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引き続き、シアタールームでは人間と死神の対話が行われていた。
「しかし今回の事件の死神は犯行を止めてしまいました。想像したよりも騒ぎが大きくなってしまったので身を引いて隠れたのでしょうか?」
ヨミの疑問にサトリが答える。
「それは狙い通りだ。イジメ事件の加害者をターゲットに定めていると推測できたから、獲物の数を水増しして、残り五人のところを六人として伝えたんだ、抑止力になればと思って。動画を観た犯人は焦ったと思う。調べ上げた情報と違うぞと」
詳しく説明する。
「死神の能力でスマホを盗んで情報を得るのは簡単だ。チャットメールを見て何があったのか把握できたはずだから。でも神さまと違って万物を見渡せる目なんて持っていないんだから、調査には限界がある。ヨミちゃんだって過去の事件を調べるのは難しいはずだよ」
頷く死神少女に解説する。
「束の間の時間稼ぎにすぎないけど、これで死神がイジメ事件の当事者でもなければ関係者でもないことが判った。生活圏は一緒だから希美ちゃんが自殺したことは知ってるんだ。でも、それだけ。俺たちと一緒で一から調べ上げたんだよ」
サトリは安心できない様子だ。
「だけど今後のことを考えると、正直、何をしてくるのか分からない。手当たり次第に関係者を殺し始めたら、俺もキラを捕まえるために嘘をついて煽ったLと同じ立場に立たされる。特に俺は殺される可能性が高くなったっていえるだろう」
今後の方針を伝える。
「数字の水増しを知ってるのは天使とヨミちゃんと情報提供者だけだ。犯人の動きはないし、情報も漏れてないから、春名典子は誰にも喋ってない。彼女が死神の可能性も排除できないけど、次の動画で数字を訂正しようと思う。Lが利用した死刑囚と違って、彼女は俺の友達だからね」
ヨミが心配する。
「サトリくんも大変ですね」
「何が?」
「三角関係」
「そんなんじゃないから」
「クラスの女の子が話してました」
「なんて?」
思い出しながら話す。
「どっちと付き合うんだろうとか、二股はひどいとか、キープは普通とか、恋愛に興味があったんだとか、マイミィを応援するとか、天使を傷つけたら許さないとか、でもみんな共通して、二人同時はサイテーって言ってました」
これでもマイルドに伝えるヨミであった。
「俺、かわいそすぎるだろ」
落ち込むサトリに気持ちを確かめる。
「どちらとお付き合いするんですか?」
「だから、そんなんじゃないんだって」
「相手の好意を無視できますか?」
「好意? 恋愛として?」
「はい」
「どうなんだろう?」
サトリが思い出話をする。
「中三の時、俺のことが好きな女の子がいたんだ。わざわざ俺の耳に聞こえる距離まで近づいてきて、その子と一緒にいる友達が言うんだ。『好きなんだよね』とか、『告りなよ』とか、俺が見ている前で背中を押すんだよ」
勉強漬けだったサトリにとっての数少ない青春の一ページ。
「結局、髪を短くしたら相手が冷めちゃったみたいで、告白どころか、『もう好きじゃない』って聞こえるように言われた。その時に、女の恋愛感情は一瞬で消え去るって理解したんだ。ほら、女心は秋の空って云うだろう? あれは本当だと思った」
ヨミが疑問に思う。
「それって女だけなのかな?」
「え?」
「男は心変わりしないの?」
「いや」
「秋空のようにはならない?」
サトリが気づきを得る。
「人によるとしか言いようがない。性別は関係ないように思う。語呂のいい言い回しって、内容を精査せずに思い込んじゃうのかもしれない。これは良くないね。だからといってトラウマが払しょくされたわけじゃないけど」
それから今後の予定について話し合って、二人は別れたのだった。
※
休日前の放課後、仮想探偵事務所ではD4の三人と二人のインフルエンサーが集まって三回目の疑似捜査会議を行っていた。仁太は遅れて参加する予定だ。
席はいつもの通りだが、サトリが持ち込んだアームチェアはすっかりレンのものになっていた。
「こうなることは予想できたけど、明誠中の学校掲示板に書かれていたのがポイントだ」
サトリが進行を務めて、モニターを見ながら説明する。
「天使の後輩から送られてきた画像だけど、『デスボードに名前を書かれた者は死ぬ』とあり、その下に『ギンおじちゃん』って書かれてある」
解析する。
「死神の警告文と同じような文面だけど、フォントやサイズが違うので俺たちが追っている犯人とは別の人物の手によって作成されたのだと思う。他に伝える情報はある?」
アイコンタクトを受けて、天使が説明を加える。
「画像を提供してくれたのは明誠中学に通っている三年の女の子。見つけたのは今日の朝。朝練で学校に行ったら発見したそうです。正義感の強い子で、すぐに先生を呼んだから騒ぎになりませんでした」
顛末を語る。
「それでも教員の中に『銀田先生』という名の学年主任がいらしたので、三年のクラスだけホームルームが開かれて、説教をされながら犯人捜しが行われたそうです。それでも名乗り出る者や個別に呼び出された生徒はいなかったという話ですが」
サトリが質問する。
「その『ギンおじちゃん』って先生の渾名なの?」
「いいえ。『マメギン』と呼ばれているそうです」
富彦が雑感を口にする。
「『ギンおじちゃん』って呼んでる生徒グループがあってもおかしくないけど、殺したい相手を愛称で書くのは違和感がある。生徒のイタズラに見せ掛けた先生が犯人である可能性も捨てきれないね」
マイミィが会話に参加する。
「最初の動画がすでに五十万以上も回ってるし、全国の学校で似たようなイタズラが行われてるかもしれない。コメントも来るもん。『デスボードに名前を書かれた先生がいるけど、まだ生きてます』って」
レンが冷たい目を向ける。
「拡散した責任は感じているのか? 子供のイジメを助長させたかもしれないんだぞ?」
これには天使が反論する。
「私たちはイタズラを止めるように注意喚起しています。ショッキングな映像を拡散したのは私たちではありません」
レンは持論を曲げるつもりはないようだ。
「オレは何度も『関わるな』と言っている」
サトリが仲裁に入る。
「俺たちは巻き込まれたんだ。何も起こっていないのは台風の目の中にいるだけであって、台風そのものが去ったわけじゃない。事件の中心は、ここなんだ」
そこへ仁太が女の子を連れてやって来た。
「わりぃ、遅くなったな。彼女を迎えに行ってたんだ」
制服は来ていないが、中学に上がったばかりの女の子。早熟でヤンチャなタイプでもある。すでに化粧も覚えているが、この日はノーメイクで元気もなかった。
「明誠の中等部に通っているが、紹介できるのはそれだけだ。ここに来たことも内緒にすると約束してくれ。名前も秘密だ」
空気を呼んだ天使が席を離れ、パイプ椅子を壁際に並べて座り直した。マイミィも同じようにして席を譲った。
応接用のソファに並んで座る仁太と女の子に対して、正面に座るサトリが尋ねる。
「説明が先だ」
サトリに促されて仁太が事情を話す。
「今週、明中に行って取材をしたんだが、彼女とはその時に会った。その場では大した会話もしなかったんだが、連絡先だけは交換しておいたんだ。結論から言うと、デスボードに名前を書いたのが彼女だ。後は自分の口で説明するんだ」
便乗犯の少女が恐る恐る口を開く。
「……動画を観て、怖くなって。アタシのことも知ってるんだと思って、それで調べに来たんだと思って、怖くなって。でも、アタシじゃないし、もう、とっくに別れたから。だけど、アタシだと思われてると思って。それで知ってる名前を書いた。そいつが全部悪い」
仁太が要約する。
「天使動画の中で、一年前の自殺に関わった加害者が六人いると話しただろう? 彼女は名前が判っているその中の一人ではないが、自分の名前も知られてるって勝手に勘違いしたんだ。そこで自分は無関係であることを伝えるために、本当の関係者でもある『ギンおじちゃん』の名前をデスボードに書いたというわけだ」
サトリにとっては嘘から出た実。しかしそれを知っているのは天使とヨミだけ。そこで慎重に会話を進めるのだった。
「そのギンおじちゃんというのは誰のこと?」
少女が首を振る。
「名前しか知らない」
「名前は誰から?」
「別れたカレシ」
「おじさんが小学生の自殺に関わってるの?」
そこで仁太が口を挟む。
「先に話を聞いたが、これはムナクソが悪くなる話だ──」
まとめると以下の通りである。
JCモデルや子役を集めていた芸能プロと、若者たちを支援する目的で設立された公益社団法人が裏で繋がっていて、子供たちに薬物を与えたり、児童買春させていたり、挙句の果てには人身売買と、少女はそういった〝ウワサ〟を耳にしたという話だった。
明誠中の男女四人は黒幕であるギンおじちゃんの仲介役をしており、少女の元カレがその中の一人だったため、そこから事情を知ったわけだ。
英弘中の女三人とも悪仲間で、希美ちゃんが気に入らないという理由だけで、悪い大人に引き合わせたという話だった。
少女は芸能界で活躍する夢を見ていたが、当時のカレシが希美ちゃんの自殺を笑いながら自慢げに話しているのを見て怖くなり、高校生のカレシを作って別れることに成功したのだった。
「──そういう噂を聞いた、という話だ」
富彦がネットの記事を見ながら雑感を言う。
「その公益社団法人の代表だけど、令和の駆け込み寺という触れ込みで大手メディアがこぞって持ち上げてるよ。現代のジャンバルジャンだって。刑期を終えたから悪く言っちゃいけないんだけど、その噂が本当なら、補助金を出した都や持ち上げたメディアは何してんだろうって思うよ」
ゴシップ好きの仁太が不思議がる。
「公金に反社が群がってるのに、なんで大人は無関心なんだろうな?」
ゴシップに興味がないサトリが話を戻す。
「次の動画で、一年前の自殺に関わった関係者を六人から五人に訂正する。ここから先は警察の仕事だ。彼女が告発した事実も伏せておこう。俺たちも聞かなかったことにする。流石に中学生を巻き込むわけにはいかないよ」
仁太の空笑い。
「黒の組織から逃げるのか、って言いたいところだが、公金反社は公権力と繋がってるっていう証だもんな。ここら辺が、おれたちの限界だ」
富彦も同意する。
「噂話に振り回されるわけにもいかないしね」
レンが言う。
「オレは最初から『関わるな』と言った」
天使が少女に約束する。
「動画では、あなたのことを喋りません」
マイミィがサトリに問う。
「これでいいの?」
サトリが答える。
「探偵Lだって何年も掛かったんだ。俺にも時間をくれ」
こうして次の予定を立てぬまま、疑似捜査会議は散会した。




