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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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7/10

始まりの音



 

 窓の外では虫の鳴き声だけが響いている。

 平和な夜だった。

 

 だからこそだろうか。嫌な予感が消えてくれなかった。


 リーフィア様の部屋の前に立ちながら、私は小さく息を吐いた。

 数日前に聞いたイリーの言葉が頭から離れない。


 ――結界が削られている。

 確実に敵はこちらに手を伸ばしているということだ。


「……静かだな」


 夜風が廊下を撫でる。


 あれから、不自然にならない程度に屋敷の警備を増やし、巡回の間隔も短くした。

 それでも、不安は消えない。


 ――不意に、部屋の中から小さな音が聞こえる。


「リーフィア様?」


 返事がない。

 僅かに眉を寄せながら扉を開ける。


「……ローリー」


 ベッドの上で膝を抱えたリーフィア様が、こちらを見上げていた。


「どうしました」

「……眠れないの」


 弱々しい声だった。

 ここ数日、昼間はジークに任せ、夜間の警備に回っていたため、顔を合わせるのは久々だった。


「怖い夢でも?」

「違うわ。ただ、なんだか落ち着かなくて……」


 リーフィア様は魔力の流れを掴むのが上手い。

 ……何かしらの異変を感じ取っているのかもしれない。

 

 私は少し考えた後、部屋の中へ入った。


「温かいものでも淹れましょうか」

「……ローリー、そういうこともできるのね」

「味は期待しないでください」


 簡易の茶器へ湯を注ぐ。

 静かな部屋に、湯気だけが揺れた。


「どうぞ」

「ありがとう……」


 カップを受け取ったリーフィア様が、少しだけ表情を緩める。


「ローリー」

「なんでしょう」

「……貴女って、不思議な人よね」


 どきり、と心臓が跳ねた。


「急にどうしたんですか」

「最初は怖かったの。口も悪いし、愛想もないし」

「否定はしません」


「でも、すごく優しい」


 不意打ちだった。

 思わず言葉に詰まる。


「……そうでしょう。もっと褒めていただいていいですよ」

「あら、照れているのね」


 リーフィア様が、じっとこちらを見る。

 真っ直ぐな瞳。

 

 ……この瞳は苦手だ。

 こちらの奥まで見透かされそうで。


「ローリーは、どうして騎士になったの?」

「どうして、ですか」

「えぇ」


 そんなこと、考えたこともなかった。

 騎士の家系に生まれて、幼い頃の遊びと言えば剣を振り回すことだったから。


「気づいたら剣を握っていました。父も兄も騎士でしたから」

「好きだった?」

「……どうでしょうね」


 戦うのは得意だった。

 剣も魔法も、人より秀でていたのは事実だ。


 でも……。


「私には、それしかなかったので」


 ぽつりと零れた本音に、自分でも驚いた。

 リーフィア様が静かに目を見開く。


「なんだか、ローリーらしい」


 リーフィア様が小さく笑った。


「私は、貴女が騎士で良かったと思う」

「何故です?」

「だって、貴女が騎士じゃなかったら、私は貴女に会えなかったもの」


 胸の奥が妙にざわつく。

 そういう真っ直ぐな言葉は……困る。

 私とは、正反対で縁遠いものだから。


「リーフィア様」

「なに?」

「それ、口説いてます?」

「へっ!?」


 一瞬で顔を真っ赤にするリーフィア様。


「ち、違うわよ!? そういう意味じゃなくて――!」


 慌てふためく姿が面白くて、少しだけ笑ってしまう。


 ――その時だった。

 不意に虫の声が止む。

 

 ――ぴし。


 微かな音。

 だが、聞き逃すはずがない。

 空気が裂けるような、嫌な音だった。


「ローリー……?」

「私の後ろに」


 突如として、警戒態勢に入った私に戸惑うリーフィア様。


 ――来る。


 次の瞬間。

 窓ガラスが轟音と共に砕け散った。


「きゃっ!?」


 黒い影が、夜の闇と共に部屋へ飛び込んでくる。

 速い。


 咄嗟に生み出した水膜が、短剣の軌道を逸らす。

 ――リーフィア様の首を狙っている。


「っ!」


 影から距離を取り、小刀を抜く。

 すかさず黒い影がこちらへと飛び込んでくる。


 短剣を弾き飛ばし、そのまま相手の懐へ潜り込んで喉を切り裂く。

 だが。


「――ちっ」


 一人じゃない。

 リーフィア様の傍に瞬時に戻る。


 天井、廊下、窓。

 まだ、気配が三つある。


 否、階下からは激しい乱戦の音が聞こえてくる。

 ――陽動か。この分では、応援は期待できそうにない。


 だが、ここまで大掛かりに仕掛けていると言うことはここで決着をつけるつもりなのだろう。


「姫様、私から離れないで」

「ろ、ローリー……!」


 背後で、服の裾にリーフィア様の手が触れる感覚がした。

 小さく震える指は、きっと私に縋りたいのだろう。

 我慢し、悲鳴を飲み込んで必死に立っている。


 ――守る。

 それだけが、静かに胸へ落ちた。


 黒衣の男達がじり、と距離を詰める。

 

 三人の統率された動きを見るに、並の相手ではない。

 この練度の暗殺者を雇えるとなれば、中々の権力者だろう。


 三対一。

 危機的な状況なのに、私の頭は落ち着きを保っていた。

 神経が冴えていく。

 やはり私は戦場に生きる人間なのだろう。


「……かかれ」


 黒衣の男達が、わずかに踏み込む。

 

 ぞくり、と空気が冷えた。

 殺意が、一気に膨れ上がる。


 私は静かに、小刀を握り直した。


 



 

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