40話. しめやかな式とコソコソ作戦、どちらも全力です──忍者レベルで動く乙女たち
厳かな空気?いいえ、その裏では何やらコソコソと……。今回は、静かなる式典×スニーキング任務でお送りします!
髪色チェンジに謎の忍者ムーブ、誰が味方で誰が敵なのか──緊張感(とちょっと笑い)多めでお届けします!
王宮の礼拝堂は、静謐な空気に包まれていた。
荘厳な天井画と高い窓から差し込む光が、白い花々で彩られた祭壇を照らし、中央にはエマール公爵の棺が安置されている。
列席者の数は、想像をはるかに上回っていた。王宮関係者はもちろん、国王陛下ご自身もその場に姿を見せている。
各地から集まった名のある貴族たちが厳かな面持ちで席につき、最前列には公爵家の親族が控えていた。
ジョン様は正装で静かに目を閉じ、エリザベス嬢は凛とした横顔のまま祈りを捧げている。
セシリアは緊張した表情を崩さず、レオンハルト様は一礼しながらも、視線を棺から外そうとはしなかった。
その少し後方には、学園関係者の姿もあった。
アレク先生やヒス女史をはじめとする教師陣に交じって、中級クラスの生徒たち、そしてあたしとリンダも最後列に並び、静かに手を合わせた。
神官の祈りの声が高く響き、棺の上に純白の花弁が落ちていく。
全員がその瞬間、まるで世界の時が止まったように動きを止め、ただ静かに、その人の生涯に祈りを捧げていた。
あたしは、セシリアの隣に並ぶエリザベス嬢の横顔をそっと見つめながら、あの日の記憶を反芻していた。
──この葬儀の裏で、何かが動いたのか。何が仕組まれていたのか。
そして、ふと思い出す。
リンダとセシリアが立てた、あの綱渡りみたいな作戦を……。
まず、学園内で密かにマインドコントロールを受けている人たちがいる。
それを解呪するには、リンダの力が必要。けど、気付かれたら即アウトだ。
だから、その隙を作るためにセシリアは、あえて髪をピンクに染めた。
目立つどころか、〝まだマインドコントロールにかかったまま〟だと敵に思わせるため。
そう、これは「欺き」。あえて従順なふりをして、敵の目をすり抜ける作戦だ
……正直、あの黒髪のほうが断然かっこよかったけど、セシリアは迷いもせず染めてた。
ほんとに、変わったな。あの人。
一方のリンダはというと、あいかわらず鈍感ヒーラーを使って誰が操られているのか、ひとりひとり観察してる。
リンダなりのやり方で、目立たず、でも確実に、魔力の歪みに目を凝らしてる。
あたしの役目は……そう、ジョン様にこれを伝えること。
けど、いまは式の最中。さすがに、ひそひそ話ってわけにもいかない。
……それにしても、ジョン様の後ろ姿、いつもよりずっと緊張してる気がする。
あの人はもう、この裏の気配に気づいてるのかもしれない。
なら、こっちから仕掛けるタイミングは──今、この式が終わった後。
そんなことを考えてると、隣のリンダが小さく肩を揺らして、こっちを見た。
あたしと目が合うと、にこっと笑って、すぐ前を向く。
……うん、わかってる。
この葬儀は、哀悼と──同時に、反撃の狼煙だ。
式が終わったあと、参列者たちは静かに列をなして王宮を後にしはじめた。
けれど、あたしはまだその場を離れられずにいた。なぜなら──
「……今しかない、よね」
リンダが隣で小声でつぶやく。
「うん。行こう」
あたしはぐっと拳を握って、周囲を見回した。
貴族たちの目があちらこちらに向いているなか、こっそりと……文字通り忍者のように、目標の人物に接近する。
ジョン様は、礼服の襟を整えながら控えの間に向かう途中だった。周囲に人がいない今がチャンス。
「……ジョン様、ちょっといいですか?」
声をかけると、彼は少しだけ目を見開いて立ち止まった。
「アリアナ……?」
「お願いです。大事なお話があります!」
「……ここではまずい。学園に行かないか?」
*
ジョン様とは時間をずらして合流。人気のない上級クラスで、こっそり集まったあたしたちは──
扉を閉め、周囲に誰もいないことを確認してから、作戦会議は静かに始まった。
「実は……マインドコントロールの解呪が、できるかもしれないんです」
「──なに?」
ジョン様の眉がわずかに動き、驚きが表情ににじむ。
あたしたちは、セシリアがエリザベス嬢に操られていたこと、そしてそこに至るまでの経緯を簡潔に伝えた。
さらに、レオンハルト様、ガレス、ソフィアもまたマインドコントロールの影響を受けていることを報告する。ただ、不思議なことに──アレク先生やヒス女史、中級クラスのリック、それに初級クラスの生徒たちは、なぜか影響を受けていないようだった。
「リンダが〝感知〟できるんです。誰が操られているのか。そして、回復魔導でそれを剥がすことも──セシリア様は、すでに解呪済みです。だから、きっと可能性はあると」
「セシリアがコントロールされていた!?しかも解呪だと?それは本当か……!?」
信じられないといった顔で、ジョン様はリンダに視線を向けた。
リンダは少しおずおずと頷いた。
「私……感じるんです。変な〝もや〟が、頭の奥にある人が何人かいて……うまく言えないけど、普通の魔力の流れじゃないんです」
「それが確かなら……これは極めて重大な情報だ。戦いにも有利になる。だが、慎重に進めねばならない」
ジョン様は唇を引き結び、真剣な面持ちで言った。
「まずは一人──レオンハルトを試そう。彼が正気を取り戻せば、戦力としても心強いし、何より執行官の支配が完全ではないと証明できる」
「はい!というわけで、地味~に、目立たず~に、こっそりやりますんで。ジョン様も気配消しつつフォローお願いします!」
「……了解した。気づかれないよう、最善を尽くそう。僕はこのあと魔物討伐の遠征が入っていたが、イヴォンヌ先生に代役を頼んでおく」
小声でのやり取りを終えると、私たちは何事もなかったかのように、それぞれの方向へふわっと散った。
たぶん、この日のコソコソ具合、人生で一番だと思う。
けれど、ここからが始まり。
この一手が、きっと突破口になる──そう、信じてる。
静寂の葬儀、そして始まる密談と地味な反撃。目立たないことが最重要。なぜなら今回は「気づかれたら負け」だから!
セリーナ王女(物理)再来で、まさかのヒロイン格上げ!?でもご安心を、まだ中身はいつものアリアナです。たぶん。




