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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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16/20

大魔女様


 *皇女視点



「~~っ!!」


 部屋に戻り、ベッドに顔を埋めて足をばたばたさせる。

 侍女に見つかれば、はしたないと咎められるけれど、今はこの衝動を抑えきれなかった。


「シル様のばかっ!」


 ――私と結婚してください。


 その言葉を聞いたとき、頭が真っ白になった。

 夕陽の射す、綺麗な庭で憧れのシル様からのプロポーズ。

 ……でも、その夢は一瞬にして崩れていった。

 

 ――相手が誰であっても、貴女が選んだ人なら応援します。


 シル様の言葉が頭の中で繰り返される。

 シル様は、結婚相手が他の誰かを好きでも、愛人がいても平気。


 ――私は、誰よりも貴女の幸せを願っています。

 飛びっきり優しい声で、とっても酷いことを言う。

 シル様の言葉は彼女の善意に溢れていて、それが苦しかった。


 「私なんて眼中にない……」


 ――リーフィア様が好きな方と結ばれる方法、一緒に考えます。

 トドメだった。

 むしろ、私の気持ちを知っていて遠ざけているのかと思うほどに。


 ぼふぼふと八つ当たりに枕を殴っていれば、月明かりに影が差す。


「青春ね!」

「イ、イリー様?!」


 窓の外には、ほうきに跨がったイリー様が楽しそうな顔をして浮かんでいた。



 ――


「さ、聞かせて貰うわよ」

「……」


 窓から入ってきたイリー様は驚く私をよそに、優雅にソファに腰掛ける。


「あの、どこまでご存じなんですか?」


 シル様は現れた時、転移はイリー様の悪ふざけだと仰っていた。

 どこからどこまでが、イリー様の思惑で、どこからどこまでがシル様の言葉なのかをはっきりさせたかった。


「そうね。シルが皇女ちゃんを帝国に返したくないから、色々考えた結果結婚しかない! って結論に至ったってところまでかしら?」


 シル様も、いつかは私が帝国に帰ることになると仰っていた。

 でも、そんな話はない。と言うか、兄上からはその真逆のことを勧められていて……。

 

「その、私が帝国に帰るという話はどこから……?」

「あぁ。それは私が焚きつけるために言っただけ」

「……え?」


 頭の中が真っ白になる。


「シルってば、最近安心しきってたから。ちょっと危機感足りないなーと思って」


 イリー様は悪びれもせず紅茶を口に運ぶ。


「シルって鈍い上に、慎重でしょう? きっかけがないと動かないのよ」

「……」

「そしたら、予想以上に楽しいことになったの!」


 ケラケラと笑うイリー様に、頭が痛くなってくる。

 ……シル様が言っていた、イリー様が関わるとろくなことにならない。という言葉が脳裏に浮かんだ。


「だから、私は最初の火種を作っただけ。その後は勝手にシルが暴走して、結婚まで飛んだの」


 私が聞きたかったことを察したイリー様は優しく微笑む。


「シル様……」


 私のことを最優先に考えて、これからもずっと護ろうとしてくれている。

 ……でも、その優しさに甘えていたら私は何をするか分からないと思った。


 今でさえ、シル様の気持ちに勝手に傷ついて、遠ざけるようなことをしてしまったのだ。

 きっと、私は……。


「ちょいちょいちょい! なんか変な方向に考えてない?」


 イリー様が焦ったように私の目の前で手を振る。


「変な方向って……」

「揃いも揃って、ネガティブなんだから!」


 はぁ、と大袈裟にため息を吐くイリー様。


「皇女ちゃん、今――シル様は優しいだけ、って考えたでしょう!」

「……はい」

「それよ!」


 びしっと指を差される。


「皇女ちゃんを王国に残したいだけなら、他にも方法はあったのよ」

「……え?」

「婚姻なんて、シルじゃなくてもいいじゃない。適当にお見合いさせとけばいいのよ」

「そう、ですね」


 シル様にお見合いを勧められる――。

 その想像にずんと身体が重くなる。

 ……な、無かったことを考えて落ち込むのは止めよう。


「シルって、面倒くさがりでしょう?」

「……はい」

「でも、面倒見はいいのよね」


 イリー様が頬に手を当てる。


「困っている人を見たら放っておけないし、頼られたら文句言いながら引き受ける」


 私の護衛なんてその最たる例だと思う。

 失礼な態度を取ったのに、剣を教えて欲しいと言えば教えてくれた。

 魔術の才能があると、イリー様を紹介してくれた。


「でもね」


 イリー様が少しだけ真面目な顔になる。


「シルは、他人の人生を軽く扱わないわ。責任感だけは無駄に強いの」


 イリー様が肩を竦める。


「だから、頼まれたことと、自分で背負うことはちゃんと分けているのよ」

「……?」

「結婚を、手段だからで選ぶような人間じゃない」

「……え?」


 でも、王国に残る手段だって――。

 シル様の言葉を思い出して、つい俯けばイリー様が頭の上にぽんと手を乗せる。


「シルのお守りも大変ね。でもね、皇女ちゃん」


 イリー様が少しだけ悪い顔で笑う。


「あいつ、自分のこともろくに分かっていないのよ」

「どういう――」

「だからね、確かめればいいのよ」

「えっと……」


 困惑する私の頭をぽんぽんと撫でながら、イリー様は楽しそうに続ける。


「だから、試してみましょう」

「試す?」

「えぇ!」


 突如として立ち上がったイリー様は、目をキラキラさせていた。

 ……ごめんなさい、シル様。

 何かは分からないけれど、きっとシル様は怒るのだろうなと思いながら心の中で謝る。


「明日から楽しくなるわよ!」



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