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仁太とマイミィに会いに行くため、サトリは次の待ち合わせ場所である学校へと向かった。この日は中等部の体育館で緊急の保護者会が開かれているという話だが、それとは別件だった。
部室へ行くと仁太の姿はなく、入り口の前でギャル露出の多い女が一人で待ちぼうけを食らっていた。それがマイミィだった。
「うぅ、サトリくん」
「仁太は?」
「忙しいから後は頼んだって」
とりあえず合鍵を使って中に入り、応接用のソファに座って話をすることにした。
「ねぇ、ひどいと思わない?──」
D4がデスノート好きということを意識してか、この日の彼女は弥海砂のようなファッションをしていた。
ただしゴスロリ系のミサミサとは違って、アウターの下がキャミソールで、下はデニムのショートパンツだったので、マイミィの場合は美白系のカジュアルなギャルを真似ているようにしか見えなかった。
愚痴を聞かされているサトリだが、露出した太ももと胸の谷間にできた線を意識しないように努めていたため、あまり集中できず、迷惑に感じていた。
「──ね、ひどいでしょ」
「そうだな」
そこでスマホを取り出し、仁太に電話した。
「部室にいる」
相手が電話に出たので、スピーカーに切り替えて、スマホをテーブルに置いた。
「監修は頼んだけど、動画を乗っとれとは頼んでないぞ?」
「おれは面白くしたいだけだ」
それが仁太の言い訳だった。
「実験なんてしなくていいんだよ」
「これは検証だ」
「デスボードに誰の名前を書くつもりだったんだ?」
「もちろん架空の名前さ」
「何の意味がある」
「犯人のリアクションを待つんだよ」
「煽るなと話し合ったはずだ」
「わかってるよ」
「わかってない」
「だから企画をボツにしたんだ」
「叩かれるのはマイミィだからな?」
「それくらいの覚悟はあるだろ」
「ふざけたら死神に狙われる可能性もある」
「大丈夫だよ」
そこでマイミィがツッコむ。
「大丈夫じゃない」
「なんだよ、いたのか」
サトリが説明する。
「スピーカーだ」
「設定したなら、言えよ」
「それは、ごめん」
電話なのに軽く頭を下げてしまうところが日本人らしかった。
「天使動画もそうだけど、マイミィ動画の方も俺が監修を引き継ぐよ」
「何があった?」
仁太が嬉しそうに尋ねた。
「今回の件で解ったのは、俺にはリーダーの能力が足りていないということだ。仕事があって、役割を与える。それを単純に割り振っただけで、資質に合わせられなかった」
サトリの心からの反省だ。
「レンには最終的に大事な判断をする時に相談するのが適役で、仁太には自由を与えるのが最適だ。勝手に情報を集めてきてくれるからな」
自己分析する。
「監修みたいな調整役は俺が適任だった」
「おれも、それが言いたかったんだ」
「嘘つけ」
「ハハハッ!」
サトリが気になる質問をする。
「で、約束をすっぽかして、何してんだ?」
「それは後で説明する」
「危ないことはするなよ」
「わかってる」
「何を調べてるかだけ言え」
「後でな」
そこでプツッと電子音が鳴り、会話が終了した。
「勝手に切りやがった」
「ほんと?」
「何が?」
マイミィが目を輝かせている。
「サトリくんが動画の監修をしてくれるって」
「始めからそうしておけば良かった」
そこで彼女は急に不安そうな顔をするのだった。
「どうした?」
「また同じ結果になったらどうしよう」
「どういうこと?」
マイミィが振り返る。
「今回もそうだけど、話をして仲良くはなるんだけど、譲れないものがあって、だから会話がギクシャクして、でもワタシは折れないから、結局は一人ぼっちになっちゃうんだよね。サトリくんのようにD4のような仲間を作れないの」
サトリには、なぜか輝かしく見えた。
マイミィが本音をぶつまける。
「ちっちゃい頃から変わらない。社交的な性格だから誰とでも話せるんだけど、ハッキリ注意するし、言いたいことは我慢しないから、みんないなくなっちゃう。無視されるわけじゃないけど、面倒だと思われるのかな」
サトリには、羨ましいとさえ思った。
「だからサトリくんもきっと離れて行っちゃう。しばらくは仲良く話せる状態が続くんだけど、ワタシがハッキリと意見した途端、適当な理由を見つけて、いなくなっちゃう」
そう、ハッキリ言う彼女が、サトリには素晴らしいと思えた。
「すごいね、怖いもの知らずだ」
「なんで? ワタシは怖がりだよ」
「俺より強い」
「そんなの嬉しい褒め言葉じゃない」
サトリは、そういうところがアホだった。
「俺はそこまでハッキリ言えない」
「でも仲間がいる」
「だいぶ俺が気を遣ってるからな」
「気が置けない間柄ではない?」
「その言葉の正しい意味って何だろう?」
「あれって個人の価値観によると思う」
今さらながら友達とは何かと考えるサトリだった。
マイミィが羨ましそうに呟く。
「でも友達は多いよね」
「多くないよ」
「いつも女の子たちと話してる」
「学校以外で会ったことはない」
「マイミィと一緒じゃん」
悲しそうに振り返る。
「ウチの学校は勉強が大変だから仕方ないと思ってたけど、でもみんなでどっか行った話をしてるの。あれ? ワタシだけ誘われてないなって」
サトリが理解を示す。
「そうそう、自分から誘えばいいだけの話なんだけど、そこまでには至らない。頭の中で、家の自分と学校の自分は別人格だと考える瞬間がある。それが人間関係においてブレーキを踏んでしまう原因じゃないかと思うんだ」
女が言う。
「それはわからないけど、サトリくんに友達がいないことはわかったよ」
安易に同調しないマイミィであった。
男が言う。
「友達は友達だ。でも友達とは何かって考えたら解らなくなるっていう、難しい哲学的な話なんだよ」
女が尋ねる。
「友達はいる?」
「……」
「ほら、即答できなかった」
「色々と考えたから」
マイミィが提案する。
「友達探しを手伝ってあげようか?」
「なにそれ?」
「マイミィのボーイフレンドになってほしい」
フレンドとの違いについて考えるサトリだった。
「代わりにガールフレンドになってあげるから」
「なにするの?」
「一緒に答えを探すんだよ」
「あぁ、哲学ね」
このタイミングで探偵サトリが推理する。
「本当の目的は何だ?」
「え?」
「別の理由があるんだろう?」
「バレた?」
あっさりと自白した。
「疑うのが探偵の性分だからな」
「ボディガードになってほしいの」
警察官僚の息子であることは周知の事実だ。
「配信をしてると危険なこともあるし、別に疑似恋愛で投げ銭してもらうつもりもないし、ボーイフレンドがいるって言っちゃった方が安全だし、楽なんだよ。カレシのフリだと嘘になるけど、ボーイフレンドなら嘘にならないでしょう?」
自供を引き出したサトリは、それだけで満足だった。
「そうだな、犯罪を取り扱う以上、リスクのある危険な配信になるし、警察関係者の友達がいるって言っておいた方がいいのかもしれない」
マイミィ、歓喜。
「ヤター! 生まれて初めてのボーイフレンドだよ」
まだ何か裏がありそうだと勘繰りながらも、面と向かって初めて友達だと言われたことに対して、サトリは心の中で感激するのだった。
「お腹すいてない?」
「うん」
「お弁当を作ってきたから一緒に食べようよ」
「いいの?」
「当たり前でしょ、ボーイフレンドなんだから」
「フレンドと、どう違うの?」
「まずは自分で考えなよ」
マイミィはハッキリ言う。
「わかった」
「せっかくだから哲学の森公園に行こうよ」
「わざわざ?」
「うん。友達記念日なんだから」
意味が解らなかったが、サトリは彼女の提案を受け入れた。
「あれ?」
テーブルに置いてあったスマホを凝視する。
「通話中になってる」
「やっと気づいたか」
仁太の声だった。
「なんで切れてないんだよ」
「電子音を鳴らせば通話が切れたと思い込むじゃないかと思ってな」
「騙したのか?」
「実験は成功だ」
「こんなのに引っ掛かるバカなんかいねぇよ」
「ハハハッ! また会おう、バカな友よ」
そこで完全に通話が終了したが、躊躇なく相手に友だと言える男に対して、サトリは強い憧れと感謝の気持ちを抱くのだった。




