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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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5/10

銀世界

皇女視点です




 突然始まった下剋上に、演習場は騒然としていた。


 副団長に挑戦を挑んだ騎士候補生。

 その宣言に、会場が一気に熱を帯びていく。


 ――副団長。

 私の心臓もバクバクと音を立てて、高鳴っていくのが分かった。


「も、もしかして……」

「そのもしかしてですよ。皇女様」


 隣でにっこりと笑うのは、ローリーの代わりに護衛に付けられた騎士――レンドール。シル様の弟君だった。


「……候補生もタイミングが悪いな」


 そっと呟かれた声に、どういう意味かと聞こうと思えば、演習場の中央に一人の騎士が姿を現す。


「シ、シル様……」


 甲冑から覗く涼しげな口元。すらりと伸びた背筋。光を受けて輝く銀髪。

 圧倒的な実力が滲み出ていた。

 神々しい。

 周囲のざわめきが遠くなっていく。微笑を湛えたシル様の横顔をずっと眺めていた。


 ――始まりの合図と共に動いたのは、相手騎士だった。

 轟音と共に放たれた炎の奔流がシル様を襲う。


「シル様――っ」


 離れていても感じる熱さに、思わずシル様の名前を呼ぶ。

 

 だが、炎熱で歪んでいた空気が、一瞬で凍りつく。


 パキパキと炎を呑み込みながら氷が広がり、砕け散る。

 氷の破片が陽の光を反射して、神々しく輝く。


「なっ――」


 対峙していた騎士が息を呑む。

 

 シル様は止まらない。

 大剣を片手で軽々と受け流し、そのまま相手の懐へと潜り込む。


 銀の軌跡だけが残り、轟音と共に相手騎士の身体が吹き飛ばされていた。

 観客席からどよめきが上がる。


「氷結の騎士――!」

「本物だ――!」


 熱狂的な歓声が上がる。


 それに応えるように剣を掲げたシル様に目が釘付けになる。


 圧倒的な強さ。

 畏怖すら覚える力。

 でも、それでも――。

 美しい。心の底からそう思った。

 

「だから言ったでしょう? 姉は強いんです」

「本当、その通りだわ……」


 炎熱に包まれていた演習場が、今では銀世界に変わっている。

 これが――英雄。

 私の憧れの人。


「レンドール! 私をぶって!」

「はぁ?」


 一般的に、シル様の得意とする氷魔法と、相手が使う炎魔法の相性は最悪だった。

 でも、シル様が負けるはずがない。なのに、私はほんの少しでも不安になってしまった。


「私、シル様を疑ってしまったの! 恥ずかしくて仕方がないわ……!」

「いや何言って――」


 ひやり、と頬に冷たい感触が触れる。


「リーフィア皇女を殴ったとなれば、クロイス家が取り潰されてしまう。どうか勘弁していただけないだろうか」


 低く澄んだ声。

 凜としていて、それでいてどこか聞き覚えのある声だった。


 ぎぎぎ、と固まった首を無理矢理動かす。

 そこには――。

 美しく輝く氷の騎士が立っていた。


「シ、シ、シル様っ!!!」

「すまない。驚かせてしまったな」


 銀の甲冑から覗く口元が柔らかく笑う。

 わ、私の目の前に、シ、シル様が――。


 心臓がうるさい。

 呼吸の仕方を忘れてしまったみたいだった。


「このような格好で失礼する。私は銀翼騎士団副団長、シル・クロイスだ」

「ぞ、存じております……! わ、私はリーフィアと申します! シル様にお会いできて光栄です……!」


 決死の覚悟で淑女の礼をとる。


 し、失敗していないだろうか。

 変な声ではなかっただろうか。


 頭の中が真っ白で、何も考えられない。


「色々な筋から君の話は聞いているよ。私が直接護衛を務められず申し訳ない」

「あ、い、いえ、その……!」


 声が上手く出ない。


「――では、私はこれで。どうか我が国で良い時間を過ごしてほしい」


 そう言って立ち去っていくシル様。

 伸びた背筋、まるで氷の上を滑るような足取り。


 その全てが神々しくて、胸が苦しくなる。


 シル様の姿が見えなくなっても、暫く私はその場から動けなかった。

 

 どれくらいそうしていただろうか。


「ぶふっ……!」


 隣から聞こえてくる笑い声で、ようやく現実へ引き戻される。


「……何を笑っているの」


 お腹を抱え、涙まで浮かべているレンドールを睨みつける。


「い、いえ、姉のあの似合わない言動がツボに……ぶはっ、絶対あとでからかお」

「それはあまり良い策ではないのでは?」

「あ……ロ、ローリーさん」


 いつの間にか背後に立っていたローリーに睨まれ、レンドールが青ざめる。


「……粗相はありませんでしたか?」

「えぇ、大丈夫よ! それよりローリー! 私、シル様とお話してしまったわ!」


 興奮が抑えきれず、思わずローリーの手を掴む。


「凄く美しくて、凛々しくて……! 試合終わりなのに良い香りまでして……あ、なんだか私変態みたいね……」

「い、いえ……」

「レンドール! 今のは忘れなさい!」」

「は、はい!」

 

 何故かレンドールが肩を震わせ、ローリーは顔を赤くして俯いていた。

 ……変なの。


 けれど今の私にはそんな些末なことはどうでもいい。

 胸の奥に灯った炎はしばらく消えそうにない。


 それから数日間、私は鼓膜の奥に残ったシル様の声に、何度も思いを馳せた。


 

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