真っ直ぐな瞳
「お初にお目にかかる。本日より皇女様の護衛を務める、ローリーだ。見ての通り粗野な口調で申し訳ないが、よろしく頼む」
「……はぁ」
頭を下げれば、上からため息が降ってきた。
「ひ、姫様?! 失礼ですよ!」
「……だって。シル様が来てくださるかなって、ほんの少しだけ期待していたの……」
「申し訳ない」
頬を膨らませる第三皇女――リーフィア様。
兄が隠していたもう一つのバレてはいけない理由。
――この皇女様、どうやら私の大ファンらしい。
一兵士に過ぎない私をどこで知ったのか知らないが、それはもう凄まじいほどの熱を持っているらしく。
……お前がこんなのだと知れば、皇女ががっかりするだろうから隠し通せ、と。
なんて失礼なと思ったが、この様子じゃ反論できそうもない。
任務が終わった後も、シルとして会うのはやめておこう。
心の中でそう決めた。
「……貴女、腕は確かなのよね?」
「多少は」
「なら、私の騎士と勝負してくださらない? 勝てば護衛だと認めるわ。負けたらシル様と交代して欲しいの」
「ひ、姫様! なんて失礼を!」
慌てる侍女を手で制する。
こんな憧れを抱かれるような人間ではないのだが……。
なんだかむず痒い。
「構いませんよ」
「え?」
リーフィア様が目を丸くする。
「あぁ、シルサマの件ですか。大丈夫です。私が勝ちますので」
「ふ、ふん! ジーク! 本気でやりなさい!」
「はっ!」
ジークと呼ばれた青年は、恵まれた体躯を持つ若い騎士だった。
所作も綺麗で、筋肉量も申し分ない。
……まさにこれからの騎士だ。
――
「……参りました」
「いい剣だった。あと数年もすれば、私などすぐ抜くだろうな」
座り込んだジークに手を差し伸べる。
彼の剣は、美しい。
それはもう、嫌みなほどに。
皇女を護衛するには、あまりにも経験不足だった。
戦争が終わった今なら、もっと腕利きを付けられるはずだ。
この皇女様、自国でも随分と立場が弱いらしい。
「ジーク」
「……姫様」
訓練所に入ってきたリーフィア様が、静かに彼に声を掛ける。
「彼女の実力は信頼できるのね?」
「……はい。俺より遥かにお強いです」
意外だった。
負けた騎士を責めるかと思ったが、そんな素振りはない。
「……ローリー。頼みがあるのです」
「私にできることなら」
リーフィア様は真っ直ぐに私を見つめた。
「私に、剣を教えて欲しいのです」
その瞳には、焦燥が滲んでいた。
リーフィア様から視線を外すと、悔しそうに拳を握るジークと心配そうな表情を浮かべる侍女が見えた。
「私の稽古は厳しいですよ」
「承知の上です!」
即答だった。
「私、自分の力で生きていきたいの……だから、お願い!」
――真っ直ぐな瞳だった。
和平の証として、異国へと送られ、それでもなお自分の足で立とうとしている。
……厄介な任務を引き受けた。
だが、久々に高揚している自分がいるのも事実であった。




