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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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6/10

平和な日々



 公開演習から数日。

 リーフィア様がおかしい。


「ねぇ、ローリー」

「なんでしょう」


 明らかに心あらずな様子のリーフィア様が、今日何度目かも分からないため息をつく。


「シル様って、普段はどんな香水を使っていらっしゃるのかしら」

「知りません」


 臭いのするものは痕跡を残すので使わないようにしている――などと答えるわけにもいかず、淡々と返事をした。

 

「好きな食べ物は?」

「さぁ」

「休日は?」

「寝てるんじゃないですか」

「きゃ……!」


 何故か悲鳴を上げながら机に突っ伏したリーフィア様。

 侍女とジークへ視線を向ければ、二人揃って諦めたように首を振った。


「姫様、はしたないですよ」

「だって! あんな完璧な方が、お休みの日は寝ているなんて……!」


 侍女に注意されてもなんのその。

 公開演習の日以降、リーフィア様の超人シル様像はどんどん膨れ上がっていく。


「シルサマも、人間ですよ」

「でも、氷結の騎士なのよ?!」


 理由になっていない。

 

 氷結の騎士と言えど、眠いときは眠い。

 むしろ、私はかなり寝るほうだ。


「ローリーはシル様と親しいのよね?」

「……まぁ」


 リーフィア様にファンサをしたときに、護衛の件に関して触れたのが良くなかったらしい。

 あの後、リーフィア様からはお小言をいただいて大変だった。


「羨ましい……」


 机へ突っ伏したまま、リーフィア様が恨めしそうな視線を向けてくる。

 どう返すのが正解なのか分からず、窓の外に目を向ける。


「……そういえば」


 ふいに、リーフィア様が静かな声で呟く。


「シル様とローリーの声って少し似ている気がするわ」

「なっ……!」


 思わず勢いよく振り返る。

 リーフィア様はきょとんとした顔でこちらを見ていた。


「な、何故そう思ったんですか?」

「え? なんとなく?」


 鋭い。

 妙なところで勘がいい。


「ねぇ、試しにもう少し声を低くしてくれない?」

「嫌です」

「うー、残念」

 

 ……これ、バレてないんだよな?

 恐るべきリーフィア様の観察眼に背筋が凍る。


 薄々、察しているらしいジークまで焦った顔をしていた。

 

「……少し外を見てきます」


 これ以上追求される前に、私は逃げるように部屋を後にした。

 金輪際、シルサマとして接触するのはやめよう。


 ――眩しい。

 屋敷の外へと出れば、照りつける太陽が肌を焼く。


「変わったことはないですか」

「ありません!」


 門前で警備に立つ銀翼の候補生に声を掛けた。

 国賓の護衛としては正直少々頼りない。

 だが、これ以上大規模な護衛を付ければ、国民の反発を招く。

 

 和平を結んだからと言って、憎しみまで消えるわけではない。


 これ以上、敵を刺激すれば――危険が及ぶのはリーフィア様だ。

 危険に晒されているのに、十分な警備ができない。

 この現状に歯がゆく思いながらも、私には何もできない。


「気を抜かないように」

「はっ!」


 元気よく返事をする候補生を横目に、小さく息を吐く。

 リーフィア様がこの国で安心して過ごせるよう、私は力を尽くすだけだ。

 

 ――そう言いながらもどこかで、私はこの穏やかな日々に油断していたのだと思う。


「あ、ディアナ殿! お疲れ様です!」

「今日もお疲れ様……あ、ローリー様!」


 人懐こい笑顔を浮かべて門を潜る商人を無視して、屋敷の中へと入る。

 ぱたぱたと着いてくる足音を聞きながら近くの空き部屋に入る。


「今日は訪問の予定はないと聞いていたが」

「あら? 友人に久々に会えたのに第一声がそれ?」


 にたりと先ほどとは打って変わって、嫌らしい笑みを浮かべる女にため息を吐く。

 商人の姿に形を変えた、大魔女イリーだ。

 魔女の姿では目立ち過ぎるので、こうして変化魔法を使わせている。

 

「気軽に来るなと言っていたはずだ。それも正門を通ってくれば、素性を調べてくださいと言っているようなものだ」

「大丈夫よ。そこら辺は抜かりないわ! なんたって、大魔女様だからね!」


 根拠の無い自信、というわけでもないのが恨めしい。


「それより……結界が薄くなってるわよ」


 先ほどまでの軽薄な笑みが消え、空気が変わる。


 ――結界。

 許可した者以外、屋敷に侵入ができない防護魔法。


 少ない人数でリーフィア様を護衛できているのは、結界によるものが大きい。


「何?」

「誰かが少しずつ削っているみたいね」


 ぞくりと背筋が冷える。

 イリーほどの魔導師が言うのなら間違いない。


「侵入された痕跡は?」

「それはまだ。でも、このままだとそれも時間の問題」


 イリーは窓の外に視線を向けた。

 

 嫌な予感が、現実味を帯び始めていた。


「あんたがいるから、簡単には殺せないでしょうけど」

「……縁起でもない」

「あら。もしものときのために逃げる準備をしていたのはどこの誰かしら?」


 ……今とあのときとでは、状況が違っているのだ。

 リーフィア様を絶対に殺させるわけにはいかない。


「どうする? 結界、補強しておく?」

「……いや、そのままにしてくれ」

「そ」


 気づいたと悟られてはいけない。

 敵は存外、慎重派だ。

 この機会を逃すと当面は姿を現さないだろう。

 ……リーフィア様の安息を願ったばっかりなのに、私は――。


「そういえば」


 イリーが不意に笑みを深める。


「皇女ちゃん、あんたに懐いてるわね」

「護衛を務めるにあたって、良好な関係は必要不可欠だからな」

「へー、なるほど」


 適当な返事にいらっとくる。

 そっちが振ってきた話だろうが。


「何が言いたいんだ」

「別に? バレた時が楽しみだなって」


 ……タイムリーな話題に私は何も言えなかった。


 

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