戦いの終幕
「……シル、様」
リーフィア様の声に、肩が跳ねる。
……どうする。
否定するか、誤魔化すか。
けれど、そこらに残る氷魔法の残滓と、リーフィア様の確信を持った声。
今更、言い逃れできる状況ではなかった。
……でも、振り返れない。
「っ、シ――」
その時だった。
「あら、もう終わってる!」
突如としてのんきな声が響く。
赤毛の女が箒に乗って窓からこちらを覗いていた。
「……遅い」
「ごめんなさいね。丁度、火にかけた魔法薬がいいところで……」
緊張感の欠片もないイリーに、空気が緩んでいく。
ちらりとリーフィア様のほうを窺えば、安堵の表情を浮かべていた。
強張った表情を思い出す。
……私は彼女を安心させてあげなければいけなかったのに。
「リーフィア様、私は……」
「ストップ! シル、あんたって本当気が利かないわね。こんな部屋で愛の告白なんて、最悪よ」
「はぁ?」
何を突拍子もないことを、と思っていればイリーが言葉を続ける。
「あんた、汚い。汗臭い」
「あせ――」
からかわれたとすぐに分かったが、目を丸くしてこちらを見るリーフィア様と目が合って、黙り込む。
……イリーの言うことを聞くのは癪だが、日を改めた方がいいのは確かか。
「リーフィア様、気が付かず申し訳ありません。安全な場所を用意しますので、本日はお休みいただきたく」
「……そうね。ローリー、ありがとう。私を護ってくれて」
にっこりと微笑むリーフィア様。
その笑顔が、何故だかやけに眩しかった。
「イリー、任せて良いか」
「勿論。皇女ちゃん、私の実家にいらっしゃいな」
「は、はい!」
リーフィア様がイリーの手を取る姿に、何故か胸がざわつく。
……戦闘の余韻で感情が高まっているだけだ。そう言い聞かせた。
「……ローリー」
「はい」
イリーが転移魔法を展開している中、リーフィア様に声を掛けられる。
「貴女は……」
リーフィア様の瞳が揺れる。
「……汗臭くないわ。凄くいい香りがする」
「は……」
転移魔法の光が弾け、リーフィア様の姿が消える。
――しばらく、私はその場から動けなかった。




