第7話 注目株
レイは朝、ギルドから届いた封筒を見て少し首をかしげた。
「……指名依頼?」
最近、似たような依頼は増えていた。
だが、今回は少し違う。
封筒には、街外れの倉庫区画で起きている小さな異変を調べてほしい、とある。
内容は地味だが、妙に丁寧な文面だった。
「まあ、行ってみるか」
現実では、まだ“配信者”なんて肩書きはない。
レイはただの冒険者だ。
それでも、仕事が回ってくるようになったのは悪くない。
倉庫区画に着くと、依頼主の商人が青い顔で迎えてきた。
「助かった……! 実は、荷物の配置が何度も崩れるんだ。誰かが触っているのか、何かが潜んでいるのか……」
「壊されてるわけじゃないんですか」
「完全に壊れてはいない。だが、このままじゃ出荷に間に合わない」
レイは倉庫を見回した。
木箱。
通路。
積み上がった荷物。
そして、奥のほうでかすかに揺れる影。
「……魔物、か」
商人は慌てて首を振った。
「いや、そんな大きなものじゃないはずなんだ。ちょっとした小型の奴らで……」
その時、視界の端にコメントが流れた。
『ここ、当たり回だな』
『倉庫トラブル回』
『レイ向きの仕事』
『失敗すると全部崩れるやつ』
レイは思わず眉をひそめた。
「……また変なこと言ってるな」
とはいえ、こういう仕事は嫌いじゃない。
戦闘そのものより、状況を立て直すほうが性に合っている気がする。
「録画開始」
【録画中】
【残り時間:30分】
倉庫の中へ入る。
薄暗く、木の匂いが強い。
足音が反響するたび、どこかで小さな音が返ってくる。
――カサ。
「いたか」
レイが一歩踏み出した瞬間、木箱の陰から小型の魔物が飛び出した。
一体。
二体。
三体。
「っ……!」
魔物自体は大したことはない。
だが、厄介なのは倉庫の狭さだった。
木箱を倒せば、依頼品まで壊しかねない。
レイはまず一体を棒でいなし、次の一体の突進を受け流した。
だが、三体目が思ったより速い。
「まずい……」
避けた拍子に、足元の木箱がぐらりと傾いた。
「っ、やばい!」
今のままでは、魔物を倒しても荷物が崩れる。
それは依頼失敗と同じだ。
レイは迷わず叫んだ。
「録画再生!」
【再生を開始します】
世界が戻る。
数秒前。
木箱はまだ傾いていない。
魔物たちは、最初の位置にいる。
「……よし」
レイは今度、先に木箱の位置を見た。
通路を塞ぐ荷を少しだけずらし、魔物を追い込める空間を作る。
戦う前に、場を整える。
『おっ、先に環境作るのか』
『それ大事』
『戦闘より整理が本体』
『地味に賢い』
「地味で悪かったな」
レイは小さくぼやきつつ、魔物を通路へ誘導した。
狭い場所では、数が意味を持たない。
一体ずつしか来られないなら、こちらのものだ。
一体目を倒す。
二体目を押し返す。
三体目が飛びかかってくるが、木箱の陰に引っ掛けて勢いを殺す。
「今だ!」
最後の一撃で、魔物は倒れた。
倉庫は、ほとんど無傷だった。
「……よし」
レイは息を吐いた。
依頼主の商人は、心底ほっとした顔で礼を言った。
「助かったよ。本当に。これで出荷できる」
「それならよかったです」
「君、普通の冒険者じゃないな。動きに無駄がない。」
レイは少しだけ苦笑した。
普通の冒険者ではない。
でも、その違いを言葉にするのは難しい。
視界の端では、相変わらずコメントが盛り上がっていた。
『完成度高い』
『失敗からの修正が気持ちいい』
『見てて飽きない』
『注目株だわ』
その文字に、レイは少しだけ目を細めた。
現実では、ただの依頼を終えただけ。
だが、向こう側では、こういう積み重ねが熱狂になっているらしい。
“派手な勝利”ではない。
“崩れた場を立て直す”その過程が、見ている側にはたまらないのだ。
レイは倉庫を出ると、空を見上げた。
追放された頃の自分なら、こんな地味な依頼を引き受けるだけでも精一杯だった。
今は違う。
少しずつだが、自分のやり方で仕事が回り始めている。
そして、その変化は向こう側でも確かに伝わっていた。
『次、もっと大きいの来るぞ』
『レイ、完全に注目され始めた』
『そろそろギルドが黙ってない』
『配信向きの動き、分かってきたな』
レイはコメントを見ながら、小さく笑った。
配信者。
現実ではまだ違う。
でも、向こう側では、もうそう呼ばれ始めているのかもしれない。
「……変な感じだな」
そう呟いて、レイは次の依頼書を受け取りにギルドへ向かった。




