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追放された録画士、配信で無双する 12話完結  作者: もかどら


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第1話 追放された録画魔法士

「レイ、お前はもう必要ない」


その一言で、夜営の空気が凍った。

焚き火の赤い揺らめきの向こうで、勇者ガルドが腕を組んでいる。隣には聖女ミリア、少し離れて槍使いのザーク。三人とも、レイを見ていなかった。見ているのは、彼の背後にある荷袋と、明日の魔王討伐へ続く地図だけだ。


「……急に、何を言ってるんですか」

レイの声は、自分でも驚くほど弱々しかった。

「急じゃない」

ガルドは冷たく言い切る。

「お前の役目は記録役として終わった。戦えない、支えにもならない。録画魔法なんて、戦場じゃただの荷物だ」

レイは息を止めた。

録画魔法。

それが、彼の持つ唯一のスキルだった。

戦闘では何の役にも立たない。

危険を察知する索敵魔法でもない。

傷を癒やす回復魔法でもない。

ただ周囲の様子を“記録”し、あとから見返せるだけ。

それ以上でも、それ以下でもない。少なくとも、レイはずっとそう思っていた。


「でも、俺は……」

「もういい」

ミリアが視線を逸らしたまま言う。

「足手まといを連れて行く余裕はないの。あなたも、自分の力が何なのか、もう分かってるでしょう」

分かっている。

だからこそ、何も言い返せなかった。

ザークが鼻で笑う。

「悪いな、レイ。お前は優秀だったよ。記録係としてはな」

その言葉が、最後の一撃だった。

レイは唇を噛みしめ、震える手で荷物を持ち上げる。

反論したところで、結果は変わらない。ここで食い下がれば、追放では済まず、もっと惨めな目に遭うだけだ。

「……わかりました」

それだけ言って、彼は焚き火の明かりの外へ歩き出した。

背中に、誰かが言った気がした。

「せいぜい生き延びろ」

だが振り返らなかった。

振り返れば、きっと泣いてしまうから。


---


街外れの古い空き家は、雨漏りこそしないものの、床は軋み、壁には隙間が空いていた。

それでも、今のレイには十分だった。

荷物を下ろし、床に座る。


「……はは」

乾いた笑いが漏れた。

勇者パーティーの一員だった。

魔王討伐の最前線にいた。

それなのに今は、追放されて、たった一人で廃屋暮らしだ。

「結局、俺は……何もできなかったな」

録画魔法は便利だった。

敵の行動を見返して戦略を立てるには役立ったし、仲間に戦場の様子を伝えるのにも使えた。だが、それだけだ。

それだけで、強敵を倒せるほど世界は甘くなかった。

空腹が胃を刺す。

疲労が一気に押し寄せてくる。

レイは天井を見上げた。

そのときだった。


『接続を確認しました』


「……え?」

耳の奥で、機械みたいな声が響いた。

レイは反射的に起き上がる。

だが、誰もいない。

空き家の中は静まり返っている。

風の音だけが、壁の隙間を抜けていく。

『配信を開始します』

「配信……?」

意味がわからなかった。

次の瞬間、レイの視界の端に、見慣れない半透明の文字が浮かび上がる。


【REPLAY LIVE】

【視聴者数:1】


「……なに、これ」

思わず呟くと、さらに文字が増えた。

『見える?』

『お、配信始まった』

『追放ものか』

『録画魔法って珍しいな』

レイは息を呑んだ。

「誰だ……?」

周囲を見回しても、もちろん誰もいない。

それでも、視界の端には文字が流れ続けている。

まるで、見知らぬ誰かが彼を覗き込みながら、好き勝手に話しているみたいだった。

『とりあえず森行け』

『最初の依頼で化けるやつだこれ』

『でも初心者だと死ぬぞ』

「ちょ、待て……」

レイは混乱したまま、朝まで一睡もできなかった。

---

翌朝、掲示板に貼られていた依頼の中で、目についたのはひとつだった。

「薬草採取……」

報酬は少ない。

だが、今の彼には、これでもありがたかった。

「これくらいなら……大丈夫、だよな」

半信半疑のまま、レイは街の外れにある森へ向かった。

森の空気は冷たく、朝露が草葉に光っている。

危険らしい危険は見えない。

けれどレイは、昨日のことを思い出して慎重に足を進めた。

「……録画開始」

呟いた瞬間、視界の端に表示が出た。


【録画中】

【残り時間:30分】


「やっぱり、何も変わらないよな」

そう呟いた、次の瞬間だった。

ガサッ。

茂みが揺れた。

「っ!」

飛び出してきたのは、牙をむいた小型の魔物――フォレストウルフだった。

「うわ、ちょっ……!」

レイは後ずさる。

だが足元が悪い。

枝に足を取られ、転びそうになる。

狼が飛びかかる。

「――ッ!」

咄嗟に身をひねって避けた。だが、もう一匹が横から迫っている。

逃げ道がない。

視界が白く染まる。

噛まれる。

そう思った、その瞬間だった。

【再生を開始します】

世界が、反転した。

---

レイは、数歩前に立っていた。

「……え?」

さっきまで襲われていた場所の、ほんの少し手前。

茂みは静かで、狼の気配もない。

胸が大きく脈打ち、喉が乾く。

「なにが……起きた……?」

手を見た。足を見た。

痛みはない。傷もない。

夢じゃない。

今、確かに何かが起きた。

そして視界の端に、新しい表示が流れる。


【録画を再生しました】

【残り時間:29分44秒】


「……録画、再生?」

レイは唖然とした。

録画した映像を見返しただけのはずだ。

なのに、現実そのものが“戻って”いる。

『うおお』

『初見で気づいた?』

『それ、やり直しじゃん』

『録画魔法、当たりだろ』

吹き出しの数が一気に増えた。

レイは、ようやく理解し始める。

自分の魔法は、ただ記録するだけのものじゃない。

記録した“直前の状態”へ、世界そのものを再現している。

つまりこれは――

「……やり直せる、のか?」

声が震えた。

信じられなかった。

けれど、目の前の現実がそれを否定しない。

レイはゆっくりと息を吸った。

そして、狼の茂みに向かって、今度は石を拾う。

「だったら……何度でも、やればいい」

石を投げる。

狼が反応する。

位置をずらす。

斜面へ追い込む。

一歩ずつ、少しずつ、死なない形を探る。

失敗しても戻れる。

なら、何度でも試せる。

数度の再生と失敗の果てに、レイはついにフォレストウルフを追い払った。

荒い息を吐きながら、彼は膝をつく。

「……勝った」

たったそれだけなのに、涙が出そうだった。

『おお』

『こいつ、伸びる』

『面白いじゃん』

『次も見たい』

レイは、まだ自分がとんでもないものを手に入れたことを、完全には理解していなかった。

ただひとつだけ分かったのは――

昨日までの自分は、もう終わったということだ。

---

夕方、薬草採取の依頼を終えて町へ戻ったレイは、掲示板の前で見覚えのある顔を見つけた。

勇者パーティーの槍使い、ザークだ。

「おい、レイ」

ザークは、レイの持つ納品書を見て、わずかに目を細めた。

「まさか本当に、一人で依頼を終えたのか?」

レイは答えない。

ただ、静かに彼を見返す。

ザークの口元に、薄い笑みが浮かんだ。

「……面白いことになってきたな」

そう言い残して、彼は去っていった。

レイはその背中を見送りながら、胸の奥で確かに何かが動き出すのを感じていた。

追放された男の物語は、ここから始まる。

失敗を積み重ね、やり直しを武器に変え、やがて世界を揺るがす配信者へ――。

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