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皇女様は氷結騎士の大ファン  作者: ぽみにょ


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15/20

選択肢



「……」


 少しの間、リーフィア様は身体を硬直させ、顔を真っ赤にしていた。

 風が金色の髪を揺らす。


「リーフィア様?」


 声を掛ければ、びくりと肩を揺らす。


「けっけけけっ……」

「……?」

「けっこん?」


 気が動転した様子のリーフィア様に、自分の言葉が足りなかったと思い至る。

 

「驚かせてしまいましたね。順を追って説明します」


 落ち着かせるためにそう告げれば、リーフィア様は勢いよく頷いた。


「まず、リーフィア様はいつかは帝国に帰らねばならない」

「……えぇ」

「ですが、帝国は危険です」


 継承争い、反和平派の襲撃。

 一つずつ説明していく。


 リーフィア様は、真剣な顔で私の言葉を聞いてくれた。


「リーフィア様の安全を考えれば、王国に残るほうが安全です」

「……そうね」

「そして、王国に残るためには大義名分が必要になります」


 ここまでは問題ない。

 リーフィア様も納得したように頷いている。


「そこで結婚です」

「……」

「和平の象徴である帝国の皇女と王国の騎士の婚姻。政治的にも自然です」


 にっこりと笑ってみせる。

 だが、リーフィア様は眉間にしわを寄せ、何かに耐えるような顔をしていた。


「……リーフィア様?」

「あ、ありがとうございます! 私のことを心配して提案してくれたこと、とっても嬉しいわ」


 取って付けたような感謝の言葉に、考えないようにしていたものが浮かび上がる。

 何故か、このことを考える度に胸が苦しくて、逃げていた。

 

「……好きな方がいるのですか」

「え?! す、好きな方……」


 リーフィア様が目を丸くする。

 更に顔を真っ赤にするリーフィア様に、私の予想が当たったことが分かった。


「……誰です。ジークですか、帝国にいる誰かですか、それとも王国の人間ですか」

「あ、あのシル様」

「そいつは……」


 出しかけた言葉をぐっと呑み込む。

 衝動的に出ようとした言葉は、リーフィア様には聞かせられるようなものではなかった。

 私は、何故こんな……。


「大丈夫です。リーフィア様」


 胸の奥が妙に重い。

 だが、それを表に出すわけにはいかない。


「私は、誰よりも貴女の幸せを願っています」


 しっかりとリーフィア様の目を見据える。

 リーフィア様の笑顔を、幸せを護りたい気持ちが伝わるように。


「相手が誰であっても、貴女が選んだ人なら応援します」

「――っ」


 リーフィア様が息を呑む。


 何故か俯いてしまった。

 表情が読めず、胸がざわつく。

 ……恋愛話なんて縁がなかったから。


「安心してください」


 不安を取り除くように言葉を続ける。


「私との結婚は、あくまで王国に残るための手段です」

「……しゅ、だん?」

「婚姻関係さえあれば、リーフィア様は王国で正式な立場を得られます」


 私という後ろ盾があれば、帝国からも簡単には干渉ができない。


「……好きな方がいるのなら、遠慮する必要はないんです」


 優しいリーフィア様は、私を利用することになると考えているのかもしれない。

 でも、そんなこと気にしないで欲しかった。


「貴女には、幸せでいて欲しい」

「……」


 リーフィア様は俯いたまま動かなかった。


 ……それもそうだ。

 急にこんな結婚話を持ちかけられた上に、好きな相手の話までさせられて混乱しないはずがない。


「突然申し訳ありません。あくまで、一つの案です。ただ、こういう選択肢があることを知っていて貰えればと――」

「シル様」


 私が言い訳を並び立てていれば、目に涙を浮かべたリーフィア様が顔を上げる。


「……はい」

「シル様は、私が愛人を作ってもいいの」

「……はい」


 私との婚姻という形でリーフィア様の人生を縛ってしまうのだ。

 好きな相手と幸せに生きる支援は惜しまない、つもりだ。


「相手にも説明が必要ですから、婚姻をお話しする前に話し合いの場を設けましょう」

「……っ」


 リーフィア様の肩がぴくりと震える。


「やだ」

「……はい?」

「嫌です!」


 リーフィア様は真っ赤な顔で、涙目でこちらを睨んでいた。

 ……何か気に障ってしまっただろうか。


「愛人なんて、いりません!」

「……ですが、好きな方が」

「す、好きな方はいます!」


 リーフィア様が叫ぶように私の言葉を遮る。


 ……どういうことだろうか。

 愛人は嫌で、好きな相手はいる。


 私は一つの答えに辿り着く。


「……なるほど」

「え?」


 リーフィア様が目をまん丸する。

 鈍い私のせいで皆まで言わせてしまって申し訳ない。


「つまり、好きな方と真剣なお付き合いを望まれているのですね」

「……え?」

「愛人という形が嫌なのも当然です」


 日陰の関係を望むような人間はいない。

 こちらの都合ばかり押し付けてしまっていたことを後悔する。


「好きな方と、ちゃんと結婚したいんですよね」

「――っ!?」


 リーフィア様が口元を押さえる。

 ……間違っていないはずだ。


「安心してください」


 一歩近づき、真っ直ぐに目を見る。


「リーフィア様が好きな方と結ばれる方法、一緒に考えます」

「っ」


 ぼん、と音がしそうな勢いで顔が赤くなるリーフィア様。

 本当に可愛らしい人だ。

 こんな人に好かれるなんて、なんて羨まし――。


「……?」


 何か妙な違和感があった。

 今、私は何を考えて――。


「皇女様ぁぁぁぁ!!」

「ご無事ですか!!」


 庭園に悲鳴のような声と、複数の足音が庭園に響く。

 護衛の騎士達がようやく、皇女様を見つけたらしい。


「あっ、ふ、副団長!」

「ご、ご一緒だったんですね……」


 隣に私の姿があるのを見て、上気させていた頬を青くさせる部下達。


「……イリーの仕業だ」

「なら……!」


 部下達が露骨に安堵の息を吐いた。

 その反応に、こめかみがぴくりと跳ねる。


「なら、何だ」

「い、いえ! も、申し訳ありません! 副団長!」


 私の声色で察知したらしい部下達は、背筋を正し、直角に頭を下げる。


「……訓練内容を見直す。リーフィア様をお連れしろ」

「はっ!」


 青い顔のまま敬礼した部下達は、気合いを入れて周囲を見渡していた。


「シル様」

「はい」


 騎士に囲まれたリーフィア様が声を掛けてくる。


「結婚の話は一度保留にさせてください」

「勿論です。リーフィア様のお心のままに」


 ほっとした。

 急な話だったから、時間が必要なのは当然だ。

 それに私はいつまででも待てる。


「あと……」

「はい」


 リーフィア様が潤んだ目でじっとこちらを見る。


「し、しばらくシル様のお顔を見たくありません!」

「……はい?」


 そのまま護衛達に囲まれ、逃げるように去って行くリーフィア様。

 残された私は、その背中が見えなくなってもその場に立ち尽くしていた。

 


 

 

 

 

 

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