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追放された録画士、配信で無双する 12話完結  作者: もかどら


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第11話 帳簿の向こう

地下倉庫の奥で、レイは古びた帳簿をめくっていた。


紙は湿気を吸って少し波打っている。

だが、記録そのものははっきり残っていた。

入荷した荷物、出荷した荷物、日付、受け渡し先。

表向きはただの物流記録に見える。

けれど、何度見ても不自然な箇所がある。

「……同じ品目が、何度も抜けてる」

しかも、その抜け方が妙だった。

偶然ではない。

誰かが意図的に、見せたくない部分だけ消している。

倉庫の奥では、護衛らしき男たちが動き出していた。

気づかれた。

逃がす気はないらしい。

『証拠、出てきた』

『この帳簿、当たりだな』

『裏でかなりやってる』

『レイ、持ち帰れ』

レイは視線を上げた。

視界の端に流れるコメントは、どれも緊張を含んでいる。

向こう側の反応が、今は不思議と心強かった。

帳簿の端に、ひとつの印がある。

見慣れた紋章ではない。

だが、以前見た勇者パーティーの文書や伝令の装備と、どこか似ている。

「……これか」

完全な証拠ではない。

それでも、偶然の一致では済まされない形だった。

そのとき、倉庫の奥から低い声がした。

「そこまでだ」

振り向くと、昼間は荷運びの顔をしていた男が立っていた。

今はもう、その仮面を外している。

外套の下には短剣と符札。

明らかに、表の仕事をしている人間ではない。

「随分と踏み込んだな、レイ・アルド」

レイは帳簿を閉じ、棒を握り直した。

「……名前まで知ってるのか」

「知っているとも。追放された記録魔法士、だろう?」

その言い方で、レイは確信した。

こいつは、ただの下っ端ではない。

自分の経歴を知っていて、ここへ来ることも予想していた。

「誰に頼まれた」

レイの問いに、男はすぐには答えない。

代わりに、倉庫の中を指先で示した。

「ここで動く荷は、ただの荷じゃない。

魔物を寄せる餌も、冒険者を疲弊させる仕掛けも、全部“仕事”のうちだ」

「仕事?」

「表の流れが乱れれば、困る者が出る。

困る者が出れば、助ける者の価値が上がる。

それが積み重なれば、あるべき者に、あるべき評価が戻る」

レイは、その意味をすぐには飲み込めなかった。

だが、少し考えて理解する。


――混乱を作る。

――困らせる。

――その後で、助ける。

――英雄をより英雄に見せるための流れ。


「……馬鹿げてるな」

「だが、効果はある」

男は淡々と返す。

「人は、何も起きない日より、助けが必要な日に目を向ける。

荷が消え、魔物が出て、誰かが困れば、動く者の名は残る」

レイは、胸の奥が冷えるのを感じた。

追放されたあの日、自分は“役立たず”として切られた。

だが今、少しずつ見えてきたものがある。

あの切り捨ても、ただの感情ではなかったのかもしれない。

『これ、かなり黒い』

『勇者側の線、濃いな』

『追放の理由も怪しくなる』

『証拠もっと欲しい』

「……欲しいなら、くれてやるかよ」

レイは小さく呟いた。

男の合図で、周囲の影からさらに数人が現れる。

倉庫の護衛とは違う。

仕事に慣れた、無駄のない動きだ。

「ここで終わりだ。帳簿は置いていけ」

「断る」

短く答えた直後、レイは棒を低く構えた。

戦う。

だが、今ここで全部を倒す必要はない。

必要なのは、帳簿を持ち帰ること。

そのうえで、彼らが何を隠しているかを、次へつなげることだ。

「録画開始」


【録画中】

【残り時間:27分】


相手が一斉に動く。

狭い倉庫の中では、人数の多さが逆に邪魔になる。

レイはその隙を突いて、木箱を蹴り倒した。

ガラガラ、と音が響く。

視界が一瞬切れる。

「っ、待て!」

一人が突っ込んでくる。

レイはその勢いを利用して、別の男へぶつけた。

さらに、支柱の陰へ回り込み、動線を狭める。

戦い方は、もう以前のような無茶ではない。

失敗しないための位置取り。

逃げるためではなく、情報を持ち帰るための戦いだ。

だが、男はそれを読んでいた。

「再生を使うか」

短い声とともに、足元へ符札が落ちる。

空気が重くなる。

どうやら、動きを鈍らせる仕掛けだった。

レイは一瞬だけ足を止めた。

その隙を狙って、別の男が斬り込んでくる。

「っ!」

避けきれない。

レイは咄嗟に叫ぶ。

「録画再生!」


【再生を開始します】


世界が戻る。

数秒前。

符札が落ちる前だ。

「……仕掛ける気か」

今度は、符札を落とされる前に、相手の手元を見る。

どこに仕込むか。

どの足で踏み込むか。

それさえ分かれば、対処できる。

レイは棚を蹴って視界を切り、再び帳簿を掴んだ。

相手の一人が追ってくる。

だが、その動線を木箱で塞ぐ。

「くっ……!」

「遅い」

レイは裏口へ走った。

最初から、ここで勝つつもりはない。

逃げ切ること。

帳簿を持ち帰ること。

それで十分だ。

背後で怒号が上がる。

だが、レイは振り返らなかった。


---


外へ出ると、夜風が頬を冷やした。

手の中には、薄いが確かな帳簿。

そこに記された記録は、ただの横流しではない。

人を困らせ、混乱を作り、誰かの価値を上げるための流れ。

そして、その流れの端に、見覚えのある印が残っていた。

「……やっぱり、つながってる」

完全な答えではない。

だが、十分に“線”になった。

『持ち帰った』

『でかい』

『これは次で繋がるやつ』

『追放の理由、まだあるぞこれ』

レイは帳簿を握りしめた。

勇者パーティーの名が、直接ここで出たわけじゃない。

だが、近いところまで来ている。

少なくとも、あの追放が“ただの能力不足”で片づけられる話ではない可能性が、かなり濃くなった。


「……明日だな」

今日のところはここまでだ。

証拠を持って戻り、次の一手を探る。

そして向こう側では、このつながりに気づいた者たちが、さらに熱を上げるはずだった。

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