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「先に帰れるように、俺から警察に頼もうか?」


 天使だけ明らかに口数が少なかったので、サトリが気遣った。


「いいえ、残ります」

「無理しない方がいいよ」


 マイミィも同じ体験をしているが、優しく声を掛けたのだった。

 天使は言葉に甘えない。


「それより今後について話しましょう」

「今後って?」


 仁太の問いに、天使が答える。


「レンさんが人殺しをしているというのはにわかには信じがたいですが、サトリさんが断言されるなら確度の高い情報なのでしょう。では、わたしたちはこれからレンさんに対してどのように接していけばいいのでしょう?」


 サトリには考えがあった。


「それについては今後も仲間の一人として、これまでと同じように接してほしい。俺としても、レンが警察に疑われている事実は全員で共有するつもりだったんだ。それに、いつかは本人に問い詰めないといけなかったわけだし」


 そこで三人と順番に目を合わせる。


「といっても、これは死神の証明問題だ。レンは絶対に認めようとしないだろうから、俺を信じるか、レンを信じるか、っていう話でもある」


 マイミィの表情に明るさが戻っていた。


「ワタシは正直、レンくんが死神なら、まだマシというか、他の知らない人じゃなくて良かったと思ってる」


 そこで悩みを打ち明ける。


「最近、なんとなくけられてる気がして怖かったんだ。動画で死神に喧嘩を売ったから狙われたのかもしれないと思って。でもレンくんならワタシを標的になんてしないもんね。だからホッとした」


 仁太が同意する。


「おれもレンが死神なら大歓迎だ。わけわからない不気味な敵だと思ってたら、昔から知ってる仲間だったんだもんな。マイミィが言う通り、よっぽどマシだよ」


 天使がめつける。


「冗談はやめてください。子供同士に殺し合いをさせるなんて正気とは思えません。そんなのは死神ではなく悪魔です」


 マイミィが反論する。


「ワタシは違うと思うけどな」

「どこがどう違うのですか?」

「悪魔だとは思わない」

「それはおかしいです」

「おかしいのは同級生をいじめるような人間の方でしょう?」

「だからといって法を超えていいとはなりません」

「殺された人間の方が悪魔だったんだよ」


 そこで天使が反論をやめたが、それは負けを認めたわけではなく、これ以上の議論は不毛だと悟ったからであった。


 それを読み取ったサトリは、言い知れぬ不安を抱くのだった。それがいつか社会問題になり、世論を二分するような予感でもあった。そのことについて、少しだけ触れておく。


「仲間割れはよそう。レンがそれを期待して計画を実行したなら、それこそ死神の思うつぼだ。俺たちはLの意志を継いで問題に対処すべきだ」


 そうは言ったものの、賛同を得た手応えはあまり感じられないサトリであった。


     ※


 同時刻、所轄署の刑事から要請を受けた秋津は、佐田警部や天川と共に鬼怒田力の自宅へと急行した。


「何がどうなってるんだ」


 と言いつつ、現着した秋津はリビングに転がる遺体に手を合わせるのだった。それから所轄署の刑事から報告を受けた。


「凶器を持った被疑者が自宅から出てきたとの情報があったので急行しましたが、留守宅に施錠がないことを不審に思い突入したところ、両親と思われる二名のご遺体を発見しました」


 有名俳優の遺体だが、頭部を鈍器でカチ割られていたので、それが死体の演技ではないことが一目でわかった。


「母親のご遺体は、二階にある少年の部屋で見つかりました。死因は絞殺で間違いありません。抵抗した跡が見られますので、鑑識結果で被疑者マルヒの特定が可能です。それだけではありません。こちらへ、よろしいでしょうか──」


 そこで佐田警部ら三人をダイニングへと案内する。


「──こちらの連絡ボードを見てください。被疑者の少年が学校へ向かう途中で残した殺害予告と同一のものと思われます」


 そこにはキヌの両親の名前が連名で書き連ねていたのだった。それを見て、佐田警部が天川に尋ねる。


「どう思う?」

「一連の犯行で間違いないかと思われます」

「指示役は死神だと?」

「そういうことになります」

「そんな見解を発表できるか」


 二人の会話に秋津が割って入る。


「ですが警部、ネットメディアでは既に死神犯人説で検証も行われています。ここまで来たら従来のメディアも追随する可能性が高いです」


 それでも佐田は否定的だった。


「客観的事実はだな、殺し合った少年ら二人が主犯格だった、それだけではないか。死神の殺害予告も、それで説明がつく。他に関わった仲間がいるとしても、共犯グループが一人か二人増えるだけだ。違うか?」


 それが一般的解釈であったし、秋津も警察組織の一員として重々承知していた。DB事件が存在しない世界線は現在も続いているのである。


「警部──」


 所轄署の刑事が報告する。


「──もう一人の被疑者少年宅から、こちらと同様のご遺体が発見されました。芸能事務所社長と、その妻で間違いないそうです。さらに殺害予告も見つかっています」


 その夜、二組の芸能一家による複雑な無理心中事件として一斉に報道されたのだった。


     ※


 複数の事件が発生したため人員の確保が困難となり、仁太と天使は家族に迎えにきてもらって帰宅の途についた。


 マイミィは自宅まで徒歩圏内ということもあり、歩いて帰宅することに決めたのだが、サトリが心配して家まで送ることにした。


「生中継してるよ」


 帰宅途中に二人は善川金児の自宅前に寄ったのだが、各社ニュース番組のクルーが詰めかけており、それを見たマイミィが立ち止まる。サトリがスマホを見ながら状況を説明する。


「ついさっき事件が起きたばかりなのに、すでに自宅から大量の児童ポルノが見つかったって報じられてる。この情報の流れは速すぎないか?」


 サトリが自問し、自答する。


「親への恨みが動機で、元子役二人の死は他殺ではなく、復讐を遂げた挙句の心中ではないかと誘導する記事まである。こんなの、警察とマスコミが協力してでっち上げたシナリオとしか思えないよ」


 サトリが危惧する。


「おそらく明日以降の報道はもっと酷いことになる。二人の加害少年は可哀想な生い立ちで、親の犯罪に巻き込まれたから凶悪な犯罪に至ったのだと、視聴者や読者が同情しやすいように誘導して報道するんだ。まだ、何もわかっていないというのに」


 サトリが懸念する。


「今回だって、きっとそうなる。有名な弁護士がテレビに出まくって、本質から外れたことを台本通りに喋り倒すんだ。死神問題を見ないフリして、殺害された故人の責任にして事態の収束を図るだろう」


 マイミィが残念がる。


「陰謀論扱いされてるけど、それでも一部のネットメディアでは死神の殺害予告が取り上げられてるし、いつまでも隠し通せるものではないと思うんだよね。どうして頑なに目を背けるんだろう?」


 サトリが答える。


「そもそも〝国民の知る権利〟って、マスコミの裁量に委ねるものじゃないから、期待するのが筋違いなんだ。憲法上の権利に含まれているから、必要に応じて個人が権利を行使しなければいけないものなんだ」


 マイミィは納得していない様子だ。


「でも既存メディアだけズルいと思わない? 勝手に被害者の顔写真をバラまいたり、そうかと思えば加害者の顔や名前を隠したり、一貫性が無くて、恣意的な判断が多すぎるよ。司直の判断にも同じことがいえるけど、最近はおかしなことが多すぎる」


 マイミィが嘆く。


「ワタシなら、もっとちゃんとした報道ができると思うんだ。既存メディアで働いている人が大勢いるのに、どうして誰も自社の報道姿勢に対して疑問の声を上げないんだろう?」


 そこでサトリが思い出す。


「だったら情報番組に出てみるか?」

「え?」


 サトリが説明する。


「明日、ネットTVで情報番組の緊急特番が組まれたらしいんだ。富彦を通じてプロデューサーからマイミィにオファーがあったんだ。話せる雰囲気じゃなかったから言い出せなかったけど、どうする?」


 マイミィが喜怒交じりに返事する。


「言い出せなかったって、忘れただけでしょう? 受けるよ、受けるに決まってるでしょ」


     ※


 マイミィが自宅に到着したところで、改めてサトリにお礼を言う。


「今日は送ってくれて、ありがとう」

「明日も迎えにくるよ」


 情報番組のスタジオ入りに付き添う予定だった。


「なんか芸能人のマネージャーになった気分だよ」

「そう? ワタシは恋人気分だけど」


 サトリは恋愛に慣れていないので適当な返しすらできないのだった。

 照れ隠しする姿にマイミィがときめく。


「でも、どうして急に送ってくれたの?」

「尾けられてるって言うから」

「心配してくれたんだ」

「確かなのか?」

「わからない」

「ハッキリと見たわけじゃないんだな?」

「うん」

「それでも用心に越したことはない」


 その言葉に喜びを感じるマイミィだった。


「嘘つきだって思わないんだね」

「思わないよ」

「大袈裟だって言われるんじゃないかと思ったんだ」

「大袈裟なもんか」


 サトリが本音で向き合う。


「自分の身を守るためにしっかりと警戒していて安心した。事件に巻き込んだ仲間を守ると言っても、本人に身を守る意識がなかったら守りようがないからさ。マイミィが自分を大切にしている人で本当に良かった」


 マイミィが素直な感想を口にする。


「うれしい。昔から『他人に興味がない』とか、『自分のことばっかり』とか言われてきて、人間性を褒められることなんて一度もなかったんだ。でも、見方を変えて評価してくれる人がいたんだね。本当に出会えて良かった」


 恋愛に慣れていないサトリが、ここでも照れる。

 その姿を見て、マイミィも急に恥ずかしくなるのだった。

 彼女もまた、恋愛に慣れていなかった。


「じゃあ、家の人が心配するから」

「うん。また明日」


 こうしてぎこちなさを残して別れるのだった。

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