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追放された録画士、配信で無双する 12話完結  作者: もかどら


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2/12

第2話 戻れるなら、試せる

レイが次に目を覚ましたのは、あの古い空き家の床だった。


「……夢じゃ、ない」

喉の奥から漏れた声は、ひどく掠れていた。

腹は空いている。

頭は重い。

それなのに、目を閉じるとさっきまでの感覚が鮮明によみがえる。

牙が迫る音。

胸を裂く痛み。

息が止まる瞬間。

そして――ひっくり返る世界。

「俺、死んだ……」

口にした瞬間、背筋が冷えた。

信じたくなかった。

でも、嘘ではない。

レイは確かに死んで、確かに戻ってきた。

視界の端には、あの半透明の文字がまだ浮いている。


【REPLAY LIVE】

【視聴者数:83】


「増えてる……」

昨夜より、はっきり多い。

しかも、コメントは妙に活発だった。

『起きた!』

『昨日の死に戻りよかった』

『やっぱこの子、面白い』

『次はどう攻略するの?』

レイはしばらく黙って、それを見ていた。

誰かに見られている。

殺されるかもしれない場面を。

自分が死んだ瞬間を。

普通なら気味が悪いはずだった。

なのに、今のレイには、妙な実感があった。

――見られているから、ここで終われない。


「……まずいな」

それは恐怖より、妙な高揚に近かった。


---


朝食代わりに、レイは昨日の残りの硬いパンをかじった。

味はしない。

だが、少しだけ落ち着く。

昨日の戦いを思い返す。

あの魔物に殺された直前、自分は「録画再生」と叫んだ。

すると、少し前に戻った。

つまり、この力は偶然じゃない。

自分の意思で発動できる。

「だったら、試すしかない」

レイは立ち上がった。

今日は森の浅い場所ではなく、少し危険な狩り場に行く。

昨日までなら絶対に選ばなかった場所だ。

だが今は違う。

死んでも戻れる。

なら、危険なだけ得だ。


「録画開始」

【録画中】

【残り時間:30分】


森に入ると、空気が変わった。

木々は密になり、足元には獣道が走っている。

しばらく進むと、低いうなり声が聞こえた。

「……来たか」

草むらから飛び出したのは、昨日より小型だが、動きの速い獣だった。

二体。

いや、三体。

「多いな……!」

一体目を避ける。

二体目が回り込む。

三体目が足元を狙う。

レイは慌てて石を投げるが、ほとんど効果がない。

「くそっ、無理だろこんなの……」

背中に爪がかすめた。

熱い痛み。

息が詰まる。

レイは歯を食いしばる。

「……録画再生」

【再生を開始します】

世界が戻る。

数秒前。

まだ三体の位置が崩れていない地点。

「はぁ……はぁ……」

呼吸が浅い。

手が震える。

だが、今はそれどころじゃない。

死ななくて済んだ。

そして、今の戦い方が悪かったのも分かった。

「一体ずつ、釣る……」

レイは石を拾い、手前の一体にだけ投げた。

反応した獣が前へ出る。

残り二体はまだ距離がある。

――これなら。

今度は逃げる。

木の陰を回り、見えにくい場所へ誘導する。

単純な力比べでは勝てない。

でも、相手が複数なら、位置取りで崩せる。

一体目が木の根に足を取られた。

そこへ棒を振り下ろす。

二体目が飛びかかる。

その瞬間、レイはわざと地面に転がって避けた。

だが、三体目が来る。

「っ……!」

再び爪が迫る。

レイは咄嗟に叫んだ。

「録画再生!」


【再生を開始します】


また戻る。

今度は、もっと早い。

まだ三体が揃う前だった。

「……なるほど」

レイはようやく理解し始めた。

この力は、“失敗した直後”なら何度でもやり直せる。

ただし、何も考えずに使えば、いくらでも死ねる。

だから必要なのは、回数じゃない。

観察だ。

失敗の蓄積だ。

「だったら……試す価値はある」


---


その後、レイは何度も死にかけた。

一度目は背後から噛まれた。

二度目は崖際で足を滑らせた。

三度目は、魔物の突進を読めずに吹き飛ばされた。

そのたびに、レイは巻き戻った。

そして、そのたびに少しずつ分かっていく。

敵の癖。

風の流れ。

足場の悪い場所。

自分の間合い。

そして、死なないために必要な一歩の差。

コメント欄は、最初は興奮し、やがて妙に静かになった。

『これ、学習してる』

『死に戻り前提で強くなってる』

『一回一回の判断が鋭い』

『こいつ、伸びるぞ』

レイはその文字を横目に見ながら、息を整えた。

「……まだだ」

まだ完全には掴めていない。

だが、昨日とは違う。

昨日は、ただ死んで戻っただけ。

今日は、死を材料にしている。


---


昼過ぎ。

レイは森の奥で、ようやく目的の魔物を見つけた。

さっきまでの小型獣より一回り大きい、牙の太い魔物だ。

「よし……」

さっきまでの自分なら逃げた。

だが今は、逃げる理由がない。

試す理由しかない。

「録画開始」


【録画中】

【残り時間:17分12秒】


魔物が踏み込んでくる。

レイは半歩左へずれ、木の幹を盾にして攻撃を受け流した。

爪が木を裂く。

その瞬間、レイは背後へ回り込む。

「今だ!」

棒を振り下ろす。

だが浅い。

魔物は振り向きざまに肩を叩いてきた。

痛み。

視界が揺れる。

「……っ、再生!」


【再生を開始します】


戻る。

今度は、棒を振り下ろす前だ。

「なるほど、ここが甘いのか」

レイは短く息を吐いた。

棒の角度を変える。

踏み込みを深くする。

力ではなく、勢いを乗せる。

次は当たった。

今度は確実に、相手のバランスが崩れる。

「おおっ!」

一歩踏み込む。

二度目。

三度目。

魔物は倒れた。

レイはその場に膝をつき、荒い息を吐く。

「……勝った」

声は震えていたが、確かに笑っていた。

視界の端に文字が流れる。


【討伐成功】

【視聴者数が増加しました】

【再生安定性が向上しました】


「安定性……?」

レイが首を傾げた瞬間、もう一つの文字が浮かんだ。


【録画枠の拡張条件を確認】

【“死亡時の再生”により、記録精度が上がっています】


「……死ぬたびに、強くなるのか」

背筋がぞくりとした。

便利だ。

便利すぎる。

だが同時に、ぞっとする。

この力は、死を前提にしている。

『これは強い』

『でも怖い』

『死ねば死ぬほど最適化される系か』

『配信映えやばいな』

レイは画面を見つめた。

配信映え。

その言葉に、少し引っかかるものがある。

だが今は、それ以上に確かめたいことがあった。

「……まだ終わりじゃないよな」

森の出口付近で、見覚えのある人影が立っていた。

勇者パーティーの伝令だ。

昨日と同じ青年ではない。

今度は中年の男で、真剣な顔をしている。

「レイ・アルド」

男は低い声で言った。

「ガルド様が、お前の動向を確認しろと命じた。……一人であれを倒したのか」

レイは頷かなかった。

否定もしなかった。

「戻る気はあるか」

「ない」

即答だった。

男は眉をひそめる。

「お前の力、ただの記録魔法ではないだろう。……何を隠している」

レイは少しだけ黙って、それから言った。

「隠してるんじゃない。まだ、分かってないだけだ」

男はそれ以上は聞かず、去っていく。

レイはその背中を見送りながら、ゆっくりと立ち上がった。

死んで、戻って、勝った。

たったそれだけなのに、昨日までとは世界が違って見える。

「……よし」

レイは小さく呟く。

「次は、もっと楽に勝つ」

視界の端では、コメントが賑やかに流れ続けていた。

追放された録画魔法士の初日。

死を一度越えた男は、まだまだ伸びていく。

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