とある方の護衛任務
「お前にとある方の護衛を頼みたい」
帝国との長い戦争が終わり、ようやく手に入れた休暇。
昼間まで惰眠を貪っていた私を呼び出した兄の言葉で、寝惚けていた思考が冴えていく。
「……何故私なんだ?」
「帝国から親善訪問で第三皇女が来る」
「他に頼め」
私は公人の護衛を務められるような騎士ではない。
泥臭い戦場でこそ、輝く人間だ。
……別に、小難しい貴族の相手をしていると手が出そうになるからではない。
「……殺害予告が届いている。差出人はこの国の人間である可能性が高い」
「……なるほどな」
隣国――アルベール帝国との戦争は、和平という形で締めくくられた。
私が生まれる前からあった戦争は、両国の疲弊により停戦した。
つまり――皇女は和平の証。
言葉を選ばずに言えば、人質だった。
「皇女側が女性騎士をお望みだ。それにお前、もう騎士団辞めるんだし、暇だろ?」
長い間頑張ってきた妹に対する思い遣りの欠片もない。
「言っておくが、礼儀などは知らんぞ」
「気にしないらしい。とにかく腕が立つ女騎士をご所望だ」
面倒くさい。
それはもう、非常に面倒くさい。
だが、断る理由を潰されるとどうしようもない。
「……そこまで言うなら受ける」
「助かるよ」
にたりと笑う兄。
……どうせ、私が頷くまで部屋から出さなかったくせに。
昔から、兄に口で勝てた試しがない。
「……あとな、今回の任務はお前がお前だとバレちゃいけねぇんだ」
嫌な予感がした。
「……なぜだ?」
受ける、と断言したのは尚早だったかもしれない。
皇女の機嫌を取りながら、適当に任務を終わらせる予定だったが――。
「犯人に警戒を悟られないためってのが1つ」
随分と思い切ったことをする。
国賓を囮にして犯人を炙り出すつもりらしい。
……万が一に備えて、逃走経路くらいは確保しておくか。
「もう1つは?」
「……ま、それはお楽しみだ」
「はぁ?」
参加必須だと口酸っぱく言われてきた凱旋パレードや舞踏会ですら、全てすっぽかしてきた。
私の姿形を知るものは、騎士団の連中と限られた友人のみだ。
それが今回、それなりの実力と秘匿性を兼ね備えた任務に適切な人員となってしまったようだ。
「悔しいが、私以上に適任はいなさそうだな」
「念には念を入れて、任務中は髪の色と目の色を変えてもらう。それと、魔法も極力使うな。この国で水属性の魔法をそれだけ操れるのはお前しかいないからな」
「……善処するよ」
さようなら、私の平穏な引退生活――。




