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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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17/20

渦巻く感情




 ――自分がおかしい。

 昨日リーフィア様に、顔を見たくないと言われてからというもの、思考が回らない。

 酷い虚無感に襲われていた。


「あら、氷結の騎士様の名が泣くわね」

「……そうだな」


 リーフィア様に会わないよう、外門の警備に当たっていれば、イリーが私を茶化しに来る。

 だが、それに乗っかってやる気力も出ない。

 早く飽きてどっか行ってくれ……それだけをぼんやりと考えていた。


「そう言えば、皇女ちゃん今日は元気だったわよ」

「そうか」

「ジークとお茶してたわ」

「……そうか」


 何故か胸の奥が妙にざわつく。


 ジークは帝国の騎士で、年齢も近い。

 話も合うだろうし、気心も知れているだろう。


 それに……リーフィア様には、好きな方がいる。

 ジークではないかもしれないが、私は応援すると決めたのだ。

 喜ばしいことのはずで、何もおかしくなんてない。


「皇女ちゃん、凄く楽しそうだったわ」

「……良かった」


 どくりと胸の奥が嫌な音を立てる。

 

 良いことだ。リーフィア様が元気で居てくれるのなら。


「本当、お似合いって感じよね。可憐なお姫様と、誠実な騎士様って感じで」

「……」


 何も、言えなかった。

 言いたくなかった。例え、それがただの相槌だとしても肯定するようなことは――。


 嫌だ。

 不意に、そんな言葉が頭を過ぎった。


 「……っ」


 ジークは信頼できる男だ。

 騎士としても優秀で、リーフィア様を護ることもできる。

 隣に立つのに相応しい男だ。


 なのに、どうして、隣にいるのが私ではないことが、こんなにも嫌なんだ。


 思考がまとまらない。落ち着かない。

 自分の中で何かが暴れているみたいだった。

 

 ぱき。

 小さな音がした。


「なっ」


 視線を落とせば、足元の石畳に白い霜が広がっていた。

 私から伸びた白い結晶は、壁を凍らせている。


「へぇ」


 隣でイリーが楽しそうに笑う。


「これは?」

「こ、れは――」


 言葉が出なかった。

 感情に任せて魔力を漏らすなんて、訓練中の子供だ。

 私は――。


「シル様!!」


 聞き慣れた声に、反射的に顔を上げた。


「何かあったのですか?!」


 血相を変えたリーフィア様が、こちらへ駆け寄ってくる。


「リーフィア……様」


 その瞬間だった。

 ぴたりと頭の中を掻き回していたものが止まる。


 リーフィア様の顔を、声を聞いただけで気持ちが落ち着く。

 あれほど暴れていた感情が、嘘みたいに静かになった。

 漏れ出ていた魔力が、すっと収まる。


 ……何故だ。

 何故、リーフィア様の顔を見ただけで……。


「シル様?」


 心配そうに私の顔を覗き込んでくるリーフィア様から半歩後ろに下がる。

 ……近い。


 リーフィア様の使っている香水が鼻を掠めるだけで、胸の奥が今度は違う意味で騒がしくなる。


「……っ、何でもありません。ご心配をおかけしました」


 頭を下げ、リーフィア様の元から立ち去る。

 否、逃げた。

 

 認めたくない気持ちからも逃げたかった。


 私が一番、抱いてはいけない感情だったから。




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