表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

才能





 ――数週間後。


「はぁっ……はぁっ……」


 朝露の中、訓練所の外周を走るリーフィア様の息は限界寸前だった。


「息を止めずに。あと一周」

「む、むり、です……っ」

「大丈夫です。死にはしません」

「鬼……!」


 そう言いながらも足を止めずに走り続ける辺り、根性だけはある。

 私は腕を組みながら、その後ろ姿を眺めていた。


 最初は数百メートル走るだけで倒れていたことを思えば、随分と成長したものだ。


「ジーク、お前はどうだ」

「問題ありません!」


 返事と共に剣を振るう音が響く。

 ジークの成長はリーフィア様以上に順調だった。

 元々筋も良かった。鍛えれば鍛えた分だけ伸びる。


 問題は――。


「姫様か……」

「な、なに、よっ!」


 涙目で戻ってきたリーフィア様が抗議の声を上げる。


「ちゃんと走り込みも、筋トレも頑張っているわ!」

「はい。それは本当に。リーフィア様は凄い努力家です」


 運動なんかとは縁遠い生活を送ってきただろうに、泣き言は言えどもメニューをきちんとこなす。

 

「なら――」

「才能がないんです」

「うっ……」


 ぐらりと項垂れるリーフィア様。

 だが、こればかりは努力でどうにかなる問題ではなかった。


 素振りの時点で分かる。

 重心移動、身体の使い方、反射速度。


 根本的に剣技との相性が悪い。


「……ここまで才能がないのも珍しい」

「ひ、酷いわ!」


 不意に口に出てしまった本音には触れず、ジークのほうを向き直る。


「ジーク」

「はっ」

「お前は見込みがある。姫様の分まで鍛錬しろ」

「はい!」

「わ、私の分まで……」


 半泣きでこちらを見るリーフィア様に、小さく息を吐く。


「姫様には申し訳ありませんが、剣技は無理です」

「そ、そんな……」

「ひ、姫様……」


 ジークが膝をつくリーフィア様になんと声をかけるべきかと迷っていた。


「代わりに、別の道があります」


 落ち込むリーフィア様と、それを見て慌てるジークを少し眺めた後、私は口を開いた。


「別の道……?」

「魔法です」

「……魔法?」


 きょとんとするリーフィア様を見詰める。


「リーフィア様は、補助魔法を展開していますね」

「え?」

「走り込みの時も、呼吸に合わせて魔力を身体に循環させ、負荷を軽減していた」

「そう、なの?」


 自覚はなかったらしい。

 補助魔法は初学者が一番に躓くポイントだ。

 基礎中の基礎でありながら、繊細な魔力操作を必要とする。


「では、魔法を学んだことはない?」

「……はい。帝国では、私に教師を付ける余裕はないと」


 これこそ、才能だ。

 剣は壊滅的だが、魔導師としては怪物級かもしれない。


「リーフィア様」

「は、はい!」

「魔法の師匠を紹介します」


 その瞬間、リーフィア様の表情がぱっと明るくなる。


「ほ、本当ですか!?」

「えぇ。少々――性格に難がありますが、腕は確かです」

「性格に難……?」


 ――


 ――数日後。


「あら! 貴方が皇女ちゃんね!」


 部屋に響いた明るい声に、リーフィア様の肩がびくりと震える。

 

 入ってきたのは、艶やかな赤髪を揺らす女だった。

 胸元の大きく開いたローブ。不敵な笑み。そして、部屋の空気を支配するような圧倒的魔力。


「……ねぇ、ローリー」

「なんでしょう、リーフィア様」

「も、もしかして、この方――」

「年増おばさんです」

「誰が年増よ」


 即座に頭を叩かれる。


「大・魔・女・様、ね?」


 にっこりと笑う女――大魔女イリー。

 王国最強の魔導師にして、私の数少ない悪友である。


「ロ、ローリー……貴女、何者なの……?」

「王子の私兵です。それ以上でもそれ以下でもありません」

「それは流石に無理があるわよ、アンタ」


 けらけら笑うイリーに、ため息をつく。


「リーフィア様、この年増女様の魔法関連以外の話は聞き流してください」

「わ、わかったわ!」

「あら、皇女様。大胆なお返事をなさるわね?」

「あ、ご、ごめんなさ――」

「……リーフィア様をからかうな。姫様、聞き流せていませんよ」

「あ……」

「純粋な子ってからかい甲斐があっていいわ」

 

 性格以外はリーフィア様の魔法の先生として完璧なのだが……。

 ちらりとリーフィア様を見る。


 不安と緊張。

 だが、それ以上に期待が勝っていた。


 ――真っ直ぐだな。


 和平の証として、異国へ送られ、それでも前を向いて自分の力で生きようとしている。


 ……放っておけない人だ。 

 そんな風に思ってしまった時点で、きっと私はもう駄目だったのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ