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追放された録画士、配信で無双する 12話完結  作者: もかどら


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4/12

第4話 再生数の匂い

翌朝、レイが目を覚ますと、視界の端の表示は満タンに戻っていた。


【録画可能時間:30分】


「……やっぱり、朝になれば戻るんだな」

その確認だけで、少し気が楽になる。

昨日のように使い切っても、翌日また挑める。

この力は、無限ではないが、思っていたよりずっと扱いやすかった。

ただし、強くなるには条件がある。

安全な場所では意味がない。

失敗して、死んで、戻って、覚える。

その積み重ねでしか、前には進めない。

「今日は、少し派手にいくか」

レイはそう呟いて、街の広場へ向かった。

---

広場には、冒険者や商人、荷運びの人間たちが行き交っている。

そこにはひときわ目立つ掲示板があり、依頼書が何枚も貼られていた。

その前で、レイは足を止める。

昨日までなら、絶対に選ばなかった依頼がある。

「……魔物の巣の調査、か」

危険度は高い。

だが、報酬もそれなりにいい。

何より、“見せ場”がある。

視界の端では、コメントがざわついていた。

『お、今日は強気』

『そこ行くのか』

『バズりそうな依頼だな』

『でも死ぬなよ』

「バズるって何だよ……」

レイは小さく苦笑した。

とはいえ、彼にもわかる。

地味な薬草採取だけでは、視聴者は増えにくい。

昨日のように、少し危ない場所で試行錯誤するほうが、見ている側には面白いのだ。

「録画開始」


【録画中】

【残り時間:29分58秒】


街道を外れて少し進むと、森の空気が濃くなる。

木々の間に、ぬかるみが増え、風が重くなっていく。

やがて、黒い穴のようなものが見えた。

魔物の巣だ。

「……本当にあるんだな」

レイは一度だけ深呼吸した。

中へ入ると、臭いがきつい。

湿った土と、獣の臭気が混ざっている。

足音を立てないように慎重に進むと、すぐに物音がした。

「来たか……」

小型の魔物が二体。

昨日の坑道よりは弱い。

だが、巣の中では数が問題になる。

「一回見よう」

わざと枝を鳴らすと、魔物が振り向いた。

一体目が飛びかかる。

二体目が回り込む。

「っ……」

レイは一体目を棒で押し返すが、二体目に足を払われて転ぶ。

そのまま爪が肩を裂く。

痛い。

浅いが、十分だ。

「録画再生」


【再生を開始します】


世界が戻る。

今の動きで分かったことが一つある。

この魔物たちは、真正面から来る相手には強いが、横の連携はそこまで上手くない。

「……なら、狭い場所に誘うか」

今度は、魔物のいる広間に入る前に、あえて通路で待つ。

一体ずつしか来られない位置まで下がったところで、石を投げる。

一体目が来る。

棒で受ける。

二体目は、すぐ後ろで詰まっている。

「今だ」

レイは一体目を崩し、そのまま後続の魔物の足元へ滑り込んだ。

連携の強さを、位置取りで潰す。

「よし……!」

一体ずつ処理すれば、怖くない。

怖くないなら、死なない。

死なないなら、録画時間を無駄にしない。

視界の端に表示が出る。


【初見位置情報を記録しました】


「位置情報……?」

どうやら、失敗と再生を繰り返すほど、地形の把握が細かくなるらしい。

ただの巻き戻しではなく、少しずつ“覚えていく”感覚がある。

レイはその事実に小さく息を吐いた。

便利だ。

だが、だからこそ慎重でなければならない。

---

巣の奥へ進むと、空気が一変した。

「……いるな」

黒ずんだ毛皮。

目だけが妙に光る、ひと回り大きな魔物。

ここで巣を作っている個体だろう。

「さっきまでのとは違う」

レイは棒を握り直した。

視界の端には、コメントがいつもより多く流れている。

『ボスっぽい』

『ここが見せ場か』

『一回死んで覚えるのかな』

『でも録画時間まだあるぞ』

「……見せ場、ね」

言い方は妙だが、間違ってはいない。

ここを抜ければ、依頼は終わる。

そして、少しは“配信”として映えるだろう。

「録画開始」


【録画中】

【残り時間:17分41秒】


魔物が踏み込んでくる。

速い。

重い。

レイは横へ逃げるが、相手はすぐに方向を変えた。

体がでかいのに、動きは鋭い。

「くっ……!」

振り下ろされた爪が、地面を抉る。

その風圧で足が止まり、次の踏み込みを食らう。

「っ、やば……」

胸元に激痛が走った。

息が詰まる。

視界が揺れる。

「録画再生!」


【再生を開始します】


戻る。

今度は、まだ最初の踏み込みの前だ。

「……なるほど、最初の一歩が速いのか」

見えた。

一度死にかけると、相手の“癖”が鮮明になる。

レイは今度、真正面から逃げずに、斜め後ろへ下がった。

すると、魔物の爪が空を切る。

その一瞬で、レイは足元へ回り込む。

「今だ!」

棒を肩へ打ち込む。

だが、浅い。

魔物が振り返り、体当たりのようにぶつかってきた。

「うぐっ……!」

吹き飛ばされ、背中を壁に打つ。

痛みが全身に広がる。

「再生……!」


【再生を開始します】


戻る。

今度は、壁際に追い込まれる前だ。

「……だいぶ分かってきたぞ」

レイは息を整えた。

さっきまでの失敗は、無駄ではない。

魔物の攻撃は力任せに見えて、踏み込みの角度に癖がある。

その癖さえ見えれば、対処できる。

今度は相手が飛び込んだ瞬間、わずかに身体をずらす。

魔物の前足が地面を踏み外した。

体勢が崩れる。

「そこだ!」

レイは一気に踏み込み、首筋へ棒を打ち込んだ。

一度。

二度。

三度。

魔物が崩れる。

大きな体が、地面に沈んだ。

「……はぁっ」

勝った。

それだけで、息が震えるほど疲れている。

だが視界の端に流れた表示は、思ったよりも明るかった。


【討伐成功】

【視聴者数が増加しました】

【コメント活性化中】


『今の良かった』

『ちゃんと攻略してる』

『派手じゃないけど、見応えある』

『この主人公、地味に強い』

「地味に、は余計だろ……」

レイは苦笑した。

とはいえ、少しだけうれしい。

派手な一撃で勝つタイプではないが、工夫して勝つのも悪くない。


---


巣を出ると、空はもう夕方だった。

「……今日はここまでか」

録画可能時間はまだ少し残っている。

だが、無理に使っても得るものは少ない。

今日は“倒せた”ことが重要だった。

その帰り道、レイは森の入口で立ち止まった。

人がいる。

見覚えのある装備。

勇者パーティーの紋章。

「レイ・アルド」

低い声で、男が呼んだ。

昨日と同じ、伝令役だ。

だが、今日は一人ではない。

少し後ろに、武装した護衛らしき男が二人いる。

「ガルド様が、お前を呼んでいる」

またか、、レイは足を止めた。

「戻る気はあるか、と聞かれている」

「ない」

迷いはなかった。

伝令役の男は、少しだけ目を細める。

「……お前、そんなに簡単に切り捨てられる立場だと思っていないのか」

「切り捨てたのは、そっちだろ」

レイがそう返すと、空気が少し張り詰めた。

護衛の一人が、わずかに手を剣へ伸ばす。

だが、伝令役がそれを止めた。

「いい。今日はそれで十分だ」

男はレイをじっと見たあと、静かに言う。

「ただの記録役が、ここまでやるとはな。……次に会うとき、お前はもう“ただの記録役”では済まないかもしれん」

それだけ言って、彼らは去っていった。

レイはその背中を見送りながら、胸の奥に小さな火が灯るのを感じた。

見返したい。

そんな感情は、まだはっきりと形になっていない。

でも確かに、自分は今、追い出された場所の外で立っている。

「……やっと、始まったな」

夜風が頬をなでる。

コメントは最後まで流れ続けていた。

『次で元パーティーとぶつかるのか?』

『ここから面白くなる』

『配信としてちゃんと成立してる』

『この作品、追うわ』

レイはまだ知らない。

この小さな勝利が、やがて大きな騒ぎの始まりになることを。

ただひとつ分かっていたのは、

明日また録画時間が満タンになれば、さらに先へ進めるということだった。

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