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41話. 芸術と呼ばれた悪夢──そして操られた忠誠

仮設治療院にて、癒しと称した(?)極秘作戦スタート!狭いベッドに大型犬系騎士、そして焦るあたし。

本当に癒されるのは誰なのか──まあ、たぶん、きっと、レオン様です!

 王都の仮設治療院は、瓦礫の中で奇跡的に残った教会の一角にあった。

 ここでセシリアはひたすら魔獣被害で傷ついた人々を癒し続け、あたしとリンダもその傍らで手伝っていた──けれど今日は、別の目的で奥の病室に身をひそめている。


「……お嬢さん方?ジョンに呼び出されて来たが、いったい何をする気か?」


 半信半疑といった様子で、レオンハルト様が眉をひそめる。

 二メートルをゆうに超えるその体は、治療院の小さなベッドには到底おさまりきらず、明らかにサイズの合っていないマットの端に遠慮がちに腰を下ろしていた。肩幅だけで部屋の空気が狭まる勢い。にもかかわらず、困惑したようにこちらを見つめる表情は、ちょっとだけ大型犬っぽかった。


「えーとですね、レオン様はちょっとお疲れのようですので、このリンダ先生が癒しの魔法でリフレッシュしてくださいます!」


 できるだけ明るく、元気よく、そして自然に。あたしはにっこり笑って言い切った。


 ……内心、めちゃくちゃ焦ってる!


 てっきりジョン様が説明してるもんだと油断してたけど、レオン様のどんぐりまなこが「何をする気か?」って純粋に尋ねてくるもんだから、これ下手に「あなた、マインドコントロールされてます」って本当のこと言ったら怒って帰るヤツじゃん、という結論に至る。なので──ここは適当にごまかす!


「いや、それは……どうも」


 彼はベッドに腰を下ろしつつも、どこか落ち着かない様子で返事をする。

 体はでっかいのに、警戒心は猫みたいだな……なんて思いつつ(上級魔導師を勝手に犬猫扱い)。


「では、リンダ先生、よろしくお願いします!」


 あたしはパッと手を叩いて促す。さあ、癒しという名の解呪、開始だ。


「……ルキア・ノーヴァ・エクス・メンタリス──束縛されし心よ、真実の声へ還れ!」


 リンダが両手を広げると、掌から溢れたまばゆい光がゆっくりとレオン様の身体を包み込んだ。やわらかくも芯のあるその輝きは、空気ごと震わせながら、彼の胸元へと注がれていく。


 最初は「癒し魔法」だと思っていたらしいレオン様は、ぼんやりと光を見つめていたが──


「な、なんだ……何か変だ……何をしてる……!?く、苦しいぞ……どこが癒しだ……やめ……ろ……ううっ!」


 眉をひそめ、顔を歪めながら呻き声を漏らし、頭を押さえるようにして体をよじる。その様子は、内側から何かが剥がれ落ちようとしているかのようだった。


 そして──


 パタン、と音を立てて、レオン様は小さなベッドへ、思い切り倒れ込んだ。


 静かにきらめく光だけが、彼の周囲にふわりと漂っていた。


「こ、これは、彼の記憶……!?」



 *レオンハルト視点


 ──どこまでも重たい、鉛のような暗闇だった。まぶたの裏に浮かぶ光景が、現実とも幻ともつかないまま、脳裏に染み込んでいく。


 あの、地下の石室──

 湿気と血の匂いが混じり合い、空気が腐っていた。鉄格子の向こうには、魔物たちがうごめいている。牙と爪をきしませ、低く唸り声をあげながら、こちらを見つめていた。


「ようこそ……レオンハルトくん」


 その声に、全身が粟立あわだつ。

 現れたのは、闇の執行官──黒衣の男。けれど、その目は尋常ではなかった。細められた瞳の奥で、青白い光がギラついている。笑っているのに、どこにも温度がない。


「やはり……君は素晴らしい素体だ。強靭な精神、優れた魔力、そして……王への忠誠。壊し甲斐がある。ククク……」


 不気味な笑みを浮かべながら、彼は手をかざす。その指先から、黒紫の魔導陣が滲み出し、ゆらゆらと空間に揺らめいた。


 その隣に立つのは、エリザベス嬢──だが、その瞳は澄んでいた。狂ってなどいない。正気だ。ただ、静かに、冷ややかにこちらを見下ろしている。


「執行官様、彼を手懐けるのに、時間がかかりすぎてしまいました。ここからは効率的な手段を」


「はははははッ、焦るなエリザベス。これは芸術なのだよ、芸術。美しく、苦痛に満ちた再構築……!」


 執行官は両腕を広げ、狂気じみた声で笑った。

その瞬間、俺の額に手が当てられ、脳の奥に直接、炎のような圧が走る。


「──ルクス・ノクトゥルナ・マインドエングラム。精神の檻を破り、我が意志で縛る。セリーナ王女を──抹殺せよ」


「……やめ、ろ……そんな命令……!」


 抗う。俺は……俺は王に仕える騎士だ

 こんな歪んだ魔導に、屈してたまるか……!


 ──だが、魔力が絡みつく。視界が赤黒く染まり、床がぐにゃりと歪む。膝が砕け、崩れ落ちる──そのとき。


 見えた。鉄檻の中、うずくまる一人の男。


「……王太子……ハーリー、様……?」


 その名を口にした瞬間、意識が闇に沈んだ。

 そして、耳にこびりついたのは──


「ほう……まだ抗うか。ふふ、ふふふふ……ッ!やはり、お前は素晴らしい。だがな──砕けるまでが芸術なのだよォ!」


 けたたましい哄笑こうしょうが、意識の底で、永遠に響き渡った。



【あとがき:大型犬系騎士の受難】

レオン様には大変申し訳ないことをしました。

癒しって言ったじゃん!とか思ってるかもしれませんが、むしろあれは魂の奥まで浄化された〝ハードモード癒し〟だったのです。

うっかりマインドコントロールされてた上に、脳内で謎の狂人に芸術作品扱いされてたなんて、そりゃもう激おこです。

でもレオン様……よくがんばったね。

まずはゆっくりお水でも飲んで、ついでに現実にもどってきてね。

──次回、「目覚めたレオン様、たぶんちょっと泣く」お楽しみに!

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