった。
そこに特別枠として番組出演を依頼されたのが、制服衣装を着た現役高校生のマイミィだった。番組MCの隣に座り、左右のテーブルに分かれたコメンテーター陣の真ん中に招かれるのだった。
紹介された時も堂々たる振る舞いで、スタジオの観覧席で見守っているサトリや仁太の方が緊張していたくらいであった。
最初に二組の芸能一家心中事件を説明したVTRが流れ、スタジオに戻るとコメンテーターが第一印象を順番に語り合った。
その後に朝刊の記事の論調を伝えて、コメンテーターが先ほどよりも踏み込んだ感想を述べるのだった。
ここまでは他局のワイドショーと差異はなく、性被害を受けた加害少年二人に対して同情して、性犯罪者だと暴かれた親に対しては厳しい意見が寄せられた。
「それではここから番組独自の検証を行います。取材班がVTRにまとめたので、まずはこちらをご覧ください──」
それは一連の事件が死神の犯行によるもので、芸能一家だけではなく、高校生三人の自殺や自然死や生配信中の心不全も含めて連続テロを示唆する内容になっていた。
マイミィ動画や天使動画も使われており、被害者の子供たちには一年前の自殺事件に関与している共通点も言及されていた。
それからマイミィが撮影した死亡する直前の少年二人の姿も流れたことで、スタジオの空気が一気に張り詰めたのだった。
「──えぇ、この後、二人の少年は互いを切りつけて死亡に至ったわけですが、マイミィさんはその場で目撃したということですね?」
ようやく出番が回ってきた。
「はい。これまで五人の子供たちが変死していますが、死神の殺害予告を見てわかるように、フィクションだと思っていた『デスノート』が現実となった、それだけで一連の不可解な事件の説明がつくんです」
結論から述べた。
大学教授が首を捻っていた。
有名弁護士は不機嫌な顔をしていた。
ビジネス系インフルエンサーは頷いていた。
女性アイドルは深刻な表情を浮かべていた。
男性アイドルはコメントを考えている様子だ。
アナウンサーが捕捉する。
「『デスノート』というマンガがあって、ご存知ない方に説明しますと──」
視聴者にわかりやすく伝えた。
「──つまりマイミィさんは、真相は別にあって、一連のテロを起こした真犯人がいるとお考えなわけですよね? しかも人間ではなく、死神だと」
即答する。
「間違いありません。テロを起こした死神は、マンガで描かれたキラに近い能力を持っています。特定の人物にしか見えないとか、突然死を起こせるとか、昨夜の事件のように人間を意のままに操ることも可能なんです」
そこで有名弁護士が手を上げたので、アナウンサーが指名する。
「これ、いつまで続けるんですか?──」
爽やかなビジュアルで、二十年前に地上波のワイドショーで有名になった桂木弁護士だ。中年になった今も清潔感は失っていない。
「──こういったオカルト話に私を巻き込むのは止めていただきたい。他の出演者の方だって迷惑だと思いますよ──」
隣に座っている大学教授が賛意を示すかのように大きく頷いた。
「──スポンサーやマネージャーに話を通しているんですか? テロの首謀者が死神なんて、言ってることが霊感商法そのものじゃないですか。そういった手法で視聴者を騙すのは悪質だ。我々は彼女の売名行為に協力するつもりはありません」
事前にプロデューサーから話は通してあるが、本番で知らないフリをして怒るのが彼のやり方だった。
そういった事情を知らないマイミィが素で反論する。
「そこで議論をストップさせるのは建設的ではありません。死神の存在について語る時間は過ぎました。ワタシの動画の中でも既に終わった話です。まだまだ事件は終わっていないので、どうしたらこれ以上のテロ行為を防げるか話し合うべきです」
桂木弁護士が冷たく言い放つ。
「それは君の動画でやったらいい。とはいっても霊感商法と一緒なので、アカウントが停止しなければの話だが」
そこで女性アイドルが挙手する。大人数グループに所属する大ベテランだが、二十代の後半に入ったばかりの年齢だ。
「私は子役の金森凛香さんが亡くなられた生配信も観ていて、死神は絶対にいると思いました。SNSやまとめサイトでは検証も進んでいて、偶然では起こり得ない確率で予告殺人が成功しているので、私も一連のテロから身を守る方法を話し合う段階にきていると思います」
そこで地上波のテレビに呼ばれなくなった男性の中堅芸人が私見を述べる。
「アメリカ政府が宇宙人やUFOに関する文書を公開するように指示を出しましたし、その死神が未確認生物である可能性は否定できないと思うんですよ。じゃあ人間に何ができるんだって話になりますけど、手立てがないですよね、今のところ」
アナウンサーが尋ねる。
「マイミィさんは、どのような対策を考えてますか?」
「テロ対策の法制化です──」
サトリのアイデアだ。
「──国民の生命が脅かされているのだから、国は一刻も早く法制化に向けた議論をしなければならないんです。この件で動かない政治家は怠慢としか言いようがありません」
そこでコロナ禍でも大活躍した社会学の女性教授が指摘する。
「現実には殺人もテロも起こっていない。にも拘らず呪いの類まで取り締まろうとすると、国に強大な捜査権を与えることになりますよね。それこそ現代に魔女狩りを復活させるようなものです。貴女はそれがどれだけ恐ろしい結果を生むか想像できていますか?」
予習したことをマイミィが本番で活かす。
「現在は事件が局所的だから被害が拡大せずに済んでいるだけなんです。大規模テロが起きてからでは遅すぎます。法律は抑止力にもなるので、今すぐにでも捜査方法や逮捕の手順を確立させなければいけません」
桂木弁護士が呆れる。
「まるで話にならないな。今回の事件は殺害予告というタチの悪い悪ふざけがあったから、あたかも死神が存在しているかのように錯覚したんだろう? そんなものがなければ、ただの死じゃないか? 呪いによる死を殺人と立証することはできないんだよ」
マイミィにとっては想定内の指摘だ。
「それで死神に殺されても、桂木先生は納得できますか? 殺人であることは明白なのに、自然死として片づけられるんですよ? 罪人として裁くには法律が必要なんです」
大学教授が指摘する。
「だから殺人として立証する方法がないじゃないの」
「現在はありません──」
マイミィが認めた。
「──でも今後はわかりません。すべては死神さん次第です。神の力を持つ者に法制化を協力してもらえば道が開けます。死神は法で裁けない罪人を裁いているので、法律ができればワタシたちの味方になる可能性があり、そのチャンスを逃すべきではないと考えます」
桂木弁護士が笑う。
「キミには何が見えてるんだ? 死神が罪人を裁いてるって? 死んだのは子供たちで、その子供らが親を殺したんじゃないか。それだって虐待が原因だ。未成年であることを考慮すると、罪人と呼べるのは虐待した大人だけではないかね」
マイミィが指摘する。
「死んだ少年らはイジメの加害者です」
「どんなイジメがあったんだ?」
「犯罪者の大人に引き合わせたんです」
「それがイジメなのか?」
「その言葉が被害者への侮辱だと理解できませんか?」
桂木弁護士が柔和な表情を見せる。
「それも犯罪者の親を持つ子供たちの悲劇じゃないか。問われるべきは大人の責任であり、親を選べない子の責任ではないよ。自殺は痛ましいが、親の犯罪に巻き込まれた子供たちのイザコザを罪と称して断罪するのは正義でもなんでもない。子供のイジメを死刑にすれば、そのうち世界から大人になる子供がいなくなるだけだ」
マイミィは反対に表情筋を一切緩めることはなかった。
「あなたもイジメの加害者です。あなたのような大人が子供の犯罪を軽視するから神さまは怒ったんじゃないですか? イジメと呼称されている子供の犯罪を適切に裁ける世の中ならば、こんな事件は起きなかった。桂木先生が起こした事件でもあるんです」
それでも桂木は柔和な表情を変えることはなかった。
※
番組が中盤に差し掛かったところで生コマーシャルに切り替わり、十五分間の休憩に入った。出演者が自由行動する中、マイミィは観覧席に座るサトリと仁太の元にやってくるのだった。
「どうだった?」
「スゲェよ」
仁太が心から称賛した。
「可愛かった?」
「カッケェよ」
「いや、それは嬉しくないんだけど──」
渋い顔をしているサトリに尋ねる。
「──上手く喋れてたかな?」
「……うん」
「何が不満なの?」
「死神を持ち上げすぎだ」
サトリがダメ出しする。
「テロの脅威を語りながら、同じ口でテロリストを称賛すれば、テロ行為を賛美していると思われるだろう? 確かに俺たちが神と呼んでいる存在に限りなく似ているんだけど、実体が浮き上がった今、神のように崇めるのは危険なんだ。それだと新興宗教にハマった狂信者に見えるだけだ。そこは気をつけた方がいい」
マイミィは納得していない様子だ。
「でもレンくんなんだよね?」
返事をしないサトリに問い掛ける。
「仲間なのに信じてないの?」
それにも答えないサトリだった。
※
まもなく休憩が明けて生放送が再開される予定だったが、桂木弁護士がスタジオに戻ってきておらず、現場スタッフが慌ただしく動き回っていた。
スタジオの外から勢いよく駆けつけた番組ADから報告を受けたディレクターが説明する。
「桂木さんが楽屋で意識を失いました。救急車を呼びましたが、すでに息を引き取られたとのことです。生CMに差し替えますので、警察が来るまで全員その場で待機願います」




